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吉開菜央と仲本拡史の共同監督作品「ナイト・シュノーケリング」のワールドプレミア上映が決定!

ヨーロッパで最も重要なドキュメンタリー映画祭のひとつ、ヴィジョン・デュ・レールで、新作「ナイト・シュノーケリング」のワールドプレミア上映が決まりました。三浦半島の沿岸海域をモチーフとした、仲本拡史と吉開菜央の共同監督作品です。映画祭は2021年4月15日から、オンラインとオフラインの両方で開催するようですので、ぜひご覧ください。

映画祭URL:https://www.visionsdureel.ch/en/film/2021/night-snorkeling/

ヴィジョン・デュ・レールの会場は、スイスのジュネーブにほど近い、ニヨンという美しい街にあります。この映画祭は、ドキュメンタリーの中でも、特に先進的な試みをしている作品が上映されることで有名で、過去にはヴェルナー・ヘルツォークやピーター・グリーナウェイなどが受賞しています。ドキュメンタリーといっても、フィクションの要素を取り入れたり、実験映画や、現代美術的なアプローチが見られる作品も多く含まれています。僕は2014年に「IR PLANET」という、赤外線カメラで撮影したカニの映画の上映のために、現地を訪れましたが、目の醒めるような映画にたくさん出会うことができました。

昨年はコロナ禍のため、ヴィジョン・デュ・レール初のオンライン上映が行われたので、SNSでたくさんの映画を紹介していました。今年は会場での上映もありますが、残念ながら、現在の状況を鑑みて、現地を訪れることができませんので、またオンラインで、できる限りたくさんの映画を観て、紹介していきたいと思います。

「ナイト・シュノーケリング」の制作の経緯についても書いておきたいと思います。この映画は、ほとんど偶然のように生まれました。コロナ禍が少しだけ落ち着いたように見えていた、2020年の夏の終わり頃、吉開さんから、大橋可也さんのダンス公演の映像制作のために、三浦半島の海岸を案内して欲しいという依頼を受けました。吉開さんの撮影と案内の傍ら、僕はいつもの日記のように、iPhoneで記録の映像を撮影していました。撮影をしながら、せっかくだからと互いに映像を渡し合うことに決め、それぞれに編集をすることにしました。そうして吉開さんは公演のための映像を完成させ、僕はこの映画を作りました。編集には2日もかからず、一息に出来あがったことを覚えています。ひとつの小さな旅をきっかけに、思いがけず生まれた、双子のような映画のひとつです。

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制作のきっかけになった大橋可也さんの公演は、市川春子のマンガ「25時のバカンス」に着想を得たものでした。撮影の時点で、僕はまだこの作品を読んでいませんでしたが、吉開さんの持っていた作品のイメージと、美しい撮影によって、この世界に近付いていった気がします。ダンス公演も、後日読んだマンガも、素晴らしいものでした。

Kakuya Ohashi and Dancers 大橋可也&ダンサーズ:https://dancehardcore.com/topics_lustrous_plus_25.html

ワールドプレミアがヴィジョン・デュ・レールであることにも、感慨があります。2014年に、この映画祭のレトロスペクティブで観た、ロス・マケルウィーの「Sherman's March」のことを覚えています。内容は、監督自身の失恋をきっかけにして、南北戦争の英雄、シャーマン将軍の足跡を辿りながら、彼が個人的に関わりのあった異性の友人たちに会いに行くという、ちぐはぐで、風変わりなドキュメンタリーです。

彼は、ジャン・ルーシュなどと共に、シネマ・ヴェリテの作家として紹介されています。シネマ・ヴェリテとは、手持ちカメラや同時録音によって被写体に「真実(ヴェリテ)」を語らせるものとされています。カメラと録音機の小型化に伴って、映画制作がより自由に、少人数で制作できるようになったことで生まれてきたスタイルです。「ナイト・シュノーケリング」は、今最も手軽な手持ちカメラである、iPhoneのみで実験的な撮影を行なったという意味で、シネマ・ヴェリテのあり方を引き継いでいるといえるかもしれません。この映画では、2人の監督が互いにカメラを持って撮影をしています。必ずしもイメージ通りの撮影をしていたわけではなく、様々な偶然に助けられながら、たくさんの海の生き物と出会っていきました。

マケルウィーは、彼自身が経験したトラウマによって、個人的な考えと、専門的な考えを区別することが困難になったことが「Sherman's March」の制作に影響したと述べています。僕には、トラウマというほど大袈裟なものはありませんが、個人的なことと専門的なことをこれまで、むしろ積極的に混同しながら制作を行なってきました。僕は、僕の頭で考えていることを、映画の中で説明しようとは一切していません。ただ、かけがえのない時間に、カメラが寄り添ってくれたように感じています。そういった意味で「ナイト・シュノーケリング」は、極めて個人的な映画です。もしかしたらこの道は、マケルウィーが導いてくれたのかもしれません。

逗子に引っ越して3年。僕にとっては「Lager Than Life」に続く、三浦半島シリーズの2つ目のピースとなる映画です。人の行動によって引き起こされた危機の最中にも関わらず、自然環境にまつわる映画を作れた幸運に感謝したいと思います。

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あらすじ

『ナイト・シュノーケリング』では、吉開菜央と仲本拡史が、携帯電話のカメラとスキューバ・スーツを携えて、海の冒険に繰り出す。人けのない海では、波に飛び込んで美しい風景を撮影し、日が暮れると、魔法のような光で海を照らす生き物たちと出会う。新しい発見への情熱に駆られた2人の監督は、躊躇うことなく海の生物の一部となり、やがて彼らの人工的な光が、プランクトンやクラゲの光と対話するようになる。カニ、ヒトデ、奇妙な海綿が、海の隠された謎を伝えるメッセンジャーとなる。『ナイト・シュノーケリング』は、海への旅を撮影したホームビデオのような装いで、自然の異質さと私たちの関係について論じている。信じがたい奇妙な生物を観察することで、この映画は、私たちの惑星の複雑さを称賛し、私たちがそれらと結びつく能力を問いかけている。

レベッカ・デ・パス(ヴィジョン・デュ・レール選考委員)

映画祭名:第52回Visions du Réel International Film Festival
開催期間:2021/4/15-25
開催場所:Nyon(Switzerland)
部門:International Medium Length & Short Film Competition
URL:https://www.visionsdureel.ch/en/film/2021/night-snorkeling/


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吉開 菜央(よしがい なお)
映画作家・振付家・ダンサー。1987年山口県生まれ。日本女子体育大学舞踊学専攻卒業、東京藝術大学大学院映像研究科修了。作品は、国内外の映画祭での上映をはじめ、展覧会でもインスタレーション展示されている。MVの監督や、振付、出演も行う。監督した主な映画は『Grand Bouquet』(カンヌ国際映画祭監督週間2019正式招待)、『ほったまるびより』。米津玄師MV『Lemon』出演・振付。
https://naoyoshigai.com/

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仲本 拡史 (なかもと ひろふみ)
映像作家。1986年8月19日、横浜生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。西イングランド大学に交換留学し、現代美術を学ぶ。監督した主な映画は『無言の乗客』(ベルリン映画祭/2013)、『IR PLANET』(ヴィジョン・デュ・レール/2014)、『宇宙の舟 2016』(イフラヴァ国際映画祭/2017)など。ホテルなどの人工的な空間に、カニやヤドカリなどの動物を持ち込み、動物と自己、カメラのの3者の関係を緊張感を持って描く「動物SF」シリーズは、各国の映画祭や芸術祭で上映、展示される。2014年から「ひかるどうぶつえん」の立ち上げと運営に関わる。2018年より神奈川県逗子市に居を移し、映像表現のレクチャー、ワークショップ、上映などの活動を行う団体「逗子アートフィルム」を立ち上げる。「螺旋の映像祭」ディレクター。関東学院大学非常勤講師。
http://www.hirofuminakamoto.com/

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