見出し画像

ザウアークラウトを「推し活」する(食べ方を追求するの巻)


写真にうつっているのは恥ずかしながら自家製ザウアークラウトを具にしたマイおやき。


自家製のザウアーウラウトおやき

長野県の郷土食おやきの具にドイツの国民食、ザウアークラウトを組み合わせるという日本とドイツの食のいいとこどりをしたアイデアを思いついたのはドイツ最南端の町、オーバーストドルフへの旅から。日独の味をつないだ旅の顛末をお届けしよう。

◎スキージャンプ週間の初戦の地、オーバーストドルフ

オーバーストドルフストドルフという地名をどこかで聞いたような、と思った方もいるかもしれない。人口一万人をちょっと切るドイツ最南端に位置するこの町は年末年始にドイツとオーストリアで開かれるスキージャンプ週間の幕を切る開催地として知られている。

ドイツ語で4大ジャンプツアーと称される大会は1953年から行われており、ジャンパーは毎年12月の29日から翌年の1月の6日までオーバーストドルフ、ガルミッシュ・パルテンキルヒェン(いずれもドイツ)、インスブルック、ビショッフスホーフェン(いずれもオーストリア)の4カ所を転戦しながら競う。

オーバーストドルフ駅前

電車がオーバーストドルフの駅に近づくとノーマルヒルとラージヒルが並ぶジャンプ台が山の中腹に見えてくる。テレビ中継でみても迫力があるが、実際に生でジャンプ台を見るとものすごく高い所から飛び降りているのがよくわかる。空高く舞い上がり、1センチでも遠くへ飛ぼうとする選手たちの姿は美しく、ジャンプ週間は1年の最後と新しい年を飾るにふさわしい。

◎「ワイルドマン」の銅像がお出迎え

駅を降りるとなまはげを彷彿とさせるような草のようなコケのようなもので身を包んだ男性「ワイルドマン」の銅像が出迎えてくれる。これは土着のゲルマン教に発し、中世に形作られた森の原始人みたいな生物という。オーバーストドルフでは5年ごとにこのワイルドマンに扮した男性たちがゲルマンの神トアに敬意を表したり豊穣を願う踊りが催される。

野生人の銅像

この銅像以外は駅前には何もない。普段ならばこんなもんだろうと通り過ぎるが、オリンピックイヤーで、しかも開幕まであと一週間に迫っている時期に来たのに何かさびしくありませんか?

ウィンタースポーツが盛んなだけに地元からもジャンプやノルディック複合などの競技に世界トップクラスの選手が北京入りしている。日本ならば「xx選手頑張れ!」「はばたけ、世界へ」みたいな激励の横断幕が駅前の建物にでもかかってそうだが、そんな類のものは一切なし。

スポンサーの関係なのか、そんなドロくさいことはやってられないというプライドなのか。。。個人的には郷土からの応援ってプレッシャーかもしれないけれど、ものすごく嬉しいだろうと思うのであらら、冷めてらっしゃるって感じ。

◎アルゴイ地方の郷土料理、クラウトクラップエン

駅から延びていく道を歩いていくと、スキーやスノボーを抱えた人たちとすれ違うが、今回の旅の目的はスキーでもそりでもない。オーバーストドルフが含まれるアルゴイ地方の郷土料理‘’クラウトクラップフェン”めがけて突進あるのみ。

クラウトクラップフェン目指して突進する

この料理を知ったのは料理好きなアルゴイ出身の同僚にザウアークラウトについて根ほり葉ほり聞いていたときのことだった。お母さんがよく作ってくれたというエピソードを聞きながら、クラプフェンといえばドイツ語で一般的にジャムが入ったドーナッツを意味するのでてっきりロシアのピロシキのようなものを想像していた。ところが家でネットを調べるとどうも違う。写真だと薄い生地にザウアークラウトが包まれていて春巻きみたいにみえる。

さらにレシピをたぐっていくと、ユーチューブでオーバーストドルフケーブルテレビのチャンネルで、実際に作られているのを目にした。大まかにはベーコンと炒めたザウアークラウトをパスタ生地でぐるぐると包み、輪切りにしてそれをプライパンで焼いて最後に溶かしバターがたっぷりとかけたもの。

アルゴイ地方はオーストリアと国境を接している関係で粉もの文化がオーストリア同様に発達している。あと酪農も盛んなので乳製品は特産物の一つ。ふんだんにバターを使っているのもこれまた納得だ。

ザウアークラウト推しとしてはこの料理を見逃す手はない。けれども自分で作るとアバウトに自己流に変えちゃいそうなのでまずはアレンジのない本場の味を知ろうとオーバーストドルフに出っ張ることに決めた。

◎お腹がいっぱいにならない・・・

けれども郷土料理とは名ばかりなのか、見かけるレストランのメニューをなめるように品定めしてもちいともその料理名が見あたらない。せっかくオーバーストドルフに来たのに。。。。と思っていたところでようやく一軒のドイツ料理のお店で「クラウトクラップフェン」の字を発見した。

クラウトクラップフェンをようやく発見!

さあて、意気揚々と注文して出てきたのが下の写真。サーブされてちらっと頭をよぎったのはいつもならばドイツ料理を食べるときには夢にも考えない「これでおなかいっぱいになるかしらん」ということ。付け合わせは塩もみ大根、それに真ん中はカイワレと葉物のサラダ。主菜がザウアークラウトで薄い生地にくるまれているだけなのでヘルシーなことこのうえないが、どうもボリューム的には心もとないぞ。

いやいや、それは気のせい。きっとドイツ人の胃袋を満足させてくれるようなこってり感がクラウトクラップフェンにあるに違いない、と思ってナイフを入れて一口パクリという。毒を抜かれた毒ヘビのようにザウアークラウトの酸味がない。そういう意味では食べやすい、けれどパンチがちっともない。。。。
サラダのドレッシングの味がやけにキツイ。

パイ生地(とみられる)に包まれたザウアークラウト

ゆっくり食べてお腹を満たそうと思うものの、いずれも歯ごたえはないのでガンガン食べてしまって、お皿は瞬く間にあら、空っぽ。ドイツ料理を食べ終えてさらにがっつりデザートでも行こうか、なんて思ったのは初めてだ。粉ものデザートの代表格、パンケーキをぼろぼろにして甘いソースをかけたカイザーシュマルンなんていいですな、なんてしまいには隣のテーブルをうらやましげに眺める始末。

しばし考えた挙句、いや待て、もしかしたら満腹感はあとから来るのかも、と淡い期待を持ってレストランを後にした。締めて15.90ユーロなり。(でも歩いているうちにどうにも落ち着かなくって結局パン屋さんでパンを購入してようやく満足)

◎日本選手をリスペクトしてくれるジャンプ週間

町の中心地から離れて付近を散策してみた。春を少し感じさせてくれる太陽の光、くじらのように流れる雲と雪をかぶった雄大な山並み。クロスカントリーを楽しむ人々の姿と彼方にみえるジャンプ台。



ノーマルヒルとラージヒルのジャンプ台

オーバーストドルフを初めて訪れたのになぜか懐かしいような親しみを感じるのはジャンプ週間の影響かもしれない。2021ー22シーズンは18ー19シーズンに次いで小林陵侑選手が制した。そしてドイツチームには彼と常に優勝を競うオーバーストドルフ出身でエース、カール・ガイガーがいる。

テレビを中継する立場からしたらやはりドイツ人に勝ってほしいだろうし、その気持ちが解説やコメントとかに出ても当然だと思うのだが、ジャンプ週間をみる限りでは小林選手(だけではないけれど)に対するリスペクトがものすごく感じられる。コミュニケーションの問題もあってか、Ryoyu Kobayashiはとらえどころのない不可思議な存在とみられているようだけれど、それでもその抜きんでた才能を評価し、勝利も彼の揺るぎない実力の証として認めてくれている。

◎おやきはクラウトクラップフェンへのリスペクト

同じ日本人としては誇らしく、うれしい。その気持ちを表現してマイ、ザウアークラウトおやきに至った。

ミュンヘンに戻って考えたのは、いかにクラウトクラップフェンの良さを生かせるかだった。これじゃお腹が持たない。。。とか不満を言っている場合ではない。というかレストランで食べていて思ったのは、この一品は外でかしこまっていただくものではないだろうということ。

家であるいはフィンガーフードとして手軽に食べるのがベターなのかもと思いながらイメージしたのが野沢菜のおやき。粉ものの良さが活かされるおやきにすれば生地がぶ厚くなって食べ応えがある。ザウアークラウトの良さは疑う余地がないし、酸味は疲れをとる働きがあるからスキーとかの合間に食べる軽食としていいんじゃないかなとふと思いついた。

そう、このおやきはクラウトクラップフェンへのリスペクトを表した一品なのだ。

試作品の具はザウアークラウトをベーコンと一緒にオリーブオイルでいためたもので、皮は渡辺あきこさんのおやきの皮を参考にした。

酸味をもう少しとったり、まろやかな味にするためにオイルをバターにした方がいいのかもとまだまだ試行錯誤中なり。もしどなたかが美味しく作れたらぜひレシピをいただきたいデス。

ただいま北京五輪が開催中。小林陵侑選手の活躍でジャンプも注目されていますね(ミックスはどうにもショボンなことになってしまいましたが・・・)。日本が、とか国のためのメダルじゃなくって、オリンピックという4年に1度の舞台に向けて毎日毎日、練習を重ねて苦しい時も乗り越えてきた選手の努力が少しでも報われてほしい、それがメダルという形で彼らの胸に輝いてくれたらたらなおいいなーメダルのようにまん丸いおやきを作りながらそう思いました。日本選手もドイツ選手も、いえいえ五輪に参加する全選手がどうか自身の持っている最大限の力を出し切れますように!


この記事が参加している募集

つくってみた

この街がすき

いただいたサポートは旅の資金にさせていただきます。よろしくお願いします。😊