見出し画像

【ずんだ東大地理の実況中継@2時間目】東大地理2003年第3問A 解答・解説(日本の産業と水利用)

(前回の講義)



  地理論述コース担当のずんだ雅幸です。本日もよろしくお願いします。

 さて、今回は「2003年東大地理 第3問A」を見ていきましょう。過去問本体は、みなさんの手許にある「25ヵ年」なりを参照してもらいたいのですが、本題である(3)の論述に関しては、大体の内容を講義中に板書しますから、そこでじっくり検討することにしましょう。

 東大地理の第3問は日本地誌が出るのが現在に至るまでの定番ですが、この日本地誌は他大ではあまり聞かれない分野だけに、対策に戸惑う受験生は多いはずです。
 けれども、地理を得意科目としていて、高得点を狙うなら、第3問にもしっかり取り組みたい。その場合、20年ほど前のものであっても、過去問を遡って研究することは大切です。第3問の10〜25年くらい前の日本地誌だけを集中的に解くというのも、演習としては大いにありでしょう。

 さて今回取り扱う2003年第3問Aですが、論述はわずかに(3)だけ、(1)および(2)はいずれも客観式と、見た目上はかなり軽い内容です。
 じっさい第3問Bに3行論述が二題でていることを考えると、2003年度は3Aが低めで3Bに比重が置かれているというような配点だったのではないでしょうか。

 ともかくこの講義の主眼は論述ですから、客観式の(1)と(2)はさらっと解説して終わります。

(1)

 (1)は表を見て(ア)が顕著な現象傾向(ウ)が顕著な増加傾向というのを読み取るのが第一歩です。そこでまず国内の繊維工業は衰退しているから(ア)-繊維、というのは置けますね。
 (ウ)はまた、シェアの値の大きさも直近で45.8%と群を抜いています。これが金属か機械かですが、そのどちらが45.8%占めるほど主流の産業かというのを考えると、ここは機械と判断するのが妥当でしょう。そして残る(イ)が金属ということになります。
 余談ですが、(イ)ー金属が示している近年の減少傾向は、たとえば国内のアルミニウム精錬などを例にとって考えてみるとわかりやすいかと思います。1960~70年代は日本各地にアルミニウムの精錬工場があり、輸出品としてもかなり使われていました。ところが、電気を多く消費するため、オイルショックによる原油値上げ→電気代値上げによって不利となり、そこに80年代円高によって実質値上げとなってしまい、国際競争力の低下が決定打となって廃れていきました。
 日本軽金属蒲原工場という、静岡にある国内最後のアルミニウム精錬工場が閉鎖されたのは、2014年のことです。

 この設問はかなり平易なので、確実に正解したいところです。難易度判定は最易のAでしょう。
 
 (1)解答
(ア)-繊維 (イ)-金属 (ウ)-機械

難易度:A

(2)

 つぎに(2)ですが、これは(1)の解答だったり表1だったりが伏線になっています。こういうことは東大地理ではありがちで、前後の設問をヒントにするという解き方が求められますが、一方でそうした部分に引きずられすぎないようにという注意が必要です。要するに、両者のバランス感覚が難しいわけですね。

 まず水使用のパーセンテージの減少/増加という観点で見ると、(b)の増加と、(c)の減少が目につきます。化学、機械、紙のうち減少しているのは、紙という推測ができます。出版不況や新聞の発行部数減少など、紙の需要が減っているという論拠が思いつければベストですが、なんとなく減っていそうな一つとして紙を選ぶという思考回路でも悪くはありません。
 さて次に水使用のパーセンテージの高い(a)と低めの(b)という対比構図があります。パーセンテージの高さから(a)を機械、(b)を化学とするのが、(1)からの流れとしては自然に映るかもしれない。
 ただ、化学工業と機械工業では、化学のほうが水を使うこと、先に見た(b)の増加傾向と(a)の横ばい傾向は表1の機械の増加、化学の横ばいと対応すること、これらに気がつければ、(a)が化学で、(b)が機械という正答を導き出せます。
 (c)は簡単なものの、(a)と(b)は引っ掛け要素を含んでいて、なかなか難易度が高い。とくにこの場合、前の(1)があるから、それに引きずられて(a)と(b)を逆にしてしまいやすい。
 東大地理の客観式は共通テストレベルというのはしばしば言われることですが、全部が全部そんなに簡単ではないと思います。もちろん、先に見た(1)のように、共通テストレベルのもので確実に正答したいものも多い。けれども毎年一個くらいは、この(2)のような一筋縄ではいかない客観式が混ざってきます。
 (2)の配点はおそらく3つすべて合っていて2点でしょう。(c)ー紙があっていても、1点も来ない可能性が高い。だから、ここで正答者とは2点差がつきますが、これを仕方ないとみるか、時間をかけてでも拾いに行くべきとみるか。
 私が実際に東大地理を受験した経験を踏まえて言うと、ここで2点の失点は仕方ないと見ます。客観式に時間をかけて2点を拾うよりも、論述に時間をかけたほうが、最終的に拾える点数は大きくなると思うからです。とくに東大地理のような時間制限が厳しい条件下ではなおさらです。
 だから東大地理のを過去問演習や本番において、客観式で1問か2問間違えたとしても、大して気にする必要はなく、本問のような引っ掛け問題に対しては、時間をかけず素直に(a)機械(b)化学としてしまっても仕方ないところかと思います。(1)のような、解きやすい客観式を確実におさえることだけが大事です。

(2)正答
(a)-化学 (b)-機械 (c)-紙

難易度:B+

ここから先は

3,018字 / 3画像

¥ 200

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?