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ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #26 「インスピレーション6」(目的再定義編)

 新たなアイデアを生み出すための「ずらして、ひねって、妄想する」事例を紹介します。

 ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #24 「インスピレーション4」(検証編)では、「枠外」のアイデアを導出するためには、究極的状況を想起した上で、本質探究の問いを発することにより、その前後において真逆の事象を抽出することによって、「ずらす」と「ひねる」を行う必要があると説明しました。

 そして、ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #25 「インスピレーション5」(実証編)では、新たなアイデアを導出する上で、新たなコンセプトを設定することにより、究極的状況を想起することによって、「本質探究の問い」を発することができましたが、新たなアイデアを導出できたものの、「枠外」のアイデアを導出するまでには至りませんでした。

 今回は、「本質探究の問い」を発することにより、新たなアイデアを導出することができると共に「枠外」の新たなアイデアを導出することができるプロセスについて説明します。

【「本質探究の問い」による固定観念の排除】

 新たなアイデアを導出するためには、「ずらして、ひねって、妄想する」の「ひねる」を行う必要がありますが、「枠外」の新たなアイデアを導出するためには、発想をする中で、「ずらす」と「ひねる」を行う必要があります。

 「検診不要薬」の事例の場合、「日本」から「発展途上国」へ「ずらす」を行い、「免疫力が低下している」から「免疫力を高める」へ、「ひねる」を行うことができました。

 一方で、新たなコンセプトを設定した事例の場合、「手間を省くことは良い」から「手間を省くことは良くない」へ「ひねる」を行っているのみであり、「ずらす」を行うことはできませんでした。

 このことから、「検診不要薬」の事例の場合においては、第一に、「日本」という「枠内」の常識(固定観念)を排除し、「発展途上国」という「枠外」の常識(固定観念)を受け入れることにより、「ずらす」を行いました。

 第二に、「日本では免疫力が低下している」という常識(固定観念)を排除し、「発展途上国では免疫力が高い」という真逆の事象を受け入れることにより、「ひねる」を行いました。

【固定観念の排除による仮説の構築(アブダクショ)】

 ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #14 「アナロジー2」(概要編)において、アブダクション(仮説推論)とは、特定の事象に対して法則(解決策)を当てはめることにより、全く関係のない仮説を導き出す方法であると説明しました。

 一般的には、「Aには問題がある」に対して「Zの問題には●●という解決策がある」を当てはめ、「Aは●●により解決できる」という全く関係のない仮説を導き出す方法であると説明しました。

 それでは、「検診不要薬」および「新たなコンセプトを設定した事例」の場合、アブダクションの事象・法則(事例)・仮説をどのようにして導き出したのか、アプダクションのプロセスを説明します。

 なお、説明しているアブダクション(仮説推論)は、個人の解釈により説明したものです。

【「検診不要薬」におけるアブダクションのプロセス】

(アブダクション1)
・健康診断が不要となる世界とはどのような世界であるのか 究極的状況想起
・発展途上国では健康診断を受診していない 類似事例(推察)
・日本では健康診断を受診するものである 固定観念(推察) アブダクション1(事象) ※ずらす(「発展途上国」→「日本」)
・日本における赤ちゃんの生存率より、そもそも健康診断をする必要があるのか 本質探究の問い
・発展途上国では健康診断を受診していない 新規事例 アブダクション1(法則)  ※ずらす(「日本」→「発展途上国」) ※ひねる(「受診する」→「受診しない」)
・日本においても発展途上国と同様の環境を作ることはできる アブダクション1(仮説)

(アブダクション2)
・発展途上国では不衛生な中でも健康診断をすることなく健康に育っている 究極的状況想起
・発展途上国では不衛生であることもあり免疫力が高い 類似事例(推察)
・日本では衛生面に配慮しすぎるため免疫力が低下している 固定観念 アブダクション2(事象)
・日本においても発展途上国と同様の環境を作ることはできないのか 本質探究の問い
・(発展途上国のように)ある一定のレベルまで衛生面のレベルを低下させることにより免疫力を高めることができる 新規事例 アブダクション2(法則) ※ひねる(「免疫力が低下している」→「免疫力を高める」)
・予防接種的な発想を活用できる アブダクション2(仮説)

【新たなコンセプトを設定した事例におけるアブダクションのプロセス】

(アブダクション)
・紙オムツという便利なものが存在しない 究極的状況想起
・昔は使い捨てではない不便な布のオムツを使用していた 類似事例
・親の手間を省くためには使い捨ての紙オムツが良い 固定観念 アブダクション3(事象)
・本当に親の手間を省くことが良いことであるのか 本質探究の問い
・手間を省くことにより赤ちゃんの気持ちを理解することができなくなる 新規事例 アブダクション3(法則) ひねる(「手間を省くことは良い」→「手間を省くことは良くない」)
・赤ちゃんと言葉以外でコミュニケーションをとることができるのか アブダクション3(仮説)

【仮説の構築(アブダクション)による目的の再定義】

 「検診不要薬1」の事例の場合、「日本では健康診断を受診するものである」という固定観念に対して、「本当に健康診断をする必要があるのか」という「本質探究の問い」を発することにより、「発展途上国では健康診断を受診していない」という新規事例を抽出しました。

 また、「検診不要薬2」の事例の場合、「日本では衛生面に配慮しすぎるため免疫力が低下している」という固定観念に対して、「本当に日本においても発展途上国と同様の環境を作ることはできないのか」という「本質探究の問い」を発することにより、「(発展途上国のように)ある一定のレベルまで衛生面のレベルを低下させることにより免疫力を高めることができる」という新規事例を抽出しました。

 そして、新たな事例である「(発展途上国のように)ある一定のレベルまで衛生面のレベルを低下させることにより免疫力を高めることができる」に基づき類推することにより、「予防接種的な発想を活用できる」という仮説を構築することによって、健康診断を定期的に受診するのではなく、免疫力を高めるために、常在菌を活用し予防接種する「検診不要薬」というアイデアを導出しました。

 この結果、「健康診断が不要となる世界」というコンセプトを実現する上で、健康診断の目的である「健康管理」から新たに導出した「検診不要薬」の目的である「病気予防」に目的が再定義されたによって、「枠外」のアイデアを導出することができたと考えます。

 ここで重要となるのが、アブダクションの事象より、法則(事例)を抽出し、仮説を導きますが、導くことができる仮説は、はじめから大きく異なる仮説を導き出すことは困難であるため、一度カテゴリーを「ずらす」ことにより、最終的に大きく異なる仮説を導き出すというプロセスを経ることとなります。

 例えば、「検診不要薬」の事例の場合、一度「健康診断」のカテゴリーから「病気(医療)」のカテゴリーへ転移させることにより、「免疫力」「常在菌」「予防接種」と類推するなど、「ひねる」ことによって、「健康管理」から「病気予防」へ目的を再定義させることができました。

 また、「簡易検診オムツ」の事例の場合、一度「オムツ」のカテゴリーから「便」のカテゴリーへ転移させることにより、「臭い」「役立つ」「大腸がん検診」と類推するなど、「ひねる」ことによって、「漏れ防止」から「健康管理」へ目的を再定義させることができました。

 一方で、新たなコンセプトを設定した事例の場合、「ずらす」ことができませんでしたので、「オムツ」のカテゴリーにおいて、言葉以外でのコミュニケーション(「動き」「表情」「視線」)を類推するなど、「ひねる」ことができたものの、同じ目的である「漏れ防止」であることから、目的を再定義させることができませんでした。

 よって、「検診不要薬」の事例の場合、「検診機器」から「医療薬品」へ一気に発想する(閃く)ことが困難であることを勘案すると、「ずらして、ひねって、妄想する」という一定のプロセスを経ない限り、「枠外」の新たなアイデアを導出することは困難であると考えます。

【まとめ】

 「枠外」の新たなアイデアを導出するためには、「ずらして、ひねって、妄想する」の「ずらす」と「ひねる」を行うことにより、目的を再定義する必要があります。

 はじめに、アブダクションの事象となる固定観念を抽出した上で、「本質探究の問い」を発します。「検診不要薬」の事例の場合、「日本では衛生面に配慮しすぎるため免疫力が低下している」という固定観念(推察)を抽出した上で、「日本においても発展途上国と同様の環境を作ることはできないのか」という「本質探究の問い」を発しました。

 次に、「本質探究の問い」を発することにより、アブダクションの法則(事例)を抽出します。「検診不要薬」の事例の場合、「本質探究の問い」を発することにより、「(発展途上国のように)ある一定のレベルまで衛生面のレベルを低下させることにより免疫力を高めることができる」というアブダクションの法則(事例)を抽出しました。

 そして、アブダクションの法則(事例)に基づき、類推することによって、アブダクションの仮説を抽出します。「検診不要薬」の事例の場合、アブダクションの法則(事例)に基づき、「免疫力」「常在菌」「予防接種」と類推することにより、「予防接種的な発想を活用できる」というアブダクションの仮説を抽出しました。

 「枠外」の新たなアイデアを導出するためには、一度「ずらす」ことにあわせ、「ひねる」ことを行うことにより、目的を再定義します。「検診不要薬」の事例の場合、一度「健康診断」のカテゴリーから「病気(医療)」のカテゴリーへ「ずらす」を行い、そして、「免疫力」「常在菌」「予防接種」と類推するなど、「ひねる」ことによって、「健康管理」から「病気予防」へ目的を再定義させることができました。


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