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ザウアークラウトを「推し活」する(手作りにチャレンジするの巻その1)

ドイツの誇る国民食ザウアークラウトが逆境にあるのを知ってスタートした
「ザウアークラウト推し活プロジェクト」。


同僚が作ってくれたザウアークラウトでその美味しさに目覚めさせてもらった。でも他力本願でいいのか。やはり自分が作って人様にお勧めするのが「推し活」の筋というものだろう。ならばとザウアークラウト作りの極意を教えてもらうべく先生を捜すことにした。

カミングアウトすると、実は以前に2回ほど独力で試したことがあるのだ。ただし出来上がったのは食べるにはほど遠いシロモノ。1回目は刻んだキャベツに適当に塩をふっておけば自然にできるはず、と思ってたらいつのまにか茶色く変色してカラカラに乾いていた。2回目は、ならば浅漬けの方法だと千切りキャベツを塩でもみまくって放置しておいたら、アラアラ腐っちゃったよ状態に。 

なんとしても3度目は成功させたい。

◎ザウアークラウト講座の受講者はただ一人

そのためには師匠が必要なのだ。ただ知り合いに聞いても作っているという人にはヒットせず、ネットで「ザウアークラウト、習う」と検索してもミュンヘンではそれらしきものはなし。あきらめかけていたところで近郊の町のフォルクスホーホシューレ(生涯学習センターのようなもの)に「ザウアークラウト作り講座」を見つけ、早速申し込んだ。


さてさて次にやったのはなにを隠そう、ザウアークラウトを作るポットの購入。講座の案内に「時間が余ったら自家用のザウアークラウトも作れます。ご自分のポットをお持ちください」とあったのだ。せっかくかくならば発酵道を極めたい、それには投資を惜しんではならぬと言い訳しながらポチッと押してお高めの専用ポットを購入してしまった。しめて65ユーロなり(約7800円)。

柄にもなく乙女っぽいパステルカラーをチョイス。左下のは中に入れる重石です。



さて開講日まであと3日に迫ったある日のこと。携帯の電話が鳴って出ると「Aというものですけど、あなたKさん?」と年配の男性の声がする。「はい、そうですけど」と答えると「ザウアークラウト講座の講師Aですが、申し込んだのはあなた一人なんです。わざわざ会場まで道具を運ぶのが手間なのでミュンヘンの西にあるG町の自宅に来てもらえますか?」と続いた。

参加者は少ないかも、とある程度予想はしていた。けどマジ、一人ですか。。。ひるむ一方でいやまさにザウアークラウトは危機に陥っているのだ、なんとしても救わねばという使命感がメラメラと燃え出した。「伺います。よろしくお願いします」と意気込んで電話を切った。

◎A先生のザウアークラウト歴は30年

3日後に、お邪魔したお家で出迎えてくれたA先生は70代後半と思しき背の高い品のある男性だった。「私一人だけなのに開講してくださってありがとうございます」と挨拶すると「ザウアークラウトの良さを教えることができるからいいんですよ。お役に立てるならうれしいことです」とありがたい言葉。ムムム、ザウアークラウトへのアツイ思いがじわんとこちらにまで伝わってくる。


どうぞと食卓もある広い台所に通された。ピカピカのシステムキッチンではなく、すべてが良い具合に使い込まれていて食卓の椅子がさりげなくH.ヴェグナーのYチェアってのも私的にはツボ。そして先生の自己紹介から講座がスタートした。

「ファストフードみたいなもんががもてはやされてザウアークラウトが追いやられている」と憂うA先生は元公務員。30年ほど前に友人のお母さんのザウアークラウト作りを手伝った楽しさから自らも作りはじめ、今では独立した子供たち家族やご近所に配るのが習わしとなったそう。

食卓の椅子はYチェア

◎肝心の塩の量は0.5~0.8%

続いて材料の説明がはじまった。キャベツと塩はもちろん必須。先生はキャベツを知り合いの農家から仕入れており、「ウチのザウアークラウトは身元がしっかりしている」と胸をはる。作る時はくれぐれもいいキャベツを使いなさいよと釘を刺された。

塩とキャベツ以外にお好みで入れることができる材料を列挙すると次の通りだ。
*1.りんご(なるべく酸味のあるもの)
*2.人参
*3.胡椒
*4.クミンシード
 5.ローリエの葉
 6.ジュニパーベリーの実
(*は今回の実習で使った材料)

りんごと人参を入れると「軽やかになる」そうだ。

実習で使った塩はハーブソルト

いよいよ肝心の塩の量。先生の長年の経験によるとキャベツの重量の0.5から0.8%がベスト。つまりキャベツ1キロ当たり5~8gという計算だ。

先生曰く、年によってのキャベツの出来が違うのと、収穫したてのキャベツは水分が多く、貯蔵庫に長く保管されていたのは乾燥しているのでキャベツの状態を判断して調節すべしということだった。ただし健康と味のためにも入れすぎないようにとの但し書きがつく。

◎巨大すりおろしでキャベツをする

座学はそれからもうちょっと続いたのだが、追い追い説明することにして実践の場に移ろう。台所を出てテラスへ向かうと、そこには先生が準備していたテーブルにキャベツと巨大なすり下ろしが待ちかまえていた。

以前、パッサウの木工市場で巨大なすりおろしが売られているのを見たことがあった。その時はこんなもの今は誰も使わないだろうと思っていたが、さすが伝統を重んじるバイエルン。こうやって昔ながらの道具も現役だった。

パッサウの木工市にて。樽や桶なども売られていた。

まず先生は包丁でキャベツを四つ割りにして、芯を切り取る。そして4分の1をさらに小さく切って、すり下ろし機の上にセッティングされた四角い枠にぐぐっと押しこみながらすり下ろし機の刃にスライドするように動かす。下から細かく裁断されたキャベツがジャカジャカ出てくる。キャベツ山がではテーブルの下に設置された大きなポリ容器にザザザっと集められる。


すりおろされたキャベツ

すこしたってから、「ほらやってごらんなさい」と言われてすり下ろし機と対峙した。キャベツを上から押しながら前に後ろに必死に動かす。見る分には簡単そうでもやってみると相当な力を要する。ときどき胸で支えているスリおろし機が外れてキャベツ山に落下するのも鬱陶しい。必死になって4分の1個すりおろすだけでもうヘロヘロ・・・ 

それなのになんと先生は今年は90キロ分のキャベツを1週間かけて漬け込んだという。失礼ながらそう若くはないのになんともパワフル。世間がザウアークラウトに背を向けようとも先生は伝統の発酵食づくりに燃えてらっしゃる。私もこれしきのことでヘロっている場合じゃないぞ。「先生!すごいです!!」と拍手してほめちぎると先生も満更でもなさそうにニヤリと笑い返してくれた。

◎ポットに材料を入れる→まぜる→ドンドン→グリグリ

ようやく二人がかりでキャベツ丸1個分を処理すると、あらかじめすり下ろされていたキャベツとともに再び台所へ。麻袋を床にしいて10リットルのポットとキャベツを上から押さえる木製のマッシャーを用意する。(ちなみに10リットル容器にはキャベツがおよそ7ー8kg分入る目安) 


10lが入るポットとキャベツを上からつくマッシャー

先生が塩を計量する間に私が人参とリンゴを小さく切った。

リンゴとにんじんはお好みで


まず最初に容器の中に、何枚か大きなキャベツの葉を敷いた。(恐らく木の大きなマッシャーでドンドン押すのでその衝撃を和らげるため)。それから葉の上に先ほどのすり下ろされたキャベツを大きく二つかみほど、そして計量した塩の一部を入れる。普通の塩でなくハーブソルトだったので味が違うのか聞くと「あまり変わらないねえ」とのこと。塩が入ったところで手でぐるりとひとかきまぜして、長い棒のマッシャーでキャベツを上からドンドンついていく。

さらにりんごと人参を少し入れ、コショウとクミンシード(香辛料はお好みで適量を)も適当に投入して手でかきまぜてはまたドン・ドン・ドンとついたり、時にはマッシャーでグリグリっとキャベツを押してみる。しばらく続けてつきおわると新たにキャベツ、塩、人参、リンゴ、香辛料を加えてまた同じ作業が繰り返された。

ドンドン、グリグリと漬け込んでいく

ほれやってごらん、と言われて私も長いマッシャーでグリグリ、ドンドンとキャベツを痛めつけてみた。すりおろし作業も相当の力技だったがこのドンドン仕事も腕が痛くなるわ息も上がるわのハアハア状態になる。ちょっと一休みと思うたびにそのタイミングで先生が「いいねえ、ほれその調子」と声をかけてくるので休めない。

しばらくすると水分が出てきた。押しつける時に音がグチュっと鳴るのでよく分かる。もし水分が少なかったり、味にちょっと変化をつける時には辛口の白ワイン(10リットル容器で作る場合160ccぐらい)を入れるといいですよ、ということでちょろりと入れる。

ちびっこ容器でザウアークラウト作り

◎昔話もスパイスに

キリがいいところで私も台所の作業台で自分のポットにキャベツを入れて漬け込み始めた。2人でおしゃべりしながら、体を動かしながらの漬け込み作業は大変ながらも楽しい。「昔、妻がやっていた無農薬有機食品の店の前で秋になるとザウアークラウト作りの実演をやっていたんだよ。みんなが集まってそりゃ賑やかでね」と先生が語ってくれるエピソードもスパイスのようにザウアークラウトの中に漬け込まれていくような気がする。
 
入れる、混ぜる、ドン、ドン、グリグリ、モミモミを何度か繰り返して私のちびっこ容器も、ようやく一杯になった。さあ、これで先生の家でのザウアークラウトの下拵えは終了だ。あとは自宅に持ち帰って、教えてもらった通りに発酵させるという大切な仕事が待っている。

おいしいザウアークラウトができるかは自分にかかっているのだ。「味がどうだったか、必ず結果を教えてくださいよ」との言葉をかけられて先生のご自宅を後にした。



 


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