4年ぶりに東京へ行った話のおわり
わたしはもともと友人の少ない人間なので、大人になってから新しい友人ができたことにはとても感謝している。そりゃ今でも決して多くはないのだが、その多くない友人のほとんどが大人になってから知り合ったひとたちだ。
知り合ったきっかけはインターネッツで、インターネッツがなかったらわたしはどうしていたでしょう、というくらいにインターネッツにはお世話になっている。
ほぼほぼ「インターネッツ!」と言いたいだけになってるけど。
そんなお世話になっているインターネッツで知り合った友人の中でも特にクセの強いひとたちが、西新宿五丁目駅の改札前に立っていた。
「お待たせ!」とちょっと離れたところから声をかけると、「パートナー!!」「パートナー来た!!」とふたりがぶははと笑った。
「やっぱり、リちゃんといえばパートナーだよ」とあゆみちゃんが言い、
「パートナー、現役じゃん」とゆずねーが言い、
続けて「てゆーかさ、この持ち手もう少しこの中間くらいがいいんじゃないの?長すぎじゃね?」と言いながら我がパートナーのハンドルをぐいぐい押し始めた。
やめてやめてパートナーはここかここしかダメなんだって!とやってみせてもゆずねーの追求の手は厳しく、そのうちハンドルがガタガタし出したのを見てあゆみちゃんが「やめてあげてぇ〜!」と叫んで、結局パートナーではなくゆずねーが折れた。
「頑固だね、パートナーは」
「融通がきかないよね、パートナーはね昔っからね」
このひとたちはわたしとパートナーの付き合いを最初から知っているので思い入れが強い。下手したらわたしよりも強い。
「もう使わない今回だけだから、とか言ってたのにその次に会った時向こうの方からガラガラ音がすると思ったら神田明神の坂の頂上にリちゃんがパートナーと一緒に現れてさ」
そうだった。あの時あゆみちゃんとモモ松さんが腕を取り合って膝をついて笑ったこと、わたしは一生忘れない。
ゆずねーとあゆみちゃん、今回お仕事で来られなかったみちゃんとモモ松さん、そしてあたしの五人でよくあちこち出かけたものだった。わたし以外の4人は東京もしくは近郊在住なので、わたしの東京行きにあわせて集合してくれる。例えば遠足だったり、例えば忘年会だったり、ああいろいろ思い出があるねえ。
西新宿五丁目駅から、こっちだ!とまたわたしが先頭に立つ。
今から向かう「コチンニヴァース」はカレー好きな人の間ではかなりの有名店だ。
「ねえねえなんでコチンニヴァース?」
「推しがおすすめしていてねずっと前に」
「大倉さんカレー好きだもんね」
「聖地巡礼につきあわされてるわけ?うちら」
「いいじゃないか」
「西葛西でもカレー食べたね」
「品川でも食べたよ」
「カレー縛り多くない?」
「あの西葛西であたし初めてビリヤニ食べたわ」
「あれおいしかったよねえ〜」
「おいしかったねえ〜」
今から違う店に行くのにもう10年近くも前のインドカレーを反芻する。
そして到着したコチンニヴァースは噂に聞いていた通りこじんまりしたお店だった。
「ここが…コチンニヴァース…」
感動のあまりオープン前の外観をバチバチ撮影するわたくし。
わたしたち以外にも何組か開店を待つ人たちがいて、予約しといてよかったと前日の自分をまた褒める。何かというと自分を褒めてゆくスタイル。
わたしはサンバルが食べたいココナツのカレーも気にならない?やっぱりエビは頼みたいキーマも捨て難いレモンライス気になるよねチャパティも頼もうビリヤニは?え?こっちにもメニューあるじゃんサラダどうする?えーでもさインド料理屋のサラダってたいてい千切りキャベツにちょろっとオレンジ色のドレッシングかかってるやつじゃね?そーゆーの多くない?まあそれはあるかも、今野菜高いし。
と小声で相談しているとカウンターのお客さんのもとにサラダが到着。無言でガン見するわたしたち。
今となっては何を頼んだのかはっきり覚えていないのだけれど、とにかくどれもおいしかった。辛いんだけど旨みがしっかりあって、辛いのが苦手なわたしでも大丈夫なおいしさ。
「で?大倉さんってまだ劇団なの?」
「なにその劇団ひとりみたいな言い方、うん劇団のひとだよ」
「ナイロン……ナイロン何パーだっけ?」
「品質表示か!100℃だわ!ナイロン100℃!」
コロナ禍になる前からタイミングがあわなくて会えていなかったので顔を合わせるのはそれこそ4年半?ぶりくらいなのに、まるで先週も一緒にご飯食べたみたいな感じ。
そういえばLINEのやりとりも今回半年ぶりだった。
初夏の頃、ゆずねーの犬、柴っぽい柚が20歳で空に帰ってしまいその報告を受けた以来だ。
「三島大社にみんなで行った時、柚、外でだるそうに待っててくれたよね」
「交代で柚の番したのも楽しかったわぁ」
柚の話をしてちょっとしんみりするかと思いきや、今は実家でネズミとクワガタを飼っているという。そしてそのクワガタが先日死にかけたという話になる。
「冬眠?」
「いや、部屋の中に虫が出て殺虫剤をかけたらクワガタまでひっくり返って動かなくなっちゃって」
「虫!虫!クワガタも虫!」
「そうなんだよ、頭にまったくそれがなくて」
「え、死んじゃったの?」
「それがさあ」
クワガタのお腹には穴があってそこに水をジャージャーかけるといいという情報を聞いて思いっきりジャージャーかけたら復活したらしい。
「いやぁクワガタにそんな水かけて大丈夫かなと思ったんだけどさ」
「虫だから!雨の日だと思えば普通!」
「ほんとだ!そうだわ、大雨の日もあるわ」
「腹に穴があるのかー」
「へそ?」
「哺乳類でもないのに」
辛い!だの、うまい!だの、コレ今日イチ!だのしっかりカレーを味わいながらもいろいろな話をして、あっという間にお別れの時間になる。
「結局毎回なんの話してたかまったく覚えてないんだよねえ」
「それね」
「内容がなさすぎるからね」
「そうそう、毎回、門前仲町のパフェ屋であゆみちゃんがずっとパフェパフェ言ってたくせに急にプリン注文したって話出るし」
「なんならあそこのパフェ屋に行きたいって言い出したのあゆみちゃんだったからね」
「いやもうずっとプリン食べたくてさ」
「なんやソレ」
毎日つらいことも悲しいことも理不尽なこともたくさんあるけど、こうしてげらげら笑っておいしいもの食べて過ごせる時間のためにならまたがんばろうって思えるね。
今回4年ぶりの東京で久しぶりのひとたちと会って、やっぱり会うことって大事だって心底思った。
明日なんてどうなるかわからない。
会いたい人に会える幸せをしみじみ味わえた一日。
そしてわたしはみなさんからいただいたお土産と朝から一緒だった赤福が一箱入ったパートナーを連れて、夜10時に名古屋駅に到着した。
名古屋発東京経由名古屋着の赤福は夜だとなくなってるかもしれないと、自分用に買ったお土産。
でも通りがてらチラッとみた名駅のキオスクにはまだ、8個入りの赤福が積まれていた。
むだに一日連れ歩いてしまった赤福は、家に着いてもまったく傾いていなかった。
長々と続きました、ただ4年ぶりに東京へ行った、というだけの話。
ようやく最終回となりました。
お読みくださった皆様ありがとうございます。
この話だけ読んで下さった方、もしよろしければ少し遡って最初から読んでいただけますとヒジョーに喜びますわたしが。
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