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伏見の鬼

20
歴史小説の短編集を集めています。
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記事一覧

伏見の鬼 20 最終話

 水揚げの夜、花火は煌びやかな花魁衣装を纏っていた。  京懐石が卓上に並び、女楼主までが…

百舌
1日前
16

伏見の鬼 19 I 気になる口癖

 五条花街の門を潜った。  懐はずっしりと、重い。  まだ日は高く、生駒屋の色褪せた暖簾が…

百舌
7日前
14

伏見の鬼 18

 伏見の裏街に鳶若衆の棲み家はあった。  出稼ぎの普請職人に宛行いの家屋だ。  件の金子は…

百舌
9日前
13

伏見の鬼 17

 伏見奉行所の捕吏がやってきた。  年嵩の同心であり、近場の誰かが通報に朝駆けしたらしい…

百舌
10日前
13

伏見の鬼 16 l 気になる口癖

 おれは運がいい。  既に口癖である。  それは師である近藤勇から伝授された。いつも魂魄に…

百舌
13日前
17

伏見の鬼 15

 抜き身の白刃が揺れている。  対する鳶若衆は丸腰である。  彼の獲物は、凡そ鉄芯をいれた…

百舌
2週間前
15

伏見の鬼 14

 敷闇が濃くなった。  数夜を経て月齢は更に進み、最早それは天空にある傷口のような細さで、そこからのか細い月光では足元も覚束ない。  いずれ新月になり、闇夜が二晩は続くことになる。  墨を広げた如き空に星あれど、夜目を扶けるには程遠い。  沖田総司は先駆して、暗がりに身を細めて待っている。  服は浅黄色の隊服ではなく、漆黒の小袖に袴にも絹糸ひとつ紛れてはおらぬ。そして葉桜になりつつある幹に背を預け、右を立膝にして座している。そうして木影と一体になり、気配を殺している。  彼方

伏見の鬼 13 ♯君に届かない

 宵闇が深くなった。  総司は階下の一室に座していた。  二階では娼妓の嬌声や喘ぎが漏れて…

百舌
1か月前
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伏見の鬼 12

 黒牛の名は喜八という。  やはり百姓の出という。  丹波山中では綿花栽培が盛んで、佐治木…

百舌
1か月前
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伏見の鬼 11

 胸を焦がすのは、熾火のような炎である。  灰白い中に赫灼たる炎が燃え盛っている。 「おお…

百舌
1か月前
11

伏見の鬼 10

 現金なものだ。  かの黒牛を尻目に、へぇへぇと楼主は低姿勢になり、掌を揉み手しつつ階上…

百舌
1か月前
19

伏見の鬼 9

 大門屋は老舗である。  かの店舗前に五条大通りと、この遊郭を分かつ白木の門が立つ。  外…

百舌
1か月前
18

伏見の鬼 8

 拍子木の澄んだ音が響く。  この妓楼ではなく、五条大通りの方からだ。  微睡を瞬時に取り…

百舌
1か月前
13

伏見の鬼 7

 夜更けになった。  総司は引付座敷で冷酒を置いていた。  手酌では杯も進まないが、元来が酒が好みではない。  冷めたそれをただ眺めていたが、例の若衆がおずおずと寄ってきた。この手の若衆は座敷では太鼓持ちを兼任している。愛嬌のある表情をしているが、目には遠目の色がある。付かず離れず、それが信条なのだろう。 「もう冷めてしまったが、どうだ、一献」  へっ、と額をぺしゃりと掌で叩き、きちんと膝を揃えて座る。猪口を掴んで若衆に渡して、なみなみと注いだ。 「へえ、おぉきに」と大仰な会