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SHIFT INNOVATION #42 「クリティカル思考3」(能力編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。

 SHIFT INNOVATION #41 「クリティカル思考2」(固定観念分類編)において、「枠外」のアイデアのきっかけとなる独自性のあるテクストおよびアブダクション事例を抽出するためには、固定観念を捉える視点が重要となり、特に目的視点により固定観念を捉えることが重要であることを説明しました。

 今回は、目的視点により固定観念を捉えた上で、真逆のアブダクション事例を抽出した「サーフィンテック」の事例に基づき、どうすれば独自性のあるアブダクション事例を抽出することができるのか、その起点となる事象および必要となる能力について説明することとします。

【「サーフィンテック」の思考プロセス】

コンセプト設定
 「快適な生活環境を作る完全自動化のサーモスタット」
アブダクション事象1
「完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる」
問題提起
「本当に完全自動化することにより快適な生活環境にすることができるのか」
アブダクション事象の抽象化1
「厳しいけれども、より良くなる」 ※反転 「楽である」→「厳しい」
アブダクション事例1
「厳しいトレーニングをすることにより健康な体を作ることができる」 トレーニングを想起
アブダクション仮説1
「厳しい温度設定により地球環境をより良くする」
アブダクション事象2
「厳しい温度設定するのは大変である」 ※反転 「良くする」→「大変」
問題提起
 「本当に厳しい温度設定するのは大変であるのか」
アブダクション事象の抽象化2
「厳しいけれども、楽しい」 ※反転 「大変」→「楽しい」
アブダクション事例2
「難しい(厳しい)ゲームをするのは楽しい」 ゲームを想起
アブダクション事例2
 「eスポーツは、厳しい試合に勝ち抜けば賞金がもらえる」 eスポーツ・賞金を想起
アブダクション仮説2
「地球環境へ配慮した温度設定することにより、節約した電気料金を貯金に回す」 節約・電気料金・貯金を想起
アイデア
「快適な温度と設定した温度の差異により節約した電気料金を、フィンテックを活用することにより、目的口座(節約)に移管する」(「サーフィンテック」) フィンテックを想起

【コンテクストより想起した場合の思考内容】

 「サーフィンテック」の事例において、事象に対してコンテクスト(事例)から想起した場合として、「トレーニング」を想起したケースがあり、「厳しいけれども、より良くなる」に対して、「経験経済(著書)」の改革レベルの事例にある「自身を変革するため、高額なお金を支払ってまで、厳しいビジネススクールで勉強する」という過去に読んだ著書の具体的な事例から想起しました。

 また、「フィンテック」を想起したケースでは、「節約した電気料金を貯金に回す」に対して、「ウォーキングによる歩数目標を達成することにより、その都度500円を銀行の目的別口座に貯金し、ダイエットした健康な体で貯めたお金を使い旅行へ行く」という特定の企業の具体的な事例から想起しました。

 この中でも、特に、「トレーニング」を想起したケースは、「厳しいけれども、より良くなる」に対して「トレーニング」を想起したものであり、事象を抽象化することにより、「サーモスタット(温度)」から意識を排除することによって、「温度」に関する事例以外の事例(「トレーニング」)を抽出することが可能になったと考えます。

 よって、その前段にあった「完全自動化することより、快適な生活環境を作ることができる」という「サーモスタット(温度)」について、具体的に意識をしていた場合、「サーモスタット」とは全く異なる「トレーニング」を想起することはできなかったと考えます。

 このことより、全く異なる事象を想起するためには、対象となる事象において、「具象」から「具象」へ転換することは難しい場合があることから、一度「具象」から「抽象」へ転換した上で、「抽象」から「具象」へ転換するプロセスが必要であると考えます。

【テクストより想起した場合の思考内容】

 「サーフィンテック」の事例において、事象に対してテクスト(事例)から想起した場合として、「ゲーム」を想起したケースがあり、「厳しいけれども、楽しい」に対して、「楽しい」から「ゲーム」を想起し、そして、「ゲーム」からゲームに関連する「eスポーツ」を想起しました。

 また、「電気料金」を想起したケースがあり、「勝ち抜けば賞金がもらえる」に対して、「サーモスタット」に関わる「温度」と賞金である「お金」を関連付けることにより、「節約した電気料金」を想起しました。

 この中でも、「電気料金」を想起したケースは、連想を繰り返す中で、はじめの事象である「サーモスタット」に対して、少しずつ事象の関連性が低くなることから、賞金である「お金」とはじめの事象である「サーモスタット」に関わる「温度」を、意図的に関連付けることにより、はじめの事象に関連した「節約した電気料金」を抽出することができたと考えます。

 このことより、対象となる事象に対して、関連性を少しずつ低くすることにより、「枠外」へ導きつつ、最終的には、はじめの事象に関連付ける上で、はじめの事象と抽出した事象を関連付けるプロセスが必要であると考えます。

【保有する情報(事例)の重要性】

 これらに関して、過去に入手した情報に基づき、対象となる事象に対して類似する事例を抽出したものであることから、どれだけ有効となる事例を多く保有しているか、そして、対象となる事象と事例が類似するものであると着目し抽出する能力があるかということが重要であると考えます。

 そして、「トレーニング」を想起したケースに関しては、「経験経済(著書)」の改革レベルの事例にある「自身を変革するため、高額なお金を支払ってまで、厳しいビジネススクールで勉強する」という過去に読んだ著書の具体的な事例(情報)を保有していなければ、「トレーニング」という事象を想起することはできませんでした。

 一方で、「ゲーム」を想起したケースに関しては、「楽しい」から「ゲーム」を想起し、そして、「ゲーム」からゲームに関連する「eスポーツ」を想起するなど、具体的な事例(情報)がない場合であっても、一般的な事例として、比較的容易に想起することができます。

 このことより、特に、「トレーニング」を想起したケースのように、具体的な事例(情報)を保有していなければ、「トレーニング」を想起することはできなかったことはもちろん、保有している具体的な事例(情報)が異なる事例である場合は、「トレーニング」とは異なる事象を想起することとなります。

 よって、連想するプロセスにおいて、事象におけるどの部分に注目するかによって、抽出する事例は異なることから、注目する部分が重要であり、注目する部分の数だけアイデアを導出することができ、そして、注目した部分に対して抽出した事例の数だけアイデアを導出することができます。

 このことから、連想するプロセスが長ければ長いほど、無数のアイデアを導出することができる一方で、選択(思考・知覚)する事象が異なることによって、最適なアイデアを導出することができない場合もあります。

【独自性のアブダクション事例の抽出に必要となる能力】

 これらのように、思考をする中で、独自性のあるアブダクション事例を抽出するためには、様々な能力が必要となり、有効な情報を想起する上で、多様な事例を抽出するための「情報力」、今までにはない情報を想起する上で、固定観念を排除するための「批判力」、異なる情報を想起する上で、事象を抽象化するための「抽象力」、枠外のアイデアへ導く上で、関連性の低い事象へ移行(「ずらす」)ための「連想力」、そして、対象となる事象と新たに抽出した事象と関連付けるための「収束力」が必要となります。

 「情報力」とは、「トレーニング」の事象における「経験経済(著書)」の改革レベルの事例にある「自身を変革するため、高額なお金を支払ってまで、厳しいビジネススクールで勉強する」という過去に読んだ著書の具体的な事例(情報)など、多様なケースに対応するため、様々な事例を入手(保有)する能力が必要となります。

 「批判力」とは、「トレーニング」の事象における「完全自動化することにより快適な生活環境にする」を固定観念として捉えたことに対して、「本当に完全自動化することにより快適な生活環境にすることができるのか」というように、固定観念を排除するため、固定観念を批判する能力が必要となります。

 「抽象力」とは、「トレーニング」の事象における「完全自動化することにより快適な生活環境にする」に対して、「厳しいけれども、より良くなる」(真逆事例)というように、異なる情報を想起するため、抽象化する能力が必要となります。

 「連想力」とは、「サーフィンテック」の事例において「サーモスタット」から「トレーニング」「ゲーム」「eスポーツ」「賞金」「電気料金」「節電」「貯金」「フィンテック」へ移行(「ずらす」)したように、関連性の低い事象へ移行するために、連想を続ける能力が必要となります。

 「収束力」とは、「サーフィンテック」の事例において、賞金である「お金」と対象の事象である「サーモスタット」に関わる「温度」を、意図的に関連付けることにより、「電気料金」を想起したように、新たな事象と関連付ける能力が必要となります。


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