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産婦人科でトランスジェンダーだと伝えた時

ついに妊娠5ヶ月になった。
前回の産婦人科での健診では助産師面談というものがあり、現状の生活についての聞き取りや生活の上での注意点などの指導があった。

面談が始まる前はいささか緊張していた。
事前に母親学級の内容をまとめた映像を見てくるようにとQRコードを渡され観た中に、助産師さんとの面談で気になることは何でも話してみましょうと言われたので、これは自分の性自認についても話しておいた方が良いと考えたのである。
(コロナ禍でなければ実際に母親学級と名付けられた場に出なければならなかったと思うので、映像を見るだけで済んだのは救われた。なんなら映像だと相棒にも見てもらえるのでとても助かった。)

面談を担当してくれた助産師さんは気さくで明るく、しかし丁寧に気遣いながら話を進めてくれる印象の人だった。
自分はこの人に性自認を打ち明けることになる。普段オープンにして生活している身とはいえ、いざ面と向かって話そうとする場面は何度経験しても緊張するものだ。

それで、いざ打ち明けてみて驚いた。
その助産師さんは一瞬たりとも固まることもなければ驚いた顔をすることもなく、さらっと受け止めてくれた。そして、今は特に困っていることはないけれどと話す俺のために、この先の出来事で困りそうなことや不快に感じそうなことを考え的確に教えてくれた。
「妊娠時に病院からもらえるグッズの多くがなぜかピンクばかりでこれもちょっと抵抗あるかもしれないんですけど……」と実物をみせてくれたり、マタニティウェアについて「売り場に見に行くことが辛かったりはしますか?」と聞いてくれたり。

その他にもいろいろなことを確認してくれたのだが、話していくうちにまた驚いたのは、想定して聞いてくれる困り事の内容に、理解の深さを感じたことだった。色への抵抗なんかはまだ想像のしやすいところかもしれないが、マタニティウェアを身につけることへの抵抗以前に服売り場に入ることへの抵抗がある可能性をも想定できるって、この人は何者なんだろう?と感じてしまうほどだった。

あとは「お母さんって呼び方を今のところは院内でされた記憶はないけれど、もしされると辛いかなって思う」と話をしたところから、診察時の呼び出しがフルネームの病院のため「下の名前を呼ばれるのはキツイけれど、同じ名字の人がいるかもしれないから仕方ないですよねぇ〜」なんてことも話せた。 

ひとしきり洗いざらいお話が出来たところで、助産師さんがこう言ってくれた。
「いやもうほんと今日話してもらえて本当に良かったです!話してくれてありがとうございます。今後もスタッフで配慮はしていきますが、何が大丈夫で何が大丈夫じゃないかとかどうしても分からない部分もあるので、大丈夫じゃない時は遠慮なく教えてくださいね!」
普段は打ち明けるというより自然とオープンにしている身なので、打ち明けたことをありがとうと受け止めてくれるのが、受け止められる側にとっていかに安心できるかをここで知った。そして自然とそう言えてしまう助産師さんが素晴らしい。
さらに助産師さんは続けて話した。
「実は私、なぜかトランスジェンダーの友達とか知り合いが周りに多くて、中には手術して性別を変更した人もいるんですよ〜」
この一言で全ての謎が解けた気分だった。だからこの助産師さんは目の前の妊娠中の人間がトランスジェンダーだと打ち明けてもひとつも驚かず、困りそうなこともリアルに想像出来て、どこまでもフラットに的確な対応ができる人だったのだと。

そして面談を終え、少し待合室で待ってからいつも受けている診察を受けた。
赤ちゃんの成長を確認した後、先生の話を聞いている時に机の上のディスプレイに細かく書かれた自分の情報が見えた。早速「トランスジェンダー」と書かれていて、めちゃくちゃ反映が早いなと驚いた。

さらに、診察も終わり会計の呼び出しをされる時。いつもは名字呼びの後にフルネーム呼びで繰り返す形(診察に呼ばれる時も同じ)なのに、名字呼びだけになっていた。
あれっ?受付にももう共有されてるの?と、またまた驚いた。実は今までも名字呼びまでで止めてほしさに、この病院内では呼ばれた瞬間反応するクセがついていた。だがやはり、フルネーム呼びをするまでがワンセットなようで、途中で呼ぶのを止められたことはなかった。それが名字呼びになっていたのだ。

この1回の受診で何度驚いたことだろう。助産師さんについてはその人に当たるべくして当たったのかなと思うくらいに引きが良かったような気がするが、それにしても院内の共有と対応のスピードがめちゃくちゃ早い。
単純にそのスピードを感じるだけでも病院に対する安心感がある上、腫れ物扱いでもなくさらっと対応してくれるこの病院を受診していて本当に良かった。


最後に余談。
自分が自分で妊娠して子どもを授かろうと決断できたのは、ニュース等で国内外の先人達の存在を何例か知っていたおかげだった。ニュースに出てくるような人は大抵自分のような「男でも女でもない」的な人ではなく、完全に自認が男性で、中にはホルモン治療などの治療経験もあるような人もいる。
特に国内に先例があることにはとても勇気づけられた。子どもが欲しくて産める体があるなら、自認がどうであれ産んでもいいじゃんね!と思えた。女性の身体特有の機能を使おうが、性自認を否定する行為にはならないし周囲に否定される筋合いもない。
先人の存在には本当に感謝している。


現状、自分の生き様や思考を晒しているだけなので全記事無料です。生き様や思考に自ら価値はつけないという意志の表れ。 でも、もし記事に価値を感じていただけたなら、スキかサポートをいただけるとモチベーションがめちゃくちゃアップします。体か心か頭の栄養にしますヾ(*´∀`*)ノ