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SHIFT INNOVATION #40 「クリティカル思考1」(固定観念排除編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。

 現実における全てが常識に基づく行為であるとは限らず、例えば、現在において、常識であるとされることが、思い込みであることがあり、また、過去においては、常識であるとされていたことが、今では常識ではないということもあります。

 これは、事実に対してどのように解釈するのか、つまりは、時代や個人の価値観などによって、解釈は変わるものであるため、今ある現実を批判的に捉えることによって、現状において、最適な解釈をすることができるのではないかと考えます。

 今回は、「Sightseeing Bath(Bus)」の事例において、デジタル化の進展により、様々な面で利便性が高まる一方で、バーチャルの世界では、匿名性が高いため、躊躇することなく誹謗中傷ができてしまう、極論すると、「誹謗中傷しても問題ない」ということが常識になってしまっていることから、デジタル化の進展を批判的に捉えることによって、そのような常識を疑い、常識を問い直す事例を紹介します。

【「Sightseeing Bath(Bus)」の事例】

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 「Sightseeing Bath(Bus)」の事例は、「Contactless(by default)」(移動の可能性「New Mobility」)というテーマ(AWRD)において、「バーチャルの世界において、恥ずべき行動に対する羞恥心を取り戻すことができるNew Mobility」というアイデアを導出しました。

 これは、特にコロナ禍において、外出することができないこともあり、買い物、学校、食事会、旅行など、あらゆる生活シーンにおいて「デジタル化」が進展することとなりました。

 これらのように、「デジタル化の進展により、利便性が高まり、生活は豊になる」という常識がある一方で、「バーチャルの世界では、匿名性が高いので、誹謗中傷など、何をしても恥ずかしくない」という非常識が横行することによって、「デジタル化の進展により、生活が豊かになり、幸せになる」というのは、思い込み(固定観念)であり、「本当にデジタル化の進展により、生活が豊かになり、幸せになれるのか」と思索するようになりました。

 そこで、匿名性の高いバーチャルの世界においても、実名によるリアルの世界と同様、「誹謗中傷はすべきではなく、恥ずべきことである」ということを認識させるためのアイデアとして、「Sightseeing Bath(Bus)」を導出しました。

 この「Sightseeing Bath(Bus)」は、リアルの世界ではモザイクを入れることができないのと同様、バーチャルの世界で「Sightseeing Bath(Bus)」に裸で乗車したときの映像を、ネット配信する上で、モザイクを入れることができないよう、制限を設けた仕組みとなります。

 その結果、「Sightseeing Bath(Bus)」は、バーチャルの世界において、モザイクが入らない裸の映像では、恥ずかしくてネット配信できない、つまりは、「実名」では、恥ずかしくてネット配信できないのと同様、「実名」では、恥ずかしくて誹謗中傷できないことから、リアルの世界やバーチャルの世界にかかわらず、「匿名でしかできない誹謗中傷は、恥ずべきことであり、すべきではない」と認識させるためのアイデアとなります。

【疑うべき固定観念のレイヤー(視点)】

 「Sightseeing Bath(Bus)」の事例において、「デジタル化が進展することにより、生活が豊になり、幸せになることができる」という事象(固定観念)に対して本質探究の問いを発し、固定観念を疑うことによって、「デジタル化の進展は、必ずしも生活が豊かになり、幸せになれるものではない」というように、固定観念を排除することができました。

 このように、「Sightseeing Bath(Bus)」の事例において捉えた固定観念とは、「デジタル化」に対して、機能視点における固定観念となる「時間・空間の概念を排除できる」ではなく、目的視点における固定観念である「生活が豊かになり、幸せになる」となります。

 これらのように、捉え方の視点により、様々な事象に対する固定観念を捉えることができますが、 SHIFT INNOVATION #38 「イノベーション4」(実証編2)において説明したように、捉える固定観念のレイヤーが高いほど、つまりは、目的視点のように抽象度が高い場合、より遠くへシフトするなど、「枠外」のアイデアとなる可能性が高くなり、一方で、捉える固定観念のレイヤーが低いほど、つまりは、機能視点のように抽象度が低い場合、より近くにシフトするなど、「枠内」のアイデアに留まる可能性が高くなると考えます。

【機能視点による「問題の再定義」】

 「Sightseeing Bath(Bus)」は、「枠外」のアイデアを導出する上で、重要となるリフレーミングに関して、目的視点により固定観念を批判的に捉えた「目的の再定義」により導出した事例となりますが、機能視点により固定観念を批判的に捉えた「問題の再定義」により導出しようとした場合、どのようなアイデアが導出されるのか確認することとします。

 それでは、「デジタル」における機能を「時間・空間の概念を排除できる」と捉えることにより、その機能に対して、「旅行(お土産)」を想起した場合、「デジタル化により、地方の特産品を家にいながら買うことができる」という便益に対して、「デジタル化により、地方の特産品を家にいながら買うことができるものの、地元の人との触れ合いや地元の雰囲気を味わうことができない」という不便益を捉えました。

 アイデアを導出する上で、目的視点で捉えるのではなく、機能視点で捉えた場合、「本当に、デジタル化をすることにより、時間・空間の概念を排除できるのか」「本当に、デジタル化をすることにより、地元の人との触れ合いや地元の雰囲気を味わうことができないのか」という本質探究の問いを発しました。

 本質探究の問いを発することにより、例えば、文章だけでは伝わりづらいため、動画にすることによって、実態をリアルに伝えることができるので、「YouTubeを活用することにより、実態をリアルに伝えることができる」というアブダクション事例を抽出しました。

 このように、アブダクション事例を「動画(地方や特産品の紹介)」というように抽象化することにより、「旅行(現実体験)」から「動画(仮想体験)」へテクストがシフトしました。

 その結果、「地方や特産品の紹介動画が見ることにより、地方の雰囲気を味わうことができる」というアブダクション仮説を抽出することにより、「特産品のパッケージに、地方や特産品を紹介する動画の二次元バーコードを表示し、紹介動画を見ることによって、地方の雰囲気を味わいながら、特産品などを食することができる」というアイデアを導出することができました。

【その先を思索させるアイデア】

 「Sightseeing Bath(Bus)」の事例の場合、「バーチャルの世界では、匿名性が高いので、誹謗中傷など、何をしても恥ずかしくない」という不便益を批判的に捉えたことにより、「バーチャルの世界において、恥ずべき行動に対する羞恥心を取り戻すことができるNew Mobility(「Sightseeing Bath(Bus)」)」というアイデアを導出しましたが、その裏(根源)には、「デジタル化の進展により、本当に生活が豊かになり、幸せになれるのか」というように、目的視点により固定観念を批判的に捉えた「目的の再定義」により解決したアイデアとなります。

 一方で、「デジタルパッケージ」の事例の場合、導出したアイデアにおける根源的な疑問から、新たな問いを発することにより、常識に対して思索させるアイデアではなく、「デジタル化により、地方の特産品を家にいながら買うことができるものの、地元の人との触れ合いや地元の雰囲気を味わうことができない」というように、機能視点により固定観念を批判的に捉えた「問題の再定義」により解決したアイデアとなります。

 そして、「デジタルパッケージ」の事例の場合は、「地方や特産品の紹介動画が見ることにより、地方の雰囲気を味わうことができる」という課題を解決し、「Sightseeing Bath(Bus)」の事例の場合も、「「Sightseeing Bath(Bus)」に裸で乗車することは恥ずかしいことから、人が密集した観光地を避けることにより、蜜を回避することができる」という課題を解決しました。

 その中でも、特に「Sightseeing Bath(Bus)」の事例の場合は、課題を解決しただけではなく、さらに奥深く、根源的な部分を引き出し、そして、常識であると考えられていることを疑うことによって、その先にあるものを発見し、解決する必要があるのではないかと思索させるアイデアであると考えます。

【「Sightseeing Bath(Bus)」「デジタルパッケージ」の思考プロセス】

(「Sightseeing Bath(Bus)」の思考プロセス)
テーマ(AWRD)
「Contactless(by default) (移動の可能性)」
コンセプト
「目的地だけではなく、移動自体を楽しむことができる旅行にすることにより密集を回避する」
コンテクスト(インサイト)
「旅行を楽しみたいが、コロナ禍ということもあり、外出することを控えたい」
コンテクスト(屋外→屋内)
「自宅の中にハーネスを取り付けることにより、アトラクションを体感することができる」
コンテクスト(アトラクション→リラックス)
「お風呂の中でハーネスを取り付けることにより、浮遊感を体感できるなどリラックスできる」
コンテクスト(屋内→屋外・密集→密集回避)
「お風呂自体が移動すれば、リラックスしながら旅行することができるものの、裸で移動することは恥ずかしいことから、人が密集した観光地を避けることにより、人の密集を回避することができる」
アブダクション事象(固定観念)
「人には羞恥心があるので、恥ずかしくて裸で(車に)乗車することができない」
本質探究の問い1
本当に人は羞恥心があるので、恥ずかしくて裸で(車に)乗車することができないのか
アブダクション事例(リアル→バーチャル)
「バーチャルの世界では、顔が見えないので、誹謗中傷が横行するなど、羞恥心を感じていない」
アブダクション事例の抽象化
「匿名であると何でもすることができる」
アブダクション仮説
「お風呂型のバスに裸で乗車することは恥ずかしいことから、映像にモザイクを入れることができない仕組みでしかネット配信できないようにすることにより、『匿名であると何でもすることができる』という考えを改めさせることができる」
アイデア
「バーチャルの世界において、恥ずべき行動に対する羞恥心を取り戻すことができるNew Mobility」(「Sightseeing Bath(Bus)」)

本質探究の問い2
本当にデジタル化の進展により、生活が豊かになり、幸せになるのか


(「デジタルパッケージ」の思考プロセス)
ニーズ(便益)
「デジタル化により、地方の特産品を家にいながら買うことができる」
アブダクション事象(固定観念)
「デジタル化により、地方の特産品を家にいながら買うことができるものの、地元の人との触れ合いや地元の雰囲気を味わうことができない」
本質探究の問い
本当に、デジタル化をすることにより、地元の人との触れ合いや地元の雰囲気を味わうことができないのか
アブダクション事例
「YouTube(動画)を活用することにより、実態をリアルに伝えることができる」
アブダクション事例の抽象化
「紹介動画(地方や特産品)」 ※テクスト「旅行(現実体験)」→「動画(仮想体験)」
アブダクション仮説
「地方や特産品の紹介動画が見ることにより、地方の雰囲気を味わうことができる」
機能の解決策
「特産品のパッケージに、地方や特産品を紹介する動画の二次元バーコードを表示し、紹介動画を見ることによって、地方の雰囲気を味わいながら、特産品などを食することができるパッケージ」(「デジタルパッケージ」)

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