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SHIFT INNOVATION #39 「イノベーション5」(検証編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。

 SHIFT INNOVATION #38 「イノベーション4」(実証編2)において、目的視点による固定観念を抽出することにより、シフト前後において、消費の関係性が共に拡大する関係となることによって、「ブルーオーシャン」を創造する可能性が高まることを説明しました。

 今回は、思考当初は機能視点により固定観念を抽出したものの、思考の途中で機能視点から目的視点に転換した事例である「簡易検診オムツ」に関して、どうして思考途中に目的視点に転換したにもかかわらず、シフト前後において、消費の関係性を共に拡大する関係となる「ブルーオーシャン」を創造することができなかったかについて、検証することとします。

【「簡易検診オムツ」の事例における検証】

 ずらして、ひねって、妄想する DESIGN #4 「アイディエーション3」(ひねる編)において紹介した「簡易検診オムツ」の事例に関して、シフト前後において、消費の関係性がトレードオフの関係となった概要について説明することとします。

 「簡易検診オムツ」の事例の場合、「便は臭くて汚いものである」という機能視点による固定観念に基づき、「オムツの中にある排泄物はどうすることもできないのか」という本質探究の問い(問題提起)を発しました。

 その結果、抽出したアブダクション事例は、経験に基づくコンテクストとして、「排泄物である便は大腸がん検査の検体として活用している」という事例を抽出しました。

 検討をはじめた当初、機能視点により固定観念を抽出しましたが、抽出したアブダクション事例は、経験に基づく目的視点となるなど、思考途中において、機能視点から目的視点へ転換することとなりました。

 しかし、アブダクション事例は目的視点によるものであったにもかかわらず、導出したアイデアは、「オムツに取り付けたデバイスにより、定期的に検診機関へ行き、長時間待たされるということなく、常時オムツから健康情報を入手し、健康管理できるオムツ」というアイデアとなり、シフト前後において、消費の関係性がトレードオフの関係となりました。

【新たなアイデアによる実証】

 それでは、「オムツ」を目的視点による固定観念に基づき、新たなアイデアを導出することにより、シフト前後において、消費の関係性が共に拡大する関係である「ブルーオーシャン」を創造することができるか、実証することします。

 はじめに、「オムツ」の中にある「便」の目的を、「健康状態を把握する」と捉えた場合、便は健康のバロメーターというように、「便により健康状態を把握できる」という固定観念(常識)に対して、「本当に便により健康状態を把握できるのか」という本質探究の問いを発したとします。

 そこで、「便は大腸がん検診の検体として活用している」というアブダクション事例を抽出した上で、「不要物を有効活用する」というように、アブダクション事例を抽象化することによって、例えば、「古着を集めて海外へ輸出することにより、社会貢献する」という類似事例を抽出しました。

 そして、類似事例に基づき、「便」に関わる事象として、「便の健康情報をビッグデータ化することにより、医療課題を解決する」というアブダクション仮説を抽出することができました。

 この結果、「オムツに取り付けたデバイスにより、個々の赤ちゃんから入手した便の健康情報をビッグデータ化することによって、赤ちゃんの医療課題を発見し、解決に役立てることができるオムツ」というアイデアを導出することができました。

(「ビッグデータオムツ」のイノベーションの種類)
テクスト・シフト・イノベーション(コンテクスト・シフト)
①「衛生用品業界」の視点によるイノベーション
 コンテクスト
  「便の漏れを防ぐ」→「多数の健康情報を活用する」
    ※破壊的イノベーション
 テクスト
  「オムツ」→「ビッグデータオムツ」
    ※画期的イノベーション
②「医療業界」の視点によるイノベーション
 コンテクスト
  「個人の健康情報を知る」→「多数の健康情報を活用する」
    ※破壊的イノベーション
 テクスト
  「カルテ」→「ビッグデータオムツ」
    ※画期的イノベーション

 シフト後の医療業界においては、「便の漏れを防ぐ」というコンテクストから、全く異なる「多数の健康情報を活用する」というコンテクストへ転換することにより、新たな無消費を取り込むことが可能であると考えます。

 また、シフト前の衛生用品業界においても、「個人の健康情報を知る」というコンテクストから、個人ではなく「多数の健康情報を活用する」というコンテクスへ転換することにより、新たな無消費を取り込むことが可能であると考えます。

 よって、新たなアイデアである「ビッグデータオムツ」の導出により、シフト前後において、消費の関係性が共に拡大する関係となる「ブルーオーシャン」を創造できる可能性があると考えます。

【当初のテクストと類似事例の関連性】

 「簡易検診オムツ」の事例の場合、機能視点により固定観念を抽出したものの、固定観念に対して抽出したアブダクション事例は、「ビッグデータオムツ」と同様の「排泄物である便は大腸がん検診の検体として活用している」となりました。

 しかし、両事例は共に、「排泄物である便は大腸がん検診の検体として活用している」という同じアブダクション事例ではあったものの、「簡易検診オムツ」の事例の場合は、消費の関係性がトレードオフの関係である「レッドオーシャン」となり、「ビッグデータオムツ」の事例の場合、消費の関係性が共に拡大する関係である「ブルーオーシャン」となりました。

 同じアブダクション事例であるにもかかわらず、どうして「簡易検診オムツ」の事例の場合は「レッドオーシャン」となり、「ビッグデータオムツ」の事例の場合は「ブルーオーシャン」となったのでしょうか。

 これに関して、「簡易検診オムツ」の事例の場合は、アブダクション事例である「排泄物である便は大腸がん検診の検体として活用している」に対して抽象化したアブダクション事例が、「情報を有効活用する」となることによって、抽象化したアブダクション事例より抽出した類似事例は、「便は健康のバロメーターである」となりました。

 一方で、「ビッグデータオムツ」の事例の場合は、アブダクション事例である「排泄物である便は大腸がん検診の検体として活用している」に対して抽象化したアブダクション事例が、「不要物を有効活用する」となることによって、抽象化したアブダクション事例より抽出した類似事例は、「古着を集めて海外へ輸出することにより、社会貢献する」となりました。

 これは、アブダクション事例を抽象化する場合、「簡易検診オムツ」の事例の場合は、アブダクション事例である「排泄物である便は大腸がん検診の検体として活用している」における「便」に着目したことにより、抽象化したアブダクション事例が「情報を有効活用する」となりました。

 一方で、「ビッグデータオムツ」の場合は、アブダクション事例である「排泄物である便は大腸がん検診の検体として活用している」における「排泄物」に着目したことにより、抽象化したアブダクション事例が「不要物を有効活用する」となりました。

 これらの結果、「簡易検診オムツ」の事例の場合、当初のテクストである「便」と抽象化したアブダクション事例との関連性が高いため、同じ「便」の範囲となる「便は健康のバロメーターである」という類似事例となり、「ビッグデータオムツ」の事例の場合、当初のテクストである「便」と抽象化したアブダクション事例との関連性が低いため、「便」とは異なる範囲となる「古着を集めて海外へ輸出することにより、社会貢献する」という類似事例となりました。

 よって、アブダクション事例を抽象化する上で、着目する視点と当初のテクストとの関連性の範囲の違いによって、抽出する類似事例の範囲も異なることとなり、着目する視点と当初のテクストとの関連性が高い場合は、「枠内」の範囲へのシフトに留まることとなり、着目する視点と当初のテクストとの関連性が低い場合は、「枠外」の範囲へシフトすることになると考えます。

【「枠内」でのシフト・「枠外」へのシフト】

 それでは、「簡易検診オムツ」の事例の場合、当初のテクストである「便」と類似事例の関連性が高いことから、「枠内」の範囲へのシフトに留まることとなり、「ビッグデータオムツ」の事例の場合、当初のテクストである「便」と類似事例の関連性が低いことから、「枠外」の範囲へシフトすることとなりました。

 「簡易検診オムツ」の事例の場合と「ビッグデータオムツ」の事例の場合とでは、思考途中において、どのようなシフトが生じたのでしょうか。

 「簡易検診オムツ」の事例の場合、抽出した類似事例である「便は健康のバロメーターである」から抽出したアブダクション仮説は、「排泄物より抽出する健康情報を有効活用する」となったことから、テクストである「便に関わる個別データ」を活用するのみとなったため、テクストはシフトしませんでした。

 一方で、「ビッグデータオムツ」の事例の場合、抽出した類似事例である「古着を集めて海外へ輸出することにより、社会貢献する」から抽出したアブダクション仮説は、「個々の赤ちゃんから入手した便の健康情報をビッグデータ化することにより、医療課題を解決する」となったことから、テクストである「便に関わる個別データ」ではなく、「便に関わるビッグデータ」を活用することとなったため、テクストが「個別」から「多数」へシフトすることとなりました。

 このことより、「簡易検診オムツ」の事例の場合、「枠内」の範囲においても、コンテクストもしくはテクストがシフトしなかったことから、改善レベルに留まる場合があるなど、「レッドオーシャン」となったのではないかと考えます。

 一方で、「ビッグデータオムツ」の事例の場合、「枠外」の範囲へ、コンテクストもしくはテクストがシフトしたことから、現状に対して改革レベルになる場合があるなど、「ブルーオーシャン」となったのではないかと考えます。

 よって、コンテクストもしくはテクストのシフトの有無によって、導出するアイデアも異なることとなり、コンテクストもしくはテクストがシフトせず、「枠内」の範囲に留まる場合は、「レッドオーシャン」となる場合があり、コンテクストもしくはテクストがシフトすることにより、「枠外」の範囲にシフトする場合、「ブルーオーシャン」となる場合があると考えます。

 これらのことから、消費の関係性が共に拡大する関係である「ブルーオーシャン」を創造するためには、目的視点に基づく固定観念を抽出することにあわせ、コンテクストもしくはテクストを「枠外」の範囲へ大きくシフトさせる必要があると考えます。

【「簡易検診オムツ」および「ビッグデータオムツ」の思考プロセス】

(「簡易検診オムツ」の思考プロセス)
アブダクション事象(固定観念)
「オムツの中にある排泄物はどうしようもなく、不快なものである」
本質探究の問い
「オムツの中にある排泄物はどうすることもできないのか」 
アブダクション事例
「排泄物である便は大腸がん検査に活用している」
アブダクション事例の抽象化
「情報を有効活用する」
アブダクション仮説
「便の健康情報を上手く活用できる」
  「個別データ」を維持
アイデア
「オムツに取り付けたデバイスにより、定期的に検診機関へ行き、長時間待たされるということなく、常時オムツから健康情報を入手し、健康管理できるオムツ」(「簡易検診オムツ」)

(「ビッグデータオムツ」の思考プロセス)
アブダクション事象(固定観念)
「便により健康状態を把握できる」
本質探究の問い
「本当に便により健康状態を把握できるのか」
アブダクション事例
「排泄物である便は大腸がん検査に活用している」
アブダクション事例の抽象化
「不要物を有効活用する」
類似事例
「古着を集めて海外へ輸出することにより、社会貢献する」
アブダクション仮説
「個々の赤ちゃんから入手した便の健康情報をビッグデータ化することにより、医療課題を解決できる」
  「個別データ」から「ビッグデータ」へ転換
アイデア
「オムツに取り付けたデバイスにより、個々の赤ちゃんから入手した便の健康情報をビッグデータ化することによって、赤ちゃんの医療課題を発見し、解決に役立てることができるオムツ」(「ビッグデータオムツ」)


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