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白いライラックがふたたび咲くころに。。。

♫スミレのはーなぁーさーくぅころー♬

ヅカファンならずとも声を1オクターブ高くして口ずさんでしまう「すみれの花咲くころ」(白井鐵造 日本語詞)。その原曲は1928年にドイツで売り出された「白いライラックの花がふたたび咲くころ」です。

タカラヅカの象徴となった経緯はこちら。

「すみれの花咲く頃、初めて君を知りぬ……」というこの歌の原曲名はドイツ語でWenn der weisse Flieder blüht(白いライラックの花が咲くころ)であり、これがフランスに入ってQuand refleuriront les lillas blancs(白いリラの花がまた咲くころ)となって流行していたのを、欧米巡遊中の白井鉄造が持ち帰って舞台に取り入れたもの。少女歌劇ファンはもとより、全国の子女に愛唱されて大ヒットし、以後今日まで、宝塚歌劇を代表する歌の一つとして歌い継がれている。

日本大百科全書〈ニッポニカ〉

ライラック(和名ムラサキハシドイ)はフランス語でリラとも呼ばれるモクセイ科の植物です。ヨーロッパでは4〜5月ごろに花が咲き、冷涼な気候を好むことから日本で咲くのは北海道ぐらい。(札幌市のシンボルツリーにもなっていますね)
ということで白井鐵造は日本人によりなじみ深いスミレに変更したようです。春の到来を待ちわびる気持ちと恋人を思う気持ちを軽やかに歌いあげるこの曲、オリジナルでは「白いライラックがまた咲いたら、君に僕の最も美しい愛の歌を歌ってあげるよ。何度も何度もひざまずいて白いライラックの香りを君に届けよう」とストレートに愛を伝える歌となっていますが、日本語版は検閲の関係上もあって、白井は控えめに恋の思いを表現するにとどめたようです。(個人的には日本語版の表現力に感心するのみ)

さて、「白いライラックの花がふたたび咲くころ」と同じタイトルで、曲が大事な役回りを果たす映画が1953年に西ドイツで作られました。特筆すべきこともないこの作品がドイツ映画史上に残る一作となったのは、ある女優さんのデビュー作となったからです。。

その人物の正体と映画の中身を明かす前に、撮影地となったヴィースバーデンへと移動しましょう。

物語のはじまりはクアガーデンから

公園から眺めるクアハウス

ヴィースバーデンはフランクフルトから列車で西に約一時間のところにあります。大都市フランクフルトをさしおいてヘッセン州の州都となっているからにはさぞやにぎやかな場所でしょうよと思いきや、のんびりとした雰囲気です。

駅前からずっとずっと真っすぐに歩いていくとカジノの入ったクアハウスが見えてきます。ヴィースバーデンは15の温泉源および鉱泉源を有し、古代ローマ時代から温泉観光地として栄え、今も昔もセレブが逗留することで知られる地。ゆったりと優雅な風情が漂うのはそんな街の歴史をひもとくと、よく理解できます。

クアパーク

クアハウスのすぐ横にある公園はクアパークです。そして映画はお金のない主人公ヴィリーがこの公園に咲く白いライラックを手折って妻のテレーゼとの結婚一周記念の花束にする場面から始まります。
歌手として名をはせたいという夢を持つヴィリーとお針子のテレーゼ。愛し合いながらも生活費をめぐって諍いが絶えません。

二人の愛の巣だった住宅は旧市街を抜けて坂を上がったところに今も残っています。映画の中ではテレーゼが踏むミシンの音にいらいらしながらテラスで朝食をとるヴィリーのシーンで有名になりました。

映画で有名になった建物とテラスは改装中

さて2人の物語はこう続きます。ある日ヴィリーは言い争いの末、テレーゼが身ごもっていることも知らずに家を飛び出しました。

それから時は流れて14年。。。

ヴィリーと別れたあとも献身的に支え続けてくれたペーターとの結婚を控えたテレーゼの元にレビュー歌手として世界的な成功を収めたヴィリーが欧州公演でヴィースバーデンに戻ってきます。舞台の上で2人の愛の思い出が詰まった「白いライラックの花がふたたび咲くころ」を歌うヴィリーを見て心動かされるテレーゼ。でも2人の娘、エフヒェンは2人の幸せが復縁にはないと見抜いて思いとどまるよう奔走します。

2人が結婚記念日を祝ったのは市街を一望できるネロベルクの丘の上
眼下にあるのはワイン畑です。
ヴィースバーデンは坂多し。
 ヴィリーはこの場所に立ってた販売店で    
新聞を購入していました

デビューを飾ったのは..

さあ、ここでいよいよ冒頭の謎を明かしましょう。エフヒェンを演じてスクリーンデビューを果たしたのは当時15歳のロミー・シュナイダー(1938-1983)。のちに映画「プリンセス・シシー」(ドイツのクリスマスには欠かせない定番映画)でその人気を不動にし、アラン・ドロンと共演するなどフランスを拠点に活躍して世界的な評価を得た、人気女優さんです。


エフヒェンを演じたロミー•シュナイダー
©Agfa Film

母テレーゼを演じたのはロミーの実母マグダ・シュナイダー、ヴィリー役はヴィリー・フリッチという戦前から人気のあった大物2人の布陣でしたが、可憐さとみずみずしい演技で観客を魅了したのはほかでもないロミー。彼女の存在あっての一作となりました。

さて物語の続きに戻りましょう。エフヒェンの願いが通じてテレーゼは長年支えてくれたペーターが、ヴィリーはマネージャー、エレンがそれぞれかけがえのない人だと気づいて別々の人生を歩むことを決意します。

最後にともに舞台にあがって歌う父と娘。再会を約束してヴィリーは米国へ戻っていきます。

2人の男性に求愛されて悩むなんていうのはなんの目新しさもない恋愛ストーリーの王道パターン。大してハンサムでもない中年歌手にエフヒェンが憧れたり、その人が母を捨てた実の父親と知っても「ビル・ペリー(ヴィリーの芸名)がお父さんなんてステキ」と喜ぶ下りもどうも無理がある。
それにテレーゼよ、なぜ揺れる?身勝手なヴィリーより誠実なペーターの一択でしょうよ、と随所で茶々をいれたくなる筋書きでもあります。「上っ面だけの作品」という辛口の批評が大半を占めるのも仕方ありません。

なのにこの映画が70年たった今でも人々に愛され続けているのは、もちろん第一には画面からいっぱいに伝わるロミー・シュナイダーの魅力あってのもの。(この時のロミー・シュナイダーをみるとまさに「スタア誕生」の瞬間をみる思いです。48人が束になってやっとなれるアイドルではなくって暗い夜空でただ一つ光を放ち、人々を魅了するスター、その違いがようく分かります)

そして2つ目は映画で随所に流れる曲に恋のときめき、切なさや甘酸っぱさ、ロマンスみたいなものを思い出させてくれる力があるからかもしれません。

ヴィースバーデンはおとぎの町

もちろん現実には恋も愛も美しいだけのものではないし映画はただのおとぎ話。。でも舞台となったヴィースバーデンの町には、「そして2人は幸せに暮らしました」、って童話みたいな結末が可能になりそうなどこか浮世離れした空気が漂っていたりするもするのです。

クアハウス近くのお店で見かけたのはこちらの服。ちょっとタカラヅカ風ではありませんか?

どこへ着ていくのでしょう。。。?

そういえばこんなこともありました。テレーゼとヴィリーが結婚記念日を祝ったネロベルクの丘に行く途中、植わっていたシャクナゲを撮っていたら「キレイでしょ」と上から声がしてはっと見上げたらベランダに全身真っ白にコーディネートしたエレガントなマダムがベランダから「どうぞ存分に撮ってちょうだいね」とだけ言い残して部屋の中に消えていきました。

書いてしまうと普通なのですが、その時は異次元の世界に迷い込んだかのようななんとも不思議な気分でした。


白いライラック

庭を飾るライラックだって主流の紫色ではなくってメルヘンチックな白がよく映える街、それがヴィースバーデンなのです。ちなみに白いライラックの花言葉は「純潔」、「恋の芽生え」となっています。

乙女心は永遠なり

こちらはライラックを探し回っていた時に見かけ仲睦まじく散歩中のお二人。ほかのドイツの町では浮いてしまいそうな白いペアルックだってヴィースバーデンならばしっくりくるのです。

白で決めている人が多い

このお二人の姿に歌詞が口をついて出てきました。
♪春よ、春よ、春よ、誰が君を愛さずにはいられようか?春よ、春よ、春よ、幸せいっぱいに君を待っているよ♪ 

♪ 白いライラックの花がふたたび咲くころ、おとぎ話の国の二人のように僕たちも恋人同士になるんだよ♪。

公開された当時のパンフレット


白いライラックが満開の花を咲かせるのは春真っ盛りの今、生命も恋も萌える季節です。

「ええい、なんだよ、恋や愛がどうしたってんだ。若いにーちゃん、ねーちゃんにまかせときゃいいんだ」と思われた殿方に申し上げておきましょう。恋に恋する乙女心ってものはね、古今東西いくつになったって永遠不滅なんですってば!!


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