百舌
都会の一角にある純喫茶。先代からの珈琲の味と香りを頑なに守り続ける男。彼の周りを織りなす女性たちの物語。
歴史小説の短編集を集めています。
ふと気晴らしに恋愛小説を書いています。
橘醍醐は、女心が分からぬ。 かれは次男であり家名は告げぬ。なので長崎奉行で小役を賜る。端役である限り無聊だけは売るほどある。 時は慶応26年、徳川慶喜の治世は30年近い。 その彼がまさか異国の娘に巡りあおうとは。
離婚式という社会通念が生まれて久しい。 両家がきっぱりと縁を分つために。 その縁を切る範囲は、現代では広すぎるので。 社会のモラルとして、結婚したら離婚保険に入るのは常識になってる。 なぜなら離婚事故を起こすリスクがあるのだ。
桜が散っている。 私のロードスターは、高台のパーキングに停まっている。 ふたり乗りのちっぽけなロードスター。 オレンジに塗られたボディに、漆黒の布製の幌が…
週明けから再び、郷里にツーリングします。 今回はメロン🍈の配給旅になりそうです。 私の住んでいる離島は隠れた名産品がメロンでして。初めて食べたときには余りに…
水揚げの夜、花火は煌びやかな花魁衣装を纏っていた。 京懐石が卓上に並び、女楼主までが舞を披露していた。 それでも床に入る際に帯を解き、花魁衣装は御付きの禿が…
離島は初夏を迎えました。 紺碧の海が眼前に広がる。 私は知っています。 この時期に潜るとキビナゴの群れが、輪を作って泳いでいます。その群れの中に入ると、万…
この夏の過ごし方を思案しています。 離島のお仕事の束縛は、かなりキツいものがあります。 その反面で、幸いなことに夏は長期休暇がとれるのです。それが魅力的でこ…
普段通りの時間が流れている。 のは内面だけだ。 閉ざされた空間で全裸で過ごしている。 空調なしだと椅子にもソファにも汗ばんで貼りついてくる。エアコンを緩め…
後ろ手に鍵を掛けられた。 堅牢なドアに相応しい重い音。 複数の鍵をひとつひとつ丁寧に施錠していく。 僕は大荷物を下げたまま振り返り、納めるべきパントリーは…
あたしさぁ、と乗ってきた。 裸の胸に彼女の髪がさらりと触れる。 その感触をなぞる様に、熱く尖った実が私の胸を這っている。 もう朝日が部屋を横切って差してい…
五条花街の門を潜った。 懐はずっしりと、重い。 まだ日は高く、生駒屋の色褪せた暖簾が風に揺れている。 総司はそれを潜ると、あの痩せぎすの若衆が飛び跳ねるよ…
最初はね。 やってみたかっただけ。 でも男子ってすぐにいないし。 それに一歩進んだら、立ち止まるどころか。 戻ってくれないって、加奈が言うから。 だから…
伏見の裏街に鳶若衆の棲み家はあった。 出稼ぎの普請職人に宛行いの家屋だ。 件の金子は長屋の床下の、油紙で封された壺に隠されていた。 見た目には漬物壺、梅干…
伏見奉行所の捕吏がやってきた。 年嵩の同心であり、近場の誰かが通報に朝駆けしたらしい。 その場に武士が捕縛され、町人が神妙に項垂れ、そして黒装束の総司を彼ら…
高尾丸は無事に係留作業を行われていた。 縄梯子が掛けられて、真っ先に橘醍醐は船に登った。 船舵を操っていたらしい、仏人の船乗りが東洋の侍にきちんと敬礼をした…
もう10年も昔のことだ。 初めて横須賀を訪問した。 その街の何所かに、縁遠くなった女性がいた。 当時は互いに音信不通になっていて、何処でなにをしているのかは…
おれは運がいい。 既に口癖である。 それは師である近藤勇から伝授された。いつも魂魄にそう抱いておれば、幸運は先方より訪のうてくるものだと。 鋒が地表を這う…
魚雷発射試験場の痕跡です。 長崎の東彼杵郡、大崎半島の先端にそれはあります。 その場所を訪うひとも少なく、屋根の抜けたコンクリ造りの建物から繁茂している木の…
2022年2月1日 14:35
桜が散っている。 私のロードスターは、高台のパーキングに停まっている。 ふたり乗りのちっぽけなロードスター。 オレンジに塗られたボディに、漆黒の布製の幌が掛かっている。 急勾配の傾斜の途中に、巨人が指でつまんでこしらえたような平地が、虚空に向かって突き出している。そのパーキングのへりに平たく張りついている。 仕事がかさんでいる時期には、帰宅が深夜になることも、ままある。 エンジンの鼓
2024年6月15日 14:25
週明けから再び、郷里にツーリングします。 今回はメロン🍈の配給旅になりそうです。 私の住んでいる離島は隠れた名産品がメロンでして。初めて食べたときには余りにも美味しくて驚きました。それで地元の親戚には送っていました。 これは所謂、島の特産品ですので島内で流通しているのは、小玉の売り物にならないものです。大玉は島外用の進物で販売されていますが、それなりのお値段です。 ですがコレ、形が悪い
2024年6月14日 18:12
水揚げの夜、花火は煌びやかな花魁衣装を纏っていた。 京懐石が卓上に並び、女楼主までが舞を披露していた。 それでも床に入る際に帯を解き、花魁衣装は御付きの禿が畳み置くのに変わりはない。全ては空事を虚栄で糊塗しているかに思われる。 総司は花火を掻き抱いて耳元で囁いた。「其処元、近隣に身寄りの血筋にあたるものがおらぬのか」「・・・兄らしき方で居るようでがんす。実は顔見世のころに、部屋揚げ頂い
2024年6月13日 17:35
離島は初夏を迎えました。 紺碧の海が眼前に広がる。 私は知っています。 この時期に潜るとキビナゴの群れが、輪を作って泳いでいます。その群れの中に入ると、万華鏡のように蒼翠色の魚たちが輪舞するのです。 草原に出ると、新生児の仔牛を連れた群れが丘で寛いでいます。 もう鼻息まで聞こえてきます。 そしてもっしゃもっしゃと、咀嚼音まで潮風に吹かれて届いてきます。じっと眺めていると、幼い弟を連
2024年6月12日 18:19
この夏の過ごし方を思案しています。 離島のお仕事の束縛は、かなりキツいものがあります。 その反面で、幸いなことに夏は長期休暇がとれるのです。それが魅力的でこの地域おこし協力隊に参加したのですが。 離島で30年ぶりにバイクでツーリングをする生活になりまして。 体力も落ちているし、長距離はさらさら走る気がありません。 どうしようか。 バイクで出かけるか、自動車で出かけるか。 バイクで
2024年6月11日 16:31
普段通りの時間が流れている。 のは内面だけだ。 閉ざされた空間で全裸で過ごしている。 空調なしだと椅子にもソファにも汗ばんで貼りついてくる。エアコンを緩めにしても座面から引き剝がして姿勢を変えている。人間社会は衣服というBuffer zoneありきで成立しているらしい。 リサはキッチンに立っている。 それも普段はしないエプロンで前を隠している。 僕がそれを咎めるように凝視していると、
2024年6月10日 16:45
後ろ手に鍵を掛けられた。 堅牢なドアに相応しい重い音。 複数の鍵をひとつひとつ丁寧に施錠していく。 僕は大荷物を下げたまま振り返り、納めるべきパントリーはどこかと彼女に訊こうとしていた。 衣擦れの音とともに、彼女のワンピースが玄関に落ちた。 それから慣れた手付きで、ああそれもそうか、ブラを乱暴に外しパンティをはぎ取った。散歩から帰ってきた犬が、リードを自ら乱暴に外すような仕草に見えた。
2024年6月9日 13:36
あたしさぁ、と乗ってきた。 裸の胸に彼女の髪がさらりと触れる。 その感触をなぞる様に、熱く尖った実が私の胸を這っている。 もう朝日が部屋を横切って差している。 光の部分と、影の部分と。 でもふたりとも夢か現実か、混然とした微睡のなかにいる。「子供が小さいときね。貴方にも見せびらかしたいくらい大きかったのよ、おっぱい」「でも私は掌に収まるくらいがタイプだ」 そう言って下からその果実
2024年6月8日 15:45
五条花街の門を潜った。 懐はずっしりと、重い。 まだ日は高く、生駒屋の色褪せた暖簾が風に揺れている。 総司はそれを潜ると、あの痩せぎすの若衆が飛び跳ねるように立ち上がる。そして大仰に、お早いご登楼でと声を掛ける。 背後には女たちが騒めく音が続く。 それが鎮まるのをただ待っている。「実はな、楼主をお呼び頂きたくての」 へっ、と意気込んだ顔に、「花火を貰い受けようと思う」と投げかけた。
2024年6月7日 18:03
最初はね。 やってみたかっただけ。 でも男子ってすぐにいないし。 それに一歩進んだら、立ち止まるどころか。 戻ってくれないって、加奈が言うから。 だからこわいんだって。 でも。 ちょっと強引にしてくれないと。 加奈も逃げちゃったかもってゆってた。 じゃあさ。 ちょっと教えてくれない? 触られたらどんな気分なの。 自分の指でするとは違うの。 重なる掌の、体温は違うね。
2024年6月6日 19:37
伏見の裏街に鳶若衆の棲み家はあった。 出稼ぎの普請職人に宛行いの家屋だ。 件の金子は長屋の床下の、油紙で封された壺に隠されていた。 見た目には漬物壺、梅干し壺にも見える。 弥助と名乗った彼の強張った頬が、閊えていた憑き物落ちた如き容貌をしていた。むしろ厄介事を差し出して柔和になった様子である。 弥助は、生駒屋の花火を妹と語った。 妹は幼少の砌より会っては居らぬ。幼くして彼は寺に出され
2024年6月5日 20:02
伏見奉行所の捕吏がやってきた。 年嵩の同心であり、近場の誰かが通報に朝駆けしたらしい。 その場に武士が捕縛され、町人が神妙に項垂れ、そして黒装束の総司を彼らは見た。一瞥するだに彼に最も武の気風が漂っていた。 総司は陳述する。 この者どもは壬生浪士組の者である。 して身共もその一角である。然るにこの愚劣な者どもは、ご公儀よりお預かり致した金子を懐に横領し、かつ遁走を果たさんとしていた。
2024年6月4日 10:23
高尾丸は無事に係留作業を行われていた。 縄梯子が掛けられて、真っ先に橘醍醐は船に登った。 船舵を操っていたらしい、仏人の船乗りが東洋の侍にきちんと敬礼をした。まだ若い。痩躯で長身で、醍醐とさほど年齢差はなかろう。まだ頬に赤みが差している。 機関は利用していない。 曳航船に動力は頼り、緊急時において高雄丸の操船を受け持っていたのだろう。軽い身のこなしで縄梯子を伝って降りていく。 じきに下
2024年6月3日 21:20
もう10年も昔のことだ。 初めて横須賀を訪問した。 その街の何所かに、縁遠くなった女性がいた。 当時は互いに音信不通になっていて、何処でなにをしているのかはわからない。わかっていたのは、彼女は苗字が変わり、さらにシングルになって二人の子供を育てているということだった。 横須賀の町を歩いて気づいたのは、妙にバタ臭い街で、私の郷里である佐世保よりも更に濃度の高さを感じた。路肩の弁当屋さんです
2024年6月2日 18:20
おれは運がいい。 既に口癖である。 それは師である近藤勇から伝授された。いつも魂魄にそう抱いておれば、幸運は先方より訪のうてくるものだと。 鋒が地表を這うが如きの地擦り下段のまま、抜き身の白刃を下げた相手に、沖田総司が肉薄する。総司は地表の砂埃を舞わせる、一陣の旋風と化す。唇を堅く結び、数瞬にて間合いを詰めていく。 その足音に、正面の男が青筋を逆立てて驚愕する。彼の振り返りざまに、下段か
2024年6月1日 21:00
魚雷発射試験場の痕跡です。 長崎の東彼杵郡、大崎半島の先端にそれはあります。 その場所を訪うひとも少なく、屋根の抜けたコンクリ造りの建物から繁茂している木の元に涼しい風が通っています。 湿っぽい季節だというのに、空気が冷えている、そんな感覚を味わいます。 この建物は「バケモノの子」の舞台のモデルにもなったそうです。残念ながら未見です。 内部から見上げると、空が切り取られているようで、