見出し画像

#10 イギリスの就職面接 こんなに色々やるのか。

Day151 Bristol UK west

ロンドンからずいぶんと西へ進んだ港町 Bristol には、もっともイギリスらしい霧雨が降っていて、すっかりと紅葉した銀杏の葉を落としていた。

Job interview (面接) を終えたばかりの私は、未だ興奮冷めやらぬ頭で銀杏の敷き詰められた小道を歩いた。

霧雨。
「あなたには龍神がついている。あなたの気持ちが昂ると、龍神が踊り雨を降らせる。雨が嫌なら龍神をなだめなさい」と、
大昔に、いかにも胡散くさい六本木の占い師が私に言った。
(そんな何の助言にもならないことを言うなら金を返せ) と、窮地にたたされ、占いに頼った若かりし私は筋違いに憤り、窮地を脱する術は占いではなく自分自身の選択と行動だ。と正気に戻ったのだった。

あの占いは少しも信じていなかった。というよりも信じようと信じまいと、私の選択にも行動にも何の影響も与えない発言だった。雨は降る時は降るしやむときはやむ。気象を操れるのは神だ。

しかし傘を持つ習慣のないズボラな私に9月の霧雨は冷たく、なんとかその龍神とやらをなだめてみようと、なんとなく肩のあたりの中空を撫でるような仕草をした。そもそも龍神をなだめるとは一体なんだろう。何をすればよかったのだろう。
もしかしてあの六本木の占い師はホンモノで、私の龍神が雨が降らせているのではないだろうか、などとオカルトじみたことを今更訝しむほどに私は高揚していた。

受けたばかりの面接がとりとめもなく脳裏をめぐり続けていた。

面接内容は
1)グループインタビュー
全候補者で自己紹介。
お題は ”昨日のディナーと、自身にまつわるウソホントクイズ”
自己紹介にひとつ嘘をまぜ、他の候補者がそのウソを当てる、という謎のクイズをいかに楽しそうに参加するかがポイントであろう。接客業に必要なのは何よりも愛敬だ。

2)グループワーク
与えられた粘土と竹串を使い、チームでひとつの”船”作る作業。
チームプレイとリーダーシップが試されるテストなのであろうが、クリエイティブを刺激された私は、全4チーム中2位という審査員評価が悔しかった。我々のチームが1位をとってもおかしくない出来だったのに。

3)寸劇(ロールプレイ)
お題 “最悪の接客”
全候補者の前へ出て、自身が最悪だと感じる販売員を演じる。

めちゃくちゃ恥ずかしい。あまりの恥ずかしさに記憶が飛んだ。
ホスピタリティへの理解を問うているのであろうが、試されたのは羞恥に耐えうる精神的な強さだと思った。

4)個別のインタビュー
ようやくオーソドックスに応募動機を尋ねられる時間だ。もはやへとへとだったが、
20分程度でいかに自分がパッショナブルで、素直で前向きであるかを全力でアピールした。
どうせ関連した業務経験は拙い。ないものをあるように見せるのは悪手だ。ヒューマニティ以外に私が勝負できるものはない。

オーソドックス面接も終盤になり、上品な英国紳士の面接官は、私の尊敬する、かつての上席からの愛にあふれるレファレンスレターに目を通した後、顔をあげて優しく微笑み、私の目を見て言った。


「このレターは君への敬意だ」


陽が落ちていた。ゆっくりと冬へ向かっていくイギリスの風は冷たかったが、街路樹が色づけたBristolの街は美しかった。

私の龍神がおとなしくなったのか、いつの間にか霧雨は止んでいた。

ホテルに預けていた荷物を引き取りに向かう。もう一泊したいところだったが、私は無職だ。寝て起きれば同じ一日。どこで寝ようと大差はないと自身に言い聞かせつつ、相変わらずガラガラと家財の全てを引っ張って、8人部屋の安宿へ向かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?