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高尾丸は無事に係留作業を行われていた。 縄梯子が掛けられて、真っ先に橘醍醐は船に登っ…
出迎えの馬車が来た。 天蓋にも丹念な彫金の為された客車を引き、黒駿馬の二頭立てで現れ…
蒼緑の瞳に強情が篭もっている。 梃子でも動かぬ心境が鈍く光る。 「村田さまには通詞が必…
音曲が止むと、空気が固い。 息が詰まる程、緊張がある。 左右に五人、背後に三人か。 …
憫笑が満ちている。 意を隠して蔑んでいる。 その空気を糊塗するように楽団が、緩い音律…
今日は資料集めです。 長編になりがちな最近のお話。 殊に幕末なんて資料が溢れていて、…
幻の如き街である。 夜の無い街である。 電気カンテラが石畳の両側に並び立ち、昼間に類する程の光で埋め尽くされている。街区の建物はどれもが美麗な色彩に彩られ、堅牢な石造基礎に鋳造された窓枠にも手抜かりはない。 馬車の客車に連座している。 木軸に鉄輪輪がここまで跳ねるとは。背後に畳んだ幌がその度に金属質の耳障りな音を立てて、馬車は通りを駆けて行く。 洋風軍服が窮屈ではあるが、それが正装であれば醍醐には拒めるものではない。要は警固に支障さえ無ければ良し。今後洋装には慣熟
埠頭まで駆け寄った 然るに、時既に遅し。 高雄丸は曳航縄を四方に掛けられて離岸してい…
薄靄が海面を覆っている。 海風は予想外にも冷たい。 払暁が赤紫に染める天海。 黒々…
門司とは不遇な港である。 今やその港は異国となる。 凡そ四半世紀は昔のことである。 …
結われた金髪が揺れている。 細かく編み込まれているが、どんな作法なのか醍醐には判らぬ…
窓掛けが緩く風を孕んでいる。 遠く港より汽笛が響いてくる。 その汽笛が途切れると、ふ…
小雨のなかでバイクを停めた。 佐賀城本丸歴史観を訪問した。 春先に《江藤新平没後15…
細目の眼が検分している。 橘醍醐はそれを微風を受けるかの如く、平然と椅子に座している。 まだ一言も交わしてはおらぬ。 江藤新平、彼も上背がある方ではない。 醍醐の上役と違い、官服で高飛車に出るのではなく、華美で沙羅な洋服を誂えているのではなく、着流しの和装である。ただ腰には一刀だけは帯びている。一見しては共和国政府の高官というよりも書生じみている。 かなり年嵩の書生で、すでに五十坂は越えていよう。髪も蓬髪で聊か後頭部が怪しくなっている。月代を剃っていた世代ではない