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冬至とハイデルベルクの柿

資格取得のため平日はハイデルベルク逗留し、週末はミュンヘンに戻るという生活リズムが定着した12月はじめのこと。8時限目の授業が終わって何人かの学友と一緒に散歩に出かけました。学校の付近はおしゃれな新興住宅地が片側に立ち並ぶ一方で、その反対側は農家が何軒かとのどかな田園風景が残っています。


寒くなったねえと言い合いながら歩いているとなんやら黄色いものが一杯ぶらさがっている木が見えました。

のどかな場所にあります

 正体を確かめたいと思えど冬のヨーロッパはそもそも薄ぐらいうえに、、木は他人様の敷地の中にあるときた。門に身を乗り出して目をこらしても分からない。クリスマスの飾りかなあなんて思いながら仕方なく通り過ぎたものの、どうも気になってしかたがないのでちらちら後ろを振り返るとちょうど女性が自転車を押しながら門を開けて入っていくのが見えました。

これは逃してはならない!とっとと先に歩いていく学友には構わず猛ダッシュして声をかけたのです。

「あの黄色い実がなっている木は何ですか?」
「柿よ。霜にあたったら食べごろだから取りにいらっしゃい」

柿ですとお!!!!!!?

 なんだ、柿じゃない、つまんないって日本に住んでいる方には思われるかもですが、私がドイツで地植えの柿を見たのはこれが初めて。日本より寒い地域でしかもこんなにたわわに実るなんて、と軽く感動してしまいました。さらに、柿通でない私にとっては霜にあててから食べるなんて初耳で、余計に興味がふくらんだというわけです。

 とてつもないスピードで進められる授業にへこむ気持ちも柿の味への期待が救ってくれました。そうして12月中旬、霜どころじゃなくってドイツに大寒波が襲いました。待ってました!授業を終えて袋を持って一目散に向かった先はもちろん柿の木。柿の木の横には梯子がかかっていて誰かが収穫した跡があります。喜び勇んで呼び鈴を押したものの犬が吠えるのみ。あえなく退散しました。

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 一週間後、改めて再チャレンジしました。呼び鈴に応答はなく、またダメかな、なんてガッカリしながら木の先にある家の方をみると玄関の前に女性がいるではないですか。「こんにちわー」と声をかけて近寄ると「あああ、柿を取りに来たのね」とMさんは私のことを覚えていてくれました。

食べきれないのは鳥のえさに

 柿だけではなく敷地内にはイチジクやアーモンドの木もあって今度はビワにもチャレンジしたいというMさん。2人でひとしきり果物談義に花を咲かせた後、「へたを切って実をすくって食べてね」という言葉とビニル袋いっぱいの柿をもらってM家を辞去しました。

 さてさて持ち帰った柿は学友たちにもおすそ分けしてみんなで試食しました。ちょっとザラっとした舌触りが残るも程よい甘さで皮ごとペロリ。完熟しているうえに雪が降った後は実がぐずぐずに崩れているかと思いきや、ほどよく引き締まっています。けれどもあれ、なぜ種がない!あんな大きな茶色い種よ、どこへ消えたんだ。

種無し柿でした

 ドイツのスーパーで売っているイスラエル産の柿には種があるのに、と疑問に思って調べたら農水省のホームページのキッズコーナーに「柿には受精しなくても実ができて大きくなる性質があります。受精しないで実が大きくなると種はできません。これを単為結果といいます」とありました。ふむふむ、なるほど。学友たちと不思議がっていた問題もこれで解決です。

よく考えれば柿を食べた、今年12月21日はドイツでは冬至の日。(日本の冬至は12月22日ですね)。日本であればゆず湯につかってカボチャを食べて無病息災を願うのが相場ですが、私の冬至はかくして同じ色味の柿がピンチヒッターをつとめてくれました。

もうすぐ今年も終わります。自分の身の回りという小世界ではインターネット上のnoteという場でつながりができたり、実生活でも柿をくれたMさんとのような何気ないうれしい出会いがありました。それを思うと戦争のニュースで荒みそうになる心がじんわりと温かい気持ちで満たされて2022年という一年にありがとうと声をかけたくなります。

ちょっと一足早いですが、これを読んでくださった皆様。どうぞ良いお年をお迎えください。



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