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SHIFT INNOVATION #41 「クリティカル思考2」(固定観念分類編)

 新たなアイデアを生み出すための「SHIFT INNOVATION」の事例を紹介します。

 一般的に常識と思われていることは、実は常識ではなく、単に自身の中における思い込みである、つまりは固定観念であるという場合があります。

 そして、その常識、固定観念に囚われたままアイデアの導出を試みると、固定観念に基づく、今までとは変わることのない、「枠内」のアイデア(レッドオーシャン)を導出することとなります。

 そこで、「枠外」のアイデア(ブルーオーシャン)を導出するためには、その常識、固定観念に気付く必要があり、そのためには、固定観念の特性を理解する必要があると考えます。

 今回は、「枠外」のアイデア(ブルーオーシャン)を導出する上で、どのような視点により批判すべき固定観念を捉えれば良いかを理解するため、固定観念を捉えるための視点や固定観念の特性に関して分類することとします。

【固定観念に対する視点および特性】

 はじめに、SHIFT INNOVATION #37 「イノベーション3」(実証編1)において導出した「ゲームスタット」の事例 および#38 「イノベーション4」(実証編2)において導出した「サーフィンテック」の事例に基づき説明することとします。

 導出した「ゲームスタット」の事例の場合、サーモスタットの不便益に関する機能視点による固定観念に対して、本質探究の問いを発しました。事例では、「温度のコントロールをカスタマイズしたいのではなく、温度をコントロールすることなく、気持ちよく過ごしたい」というインサイトに対して、「普通のサーモスタットは細かい設定をしないといけないので面倒である」という機能視点による固定観念を抽出したことにより、「本当に細かい設定をすることは面倒であるのか」という本質探究の問いを発しました。

 一方で、導出した「サーフィンテック」の事例の場合、サーモスタットの便益に関する目的視点による固定観念に対して、本質探究の問いを発しました。事例では、「ゲームスタット」の事例と同様、「温度のコントロールをカスタマイズしたいのではなく、温度をコントロールすることなく、気持ちよく過ごしたい」というインサイトに対して、「完全自動化することより、快適な生活環境にすることができる」という目的視点による固定観念を抽出したことにより、「本当に完全自動化することにより、快適な生活環境になるのか」という本質探究の問いを発しました。

 一般的には、プロダクトやサービスにおける不便益に関する固定観念に対して、本質探究の問いを発することにより、固定観念を排除することとなりますが、「サーフィンテック」の事例の場合、「完全自動化することより、快適な生活環境にすることができる」というように、あえて便益に関する固定観念に対して、本質探究の問いを発しました。

 このように、「完全自動化することより、快適な生活環境にすることができる」というような、誰もが望んでいると想定されること自体を疑うことにより、「本当に快適な生活環境が人間にとって良いことであるのか」、「人間にとってもっと良い生活環境があるのではないか」という常識(固定観念)自体を疑うことが、シフト前後における消費の関係性が共に拡大する関係となる「ブルーオーシャン」を創造する、つまりは、「枠外」のアイデアを導出するきっかけとなるのではないかと考えます。

 それでは、固定観念を抽出するにあたり、固定観念の特性に関して、目的視点による固定観念であるのか、機能視点による固定観念であるのか、また、不便益に基づく固定観念であるのか、便益に基づく固定観念であるのかに関して、分類することとします。

【イノベーションの起点となる固定観念の分類】

1.固定観念(目的視点・便益)
「完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができる」

2.固定観念(目的視点・不便益)
「快適な生活環境にすることにより、人間の季節感を無くしてしまう」

3.固定観念(機能視点・便益)
「カスタマイズすることにより、自分にあった最適な温度に調節することができる」

4.固定観念(機能視点・不便益)
「カスタマイズするためには、細かい設定をする必要があるので面倒である」

【目的視点により固定観念を想起することの重要性】

 「枠外」のアイデアのきっかけとなるアブダクション事例を抽出するためには、各フェーズにおいて分岐点があり、各々の分岐点において、思考もしくは知覚により選択する必要があります。

 はじめに、誰もが望んでいるようなニーズに対して、目的視点による固定観念であるのか、機能視点による固定観念であるのか、また、その固定観念が、便益に関する固定観念であるのか、不便益に関する固定観念であるのかを思考もしくは知覚することにより選択します。

 次に、選択した固定観念に対して問題提起(本質探究の問い)をすることにより、固定観念に対して、類似する事例を抽出するのか、真逆の事例を抽出するのかを思考もしくは知覚することにより選択します。

 例えば、抽出する固定観念の事例として、「サーフィンテック」の事例の場合、「完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができる」という目的視点による便益に関する固定観念を抽出しました。

 そして、捉える固定観念を、機能視点による便益に関する固定観念とした場合、「カスタマイズすることにより、自分にあった最適な温度に調節することができる」となり、目的視点による不便益に関する固定観念とした場合、「快適な生活環境にすることにより、人間の季節感を無くしてしまう」となります。また、機能視点による不便益に関する固定観念とした場合、「カスタマイズするためには、細かい設定をする必要があるので面倒である」となります。

 次に、抽出するアブダクション事例の事例として、「サーフィンテック」の事例の場合、「厳しいトレーニングをすることにより、健康な体を作ることができる」という真逆の事例を抽出しました。

 これは、「完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができる」という固定観念における「完全自動化する」に対して、「自動」を「手動」と捉え直した上で、手動であっても、良い状態(快適な生活)にすることができる事例として、「トレーニング」を想起したことにより、「厳しいトレーニングをすることにより、健康な体を作ることができる」という真逆の事例を抽出しました。

 一方で、「完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができる」という固定観念における「快適な生活環境を作ることができる」に対して、「快適」を「厳しい」に捉え直した上で、自動により悪い状態(厳しい環境)にすることができる真逆の事例として、「ドライビング」を想起することにより、「自動運転化すると、ドライビングの楽しみがなくなる」という事例を抽出することとなります。

 そして、「完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができる」という固定観念に対して、「自動」により「快適」となる類似の事例として、「Amazon」を想起することにより、「Amazonのようなレコメンド情報があると便利である」という類似する事例を抽出することとなります。

 これらのように、各フェーズにおいて、「機能視点」「目的視点」、「便益」「不便益」、「真逆事例」「類似事例」など、各フェーズの分岐点において、どのパターンを選択するかによって、想起するテクストが異なることとなり、そして、抽出されるアブダクション事例も異なることとなります。

 よって、「枠外」のアイデアのきっかけとなる独自性のあるテクストおよびアブダクション事例を抽出する上で、固定観念に対して意味ある問題提起(本質探究の問い)をするためには、固定観念を捉える視点が重要となり、特に目的視点により固定観念を捉えることが重要になると考えます。

【想起するアブダクション事例の事例】

1.固定観念(目的視点・便益)
ニーズ
「完全自動化することより、快適な生活環境にしたい」
固定観念
「完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができる」
問題提起(本質探究の問い)
「本当に完全自動化することにより、快適な生活環境を作ることができるのか」
アブダクション事例
「Amazonのようなレコメンド情報があると便利である」※類似事例「(ネスト)サーモスタット」
「自動運転化すると、ドライビングの楽しみがなくなる」※真逆事例
「厳しいトレーニングをすることにより、健康な体を作ることができる」※真逆事例「サーフィンテック」

2.固定観念(目的視点・不便益)
ニーズ
「完全自動化することより、快適な生活環境にしたい」
固定観念
「快適な生活環境にすることにより、人間の季節感を無くしてしまう」
問題提起(本質探究の問い)
「本当に快適な生活環境は、人間の季節感をなくしてしまうのか」
アブダクション事例
「自動運転化することにより、自分で運転する感覚が鈍くなってしまう」※類似事例
「デジタル化により、自宅にいながら様々な文化に触れることができる」※真逆事例

3.固定観念(機能視点・便益)
ニーズ
「サーモスタットを快適な温度にカスタマイズしたい」
固定観念
「カスタマイズすることにより、自分にあった最適な温度に調節することができる」
問題提起(本質探究の問い)
「本当に自分にあった最適な温度に調節することができるのか」
アブダクション事例
「1人で食事をすると好きな料理を食べることができる」※類似事例
「パソコンの種類が多すぎると、どのパソコンを選べば良いか迷ってしまう」※真逆事例

4.固定観念(機能視点・不便益)
ニーズ
「サーモスタットを快適な温度にカスタマイズしたい」
固定観念
「カスタマイズするためには、細かい設定をする必要があるので面倒である」
問題提起(本質探究の問い)
「本当に細かい設定をするのは面倒であるのか」
アブダクション事例
「スマートフォンの初期設定はよくわからないので不安である」※類似事例
「Amazonのようなレコメンド情報があると便利である」※真逆事例「(ネスト)サーモスタット」
「ゲームをするための細かい設定は楽しい」※真逆事例「ゲームスタット」

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