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7年振りに全員集合した話

7年ぶりに全員集合したのだった。

東京へ出張へ行くことになり、予定を組んでみるとどうやら夕方過ぎにはすべて用事が片付きそうだったので、早速「柚と楽しい仲間たち」に声をかけた。そのうちふたりは新宿のコチンニヴァースでカレーを食べたゆずねーとあゆみちゃんなのだが、残りのモモ松さんとみちゃんにはもう長いこと会えていない。


平日の夕方、全員働く婦人なのでどうかなあと思ったがなんと全員集合できると言う。出発ギリギリまで話せるよう、店は品川駅近辺で探すことにした。
「またカレー?」
「そりゃそうでしょう」
ということで2週間も前に予約を入れ、比較的時間に余裕があったわたしとみちゃんが品川駅でまず集合して店へ行き、その他3名はおのおの現地集合となった。


品川駅高輪口、エスカレーターを降りると久しぶりに会うみちゃんがすでに待っていた。こういう時、本当に「わぁーーー!!!」と声が出ることをわたしは前回の新宿で学習した。
「わぁーーーー!!!みちゃーーーん!!」
「わーー!久しぶり〜〜!!」
「ちょっとー早くない?だいぶ待った?ごめんごめん、やだやだ変わんないねえ!元気だった?やだーー!すっごい久しぶりだよねええ!!」
金曜の夜の高輪口はまあまあ人がいたけれどそんなことは気にせず一気にオタク喋りが爆裂する。やだってなんだよ。やだじゃねえだろ、でもやだって言っちゃう、オタクだから。

「みんなで会うの何年振りか覚えてる?」

みちゃんはこの「柚とゆかいな仲間たち」が誇る頼れる女なのだった。安心してなんでも任せられる『段取り』担当だった。

「何年振りだろう…うーん…コロナ前からしばらく会えてなかったしねえ…うーん…何年?5年とか?」
かくいうわたしはどう考えても『適当』担当だ。

「7年だよ、どうだったかなーって調べてみたら南青山行ったのが最後だった」
「なーなーねん!!!」
そしてお互いしみじみと顔を見合わせた。
「会えてうれしいねぇ」
「ほんとに」

予約したカレー屋までは高輪口から徒歩で3分ほどらしい。記憶の中の高輪口と全く違う風景にふたりとも驚きつつ向かったデヴィインディアは、とあるビルの中にあった。
エレベーターを降りるとビルの中とは思えない雑居感で、インド系の外国人が手持ち無沙汰に立っていた。彼の国の方は思慮深い面持ちをされているので、何か難しいことを考えているようで話しかけるのに躊躇したりもするが、その実、たいして何も考えていないことをわたしは知っている。なので何も気にせず普通に声をかけた。

「予約したワタナベです」
「ヨヤク???…アア、二人ネ」
彼はピースをしてわたしとみちゃんを見ているが、予約は二人じゃない。
「5人なんですけど」
「ゴニン??」
と予約表を確認するわけでもなく彼は店の奥を指差して、アチラドウゾと言った。
彼が指定した席はずいぶんと広く、10人分のお皿がセットされていた。
「いや、これはなんぼなんでも広いやろ」とみちゃんに言うと、みちゃんも「確かに広すぎる」と言い、わたしたちは勝手にその隣の6人用の席に座った。
自分の指示を無視するかたちで席に着いたことを何か言うのかと思ったら彼はなにもなかったように、メニュデス、と言ってメニューを置いていった。

メニューにはセット的なものはないようで写真も少ないしどれくらいの量なのかもいまいちわからず、まあそのうち誰か来たらでいいか、とわたしたちふたりは懐かし話をしたりこの期に及んで「デヴィインディア おすすめ」などとググったりしていた。
そうこうしているうちに「やあやあ!」とあゆみちゃんがやってきた。
つい三ヶ月ちょい前に会ったばかりなので特に感想はないが、みちゃんとあゆみちゃんは7年ぶりだ。
「みちゃーーん!久しぶり〜!」
「久しぶり〜!」
「わー元気そう〜!」
「あゆみちゃんも〜!」
「久しぶりだよねえ〜」
「7年振りだよ」
「7年?!!!え?どこ行った以来?」
「南青山だって、えーっとほら、TOBICHI」
「……え?なんて?とび?」
「トビチトビチ、もうなくなってるけど」
「あー!……ん?インフルエンサーがいた時?」
「そうそう、ヨックモックで」
「いたねーー!…で?何か頼んだ?」
「あ、いや、誰か来たら頼もうかって」
「今、おすすめググってた」
「ググるな」
「いや、ナンが美味しいらしいよ?」

などと三人で言っているうちに、やってるやってる、と言いながらモモ松さんが到着した。モモ松さんと会うのはわたしも7年ぶりだ。
またひとしきり
「ちょっと〜!変わんないねえ!!」
「久しぶり〜!!」
「やだ〜!!」
の応酬があり、
みちゃんの「何年振りだと思う?」が差し込まれ、
モモ松さんが「えー……何年ぶり?」と当惑しーの、
先着組の、7年ぶりだってよ!が繰り返された。

「えーー!7年?」
「そうそう、南青山のTOBICHIでほら、試食会があった時」
「あーーバルミューダのご飯の!」
「そのあとヨックモック行ったよね」
「行った行った」
「ほら、インフルエンサーが」
「そうだ、インフルエンサーがずらーっとパフェとか撮影だけして丸残ししてた時!」
「そうそう!」

モモ松さんが投入されたことでちょっと話が進んだ。

「で?何か頼んだ?」
ここでようやく本腰を入れてメニューと向き合う。
すでにわたしとみちゃんが入店してから20分、そこからあゆみちゃんが到着してさらに10分は経過している。

「いやそれが」
「隣がね」

そう、あゆみちゃんが到着して間もなく、最初にわたしとみちゃんが指定された大テーブルにインドの方々っぽい12人くらいのグループが着席されたのだった。
あの人たちなら何かきっと美味しいものを頼むに違いない。
そう思ってチラ見しながら待っていたのに。

「ちっとも頼みゃーしねえのよ」
「飲み物ばっか頼んじゃって」
「全然食べ物こない」
「いつ来るかいつ来るかと思ってんのに」
「期待してんのに」


ブッダの頭あたりから向こうはインドの方々が座っている。


口々に言うわたしとあゆみちゃんを、モモ松さんは呆れたような顔をして見ていた。
「え、全然決めてないの?」
「いくつかは考えてあるよ、まずこのチーズフライと」
「あとナンがおいしいらしいよ?」
「そうそう」
「…あとほうれん草のカレーとビリヤニ?………それくらいかな?まだ」
「迷っちゃってさぁ」
「じゃあ、カレーは何種類にする?」

モモ松さんが入るとほんとにオーダーがさくっと決まる。
バランス良くこれとこれと、あとはこのあたりで、飲み物どうする?とさっきまでのグダグダが嘘のように決められていく。夢のようだ。なんなんだあたしとみちゃんとあゆみちゃんのあの無駄な時間は。どこへ行ってちゃっちゃと決めてくれるモモ松さんは『オーダー』担当とも言える。

結局、飲み物はモモ松さんとみちゃんがノンアルビール、わたしとあゆみちゃんがストロベリーラッシーにして一旦オーダーすることにした。
ゆずねーは今向かってる!とのことなので先に始める。


ストロベリーラッシー

そしてもうその後はいつも通りの会話が続く。
7年ぶりなのにいつも通りすぎて覚えていないレベルのいつも通り。
あゆみちゃんがあたしに「大倉さんが好きなのか大倉さんが演じた役が好きなのかどっち?」と概念的な質問を繰り出して来て「役で好きなのもあるけどそりゃ大倉さんだよ」と答えたら「ガチ恋じゃん!」と驚かれた(え?推しってそういうことでしょ?!)ことと、チーズフライを食べたらビニョーンと伸びるかと思ったのにサクッと切れるタイプで「何これ?」「厚揚げ?」「厚揚げではないね」「もっとこう伸びるかと」「だよね」「厚揚げじゃない?」「厚揚げじゃない」と言い合ったことくらいしか覚えていない。

そしてようやくゆずねーが到着した。

「階段上がって来たら、店の外からすぐこの席指さされたんだけど。何も言ってないのに。どうせあそこでしょ的な感じで」
「なんでバレたかねえ」
「他にも店あるのにねえ」
「あ、全員揃うの何年振りか知ってる?」
「いや…え?何年?」
「7年ぶりなんだよ」
「みちゃんが調べた」
「でしょうよ、みちゃん以外そんなこと調べそうな人いない」

サービスのチャパティがいちばん目立つ

ゆずねーが来てさらに賑やかになったわたしたちとは対照的に、隣のインド人グループは静かだった。
相変わらず料理は頼まずグラスばかりがテーブルに並んでいる。全然片付ける様子がないので飲み終わったグラスがびっしりテーブルを埋めている。
いつの間にそんなに頼んでいたんだろう。
まったく気が付かなかった。

「気がつく必要もないけどねえ」
ゆずねーは的確なツッコミ担当なのだ。

「あの人たちがあんなに頼むからゼロが品切れになったに違いないよ」
「絶対そうだよ」

お隣のドリンクを作るのが忙しいのか、わたしたちのテーブルのドリンクがなかなか来ない。

「あ!お隣、飲み放題なんじゃ?」
ようやく来たジンジャーエールを飲みながら、みちゃんの指摘でメニューを見ると確かに飲み放題とある。
そりゃ飲むわ。そりゃグラスでテーブルいっぱいになるわ。そりゃお料理頼まんはずだわ。


大量のグラスの理由はわかったが、追加で頼んだあゆみちゃんのマンゴーラッシーが全然来ない。
でもまあ催促するのもアレだし、と見るともなくオープンキッチンの方を見ていたらようやくラッシー的なものに着手しはじめたようだった。

「あゆみちゃん、そろそろ来るよ」
「なんでわかるの?」
「だってほら今作ってるもん、マンゴージュースみたいなの混ぜてる」
「あ、ほんとだ!」

ウェイターのお兄さんがのんびりとラッシーを作っているのを、わたしとあゆみちゃんは今か今かと見つめた。あまりに見つめていたせいか、お兄さんがちらっと顔を上げてわたしたちを見てうっすら微笑む。

「お、そろそろできるんじゃない?」
「やった」

最後にマドラーでぐるぐるとグラスの中をかき混ぜてお兄さんがマンゴーラッシーを片手にフロアに出て来た。

「お、来たよ」
「待ってた!」

そして、彼はゆるーい微笑みのままあたしたちの方にまっすぐ歩いて来て、テーブルの手前でマンゴーラッシーのグラスを少し高く上げた。
あゆみちゃんが手を上げ大きな声で申告する。

「ハイッ!!それわたしですっ!」

が。
彼は顔だけわたしたちの方に向けたままくいっと直角に曲がり「マンゴラッシー」と言って隣のテーブルにグラスを置いた。

まだあゆみちゃんの手は高く上げられたままで、あゆみちゃんの「それわたしです!」が虚しくそのあたりに漂っていて、わたしたち5人は声が出せないほど笑った。
笑いすぎて泣けて来た。
こんなコントみたいなことほんとにあるんだと思った。
さすが『おもしろ』担当あゆみちゃんだと思った。

多分2024年で一番笑った瞬間になると思う。まだ2月だったけど。

ああ本当におもしろかった。
カレー屋さんなのに食べた中で何がいちばん辛かったかって、サラダに乗ってた玉ねぎだったこともふくめておもしろかった。
7年振りに集合できた幸せと、おもしろを引き寄せる友達がいることの喜びを噛み締めて、わたしは品川駅でみんなに手を振った。

のぞみ車中でもあゆみちゃんの「ハイッ!それわたし!」を思い出してひとりで笑った。


2月の話を今頃…。どうもすみません。

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