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水揚げの夜、花火は煌びやかな花魁衣装を纏っていた。 京懐石が卓上に並び、女楼主までが…
五条花街の門を潜った。 懐はずっしりと、重い。 まだ日は高く、生駒屋の色褪せた暖簾が…
伏見の裏街に鳶若衆の棲み家はあった。 出稼ぎの普請職人に宛行いの家屋だ。 件の金子は…
伏見奉行所の捕吏がやってきた。 年嵩の同心であり、近場の誰かが通報に朝駆けしたらしい…
おれは運がいい。 既に口癖である。 それは師である近藤勇から伝授された。いつも魂魄に…
抜き身の白刃が揺れている。 対する鳶若衆は丸腰である。 彼の獲物は、凡そ鉄芯をいれた…
敷闇が濃くなった。 数夜を経て月齢は更に進み、最早それは天空にある傷口のような細さで、そこからのか細い月光では足元も覚束ない。 いずれ新月になり、闇夜が二晩は続くことになる。 墨を広げた如き空に星あれど、夜目を扶けるには程遠い。 沖田総司は先駆して、暗がりに身を細めて待っている。 服は浅黄色の隊服ではなく、漆黒の小袖に袴にも絹糸ひとつ紛れてはおらぬ。そして葉桜になりつつある幹に背を預け、右を立膝にして座している。そうして木影と一体になり、気配を殺している。 彼方
宵闇が深くなった。 総司は階下の一室に座していた。 二階では娼妓の嬌声や喘ぎが漏れて…
黒牛の名は喜八という。 やはり百姓の出という。 丹波山中では綿花栽培が盛んで、佐治木…
胸を焦がすのは、熾火のような炎である。 灰白い中に赫灼たる炎が燃え盛っている。 「おお…
現金なものだ。 かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上…
大門屋は老舗である。 かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。 外…
拍子木の澄んだ音が響く。 この妓楼ではなく、五条大通りの方からだ。 微睡を瞬時に取り…
夜更けになった。 総司は引付座敷で冷酒を置いていた。 手酌では杯も進まないが、元来が酒が好みではない。 冷めたそれをただ眺めていたが、例の若衆がおずおずと寄ってきた。この手の若衆は座敷では太鼓持ちを兼任している。愛嬌のある表情をしているが、目には遠目の色がある。付かず離れず、それが信条なのだろう。 「もう冷めてしまったが、どうだ、一献」 へっ、と額をぺしゃりと掌で叩き、きちんと膝を揃えて座る。猪口を掴んで若衆に渡して、なみなみと注いだ。 「へえ、おぉきに」と大仰な会