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『魔人探偵脳噛ネウロ』の緻密なストーリーテリング ②

ということで、ジャンプで1,2位を争う好きな漫画『魔人探偵脳噛ネウロ』をストーリーテリングの面から語る、第2回目です。第1回目の投稿はこちら↓

第1回目で書いた「HAL編」終了後、数人の犯人を相手したりギャグ回を挟み、宿敵であるX.I(サイ)との再戦終了間際、本シリーズのラスボス「シックス」と出会い、ついに最終章「シックス編」が始まるわけですね。当初連載で読んでた時、まあサイがこのままラスボスなわけねーよなミスリードだよなと思ってたのでうれしかったのを覚えています。

前回の「HAL編」がストーリーテリングの面から最高峰といいましたが、「シックス編」は特異な能力をもつ幹部が出てきたり、ネウロが次々に最強クラスの能力を使いまくったりしつつ現実世界で人間たちも巻き添えにしまくりながらバトりまくるという、より少年漫画然とした展開を見せます。しかしそこはネウロ。バトル漫画然としながらその展開には容赦がなく、他作品とは一線を画しています。

①「シックス」という存在

いわゆる「絶対悪」です。葛西という幹部キャラが語ったセリフがまま作者の意見であり、こいつを思いついたからこそここまでバトル漫画然としたというかシックス編が壮大なストーリーになったんじゃねえかとすら思えます。

「今や世の中は…やたら性善説がはびこってる。法律がその代償。「生まれついて悪い奴なんて存在しない」「犯罪を犯す側にもそれなりの理由はあるんだ」って。最近じゃ映画とかマンガだってそうだろ?「本当は善い奴だったんだ」みたいなラスボスばっか。

「仲間を思って仲間のために悪いことをした」だの「自身のトラウマを克服したいから悪いことした」だの、そんな半端な悪倒しても…見てる側はスッキリも何もできやしねえ。とにかく純粋な「悪」がいないってのが今の世界の定説になってる。

違うんだ。

いるんだよ『悪』は。結果悪だとか必要悪だとかそんな不純な悪じゃない。『絶対悪』だ。」 --コミックス11巻より引用

ということでこのシックス、ジャンプギリギリのところまで攻めます。拷問・虐殺・人体実験。まあ正直『絶対悪』の印象付かせ方がそれに重きを置きすぎた感は否めないですが(あと絶対に作者の趣味が入ってる)、とはいっても確かに上記のセリフを体現するように半端なトラウマ系ラスボスや理想郷系ラスボスとは異なる、「何だか知らんがとにかくこいつどうにかしないとやばい」と思わせる素敵なキャラだったといえるでしょう。

ジャンプ往年の『絶対悪』といえば、かの「ドラゴンボール」のフリーザ(最近味方になっちまいましたが…)、「るろうに剣心」の志々雄真実、あたりがぱっと思いつきますが、最近だと社会現象になっている「鬼滅の刃」の無惨や「呪術廻戦」の真人など、少し「絶対悪」が増えてきている気がしますね。

②容赦のない展開

これも最近のジャンプマンガがそうなってる気がしますが、とにかく終盤にかけての展開が容赦がないです。まあほぼシックスのせいなのですが、ネームドキャラがばかすか死んでく。ヒロインの弥子の心を何としてでも追ってやろうという強い意志すら感じる展開。そもそもシックスの幹部しょっぱなのDR戦からして、「DRが川を決壊させると未曽有のテロを起こして数千人を溺死させる」という、これ3.11が起きてしまった現代だと刊行できなかったのではという展開から始まりまして、犠牲者が多い多い。※まあこの手のにありがちな、DRが一番被害もたらしたよね…という展開になってしまったのも事実なんですが。

しかしその容赦のない展開がバックにあるからこそ、次の③・④が映えるのです。

③ネウロと弥子の絆の物語

前回のnoteでも触れましたが、徹頭徹尾、この③こそがこの漫画の根幹です。HAL編でネウロにできない役割を担うことで、ネウロと対等な存在となった弥子ですが、今作では上記の②の展開により一度心が折れてしまいます。そこでネウロから絶縁を切り出された弥子でしたが、親友アヤ・エイジアの説得によってふたたび心を奮起させてネウロのもとへと戻ります。

ここの描写がとにかく最高なんですね。具体的には、ネウロが人の心を理解しようとアヤのもとへきて歌を聴くシーンには図らずもぐっときました。結局理解できないのもいい。(ここでネウロが安っぽくなったら元も子もない)ラストバトルで互いが完全に理解しあって信頼しあってるのもいい。あと、ここでアヤに語った弥子のセリフがこれまたものすごくよい。ただ、これは改めて思ったのですが、これを言った相手がアヤってのがまた何とも言えないよなあ…。

「よく例えられるけど、人と人との出会いは…磁石に似てると思います。その人と出会うと、磁力同士がひきつけあってくっついて…私自身の体積が増える。それはうれしいことだけど、でもその人が私の前から消える時、その人の磁力が大きければ大きいほど…出会ったとき以上に私の体積をもってっちゃう。

…だったら、もう出会わなきゃいい。大事な人なんて少ない方が、増えもしないけど減りもしないから。」--コミックス21巻から引用

④悪への処分の仕方

と、①~③までまじめなこと書いてましたので④で締めたいと思います。ヴァイジャヤのように悲しい悪になってしまった奴や、ジェニュインや葛西みたいにくそ悪なくせに格好よく散ってった奴もいますが(葛西は絶対こういうおいしい役になると思ってたよ…)、他はもーネウロによってひっでえ目にあって容赦なく散っていきます。

特にDRは、「千を超える罪状がある。今からそれを身体中に刻んでやろう。貴様は吾輩を怒らせたのだ。ダニめ。」というネウロで終わったかと思いきや、まさかの1話分まるまる拷問に費やされるというありさま。いや、もうね。この話で嬉々としてボッコボコのケチョンケチョンのギッタンバッタンにしまくるネウロが格好良すぎてダメでした。「私はダニですと言ってみろ」と言っておきながら言いかけたら「川の音がうるさいな、聞こえん。」と流してみたりとか腹がよじれるほど笑った。作者曰く、本当はもう1話費やしたかったとの事。だめだこいつ。


…ということで、全然まとまってませんが『魔人探偵脳噛ネウロ』の緻密なストーリーテリング、を2回にわたってお届けしました。ストーリーテリングの面でいうとHAL編の方がおすすめなことは間違いないですが、シックス編は一風変わったバトル、容赦のない展開、シックスというジャンプ屈指の絶対悪、弥子とネウロの絆の物語の完結、と見どころがたくさんです。そもそも昨今の大概のジャンプマンガよりよっぽど面白い。松井優征の「ネウロなみに尖った作品」でのジャンプ復帰を願いたいと思います。


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