バーベルスクワットの是非
以下のツイートが話題となりました。
近年スポーツ競技力向上を目的としたトレーニングにおいて、バックスクワットを推奨しない考え方が出てきました。その考えには経緯があります。その経緯と #スクワット を行う上でのメリット・デメリットとは?👇https://t.co/PwRD1cgaVt
— 筋トレ情報サイト|FITNESS LOVE(フィットネスラブ) (@FITNESSLOVE_twt) March 8, 2021
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スクワットで老化が早まる?そうならないためにやるべきこと | FITNESS LOVE
記事が言いたいことは以下のようにまとめられます。
バーベルバックスクワットでは背骨にかかるせん断ストレスが大きくなる。せん断ストレスとは背骨の積み木を前後にズラそうとする力のこと。この背骨への負荷が傷害を引き起こす可能性がある。脚の筋肉の強化という意味では別の種目を優先させる考えがあっても良いのではないか。
(あくまで私の要約なのでしっかりと本文を読みに行っていただけると助かります。)(以下、「バーベルバックスクワット」を「バーベルスクワット」と呼称します。)
この問題についての私のボディビルダーとしての意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、バーベルスクワットでは脊柱にかかるせん断力が大きくなる。これは事実です。重量が上がっていけばいくほど、上体が前傾すればするほど、脊柱にかかるせん断力は大きくなります。脊柱に無理を強いることはバーベルスクワットでは避けられません。
200kg超など、高重量になってくると、ほんとうに小さな動きのミスから腰痛を発症してしまう可能性もある。とてもシビアな種目です。
ですが、そこまでの重量じゃないときはどうでしょう。100kgのバーベルスクワットで腰を痛めてしまったという人がいるとします。
このとき、非難すべきはバーベルスクワットという種目そのものでしょうか。違います。自身の動作クオリティです。
自身の動作クオリティが低かった。そのせいで生じた問題を、バーベルスクワットという種目のせいにするのはお門違いです。
正直、ボディビルダーはバーベルスクワットを極める必要はありません。
バーベルスクワットを極めるのはパワーリフターだけです。
ですが、ボディビルダーにも最低限のバーベルスクワットのスキルが必要です。なぜならそのスキルはほかの種目においても必ず役に立つから。
ボディビルダーにとってバーベルスクワットは必修科目。「ウェイトトレーニングの素養づくり」として避けて通ることは出来ないのです。
バーベルを用いる基本種目は最速で「ウェイトトレーニングの素養」を養う方法であり、そのテストでもあるわけです。
バーベルスクワットとデッドリフトでは、ウェイトトレーニングの素養として第一に重要な「腹圧をかけ、腰椎を安定させた状態で股関節を動かす」に最大の負荷をかけることができます。
ここをクリアせずにほかの種目に移るひとが多い。この「素養」ができていないと、ほかの種目に移ったところで、早い段階で重量が頭打ちになったり、結局腰痛を抱えたりする、ということにつながります。
ボディビルダーにとってはスクワット・デッドリフトは筋肥大を狙う種目というよりは「ウェイトトレーニングの素養づくり」という側面が大きいでしょう。
「ウェイトトレーニングの素養」を身に着けたあとは、ボディビルダーにとってバーベルスクワットの重要性は下がってくるかもしれません。
重くなってくればくるほど脊柱にかかるせん断力は大きくなります。そのせん断力に立ち向かいながらバーベルスクワットを継続する道もあるでしょう。
しかし、もう一方の道もあります。それはバーベルスクワットのせん断力を相手にせず、ほかの種目に移ること。筋肥大という本来の目的だけを達成することを考えるならば、ほかの種目に移ってしまってもOKなのです。
ですが、それには前提があることを忘れないでください。そうです。「最低限の素養」ができているかどうかです。
先の記事では支持基底面の大きさから安定した力の発揮ができるとして、バーベルスクワットはボディメイクに有効、としています。
しかし「安定したスクワット」は非常に難しいものです。特に疲労困憊まで高いクオリティの動作を続けるのは難しい。どんな熟練者でも疲労と共に運動パターンが変わってきたり、少しの軌道のブレが出てきたりするものです。バーベルスクワットにおいて、まるで自分がマシンになったかのような動作を継続し脚を追い込み切る、というのは達人の領域です。
全員に達人のレベルは求められていません。クリアしてほしいのは「最低限の素養」なのです。
180kgを複数レップするようなレベルになってきた場合、すこしの脊柱のブレがかなり大きなダメージとして身体に蓄積されるようになります。
180kgを複数レップできるような人は「素養不足」とは言えません。最低限の素養レベルはクリアしていると言っていいでしょう。
しかしこの人はバーベルスクワットをすると、脚ではなく脊柱の疲労が原因でセットを終了することが多いとします。
このとき、この人はバーベルスクワットにおいて「脚の筋力>脊柱の固定能力」となっていることは否めません。バーベルスクワットで脚の筋肉を最大限に鍛え、重量をこれ以上に伸ばしていくためには脊柱の固定能力を今以上に高めていく必要があります。
ここで、立ち止まって考え直してみてください。このアンバランスはあくまでバーベルスクワットを行うにあたってのアンバランスです。
私たちの本来の目的は脚を鍛え、筋肉をつけることです。バーベルスクワットを行うことではありません。じゃあ、バーベルスクワットに固執しなくてもよいではないかという考え方もできるわです。
この人が現状、バーベルスクワットで完全に脚を疲労困憊の状態まで追い込むのは難しい。しかし、ほかの種目に移れば脊柱の固定能力には余裕がある。脊柱の固定能力の要求が低いレッグプレスやハックスクワット、ブルガリアンスクワット、最近流行りのベルトスクワットなどを導入すれば脚の最大の筋肥大を狙っていくことができます。
つまりこの人はバーベルスクワットにおいては「脚の筋力>脊柱の固定能力」の状態。だけどほかの種目においては「脊柱の固定能力>>>脚の筋力」という状態を作り出せる。こういうふうに余裕がある状態を作り出せば、最後まで安定した動作で脚の筋肉を疲労困憊まで動かすことができる。
いっぽう、スクワットでの素養づくりをすっ飛ばしてほかの種目に移った場合も考えてみよう。この場合、ほかの種目においても「脚の筋力>脊柱の固定能力」となってしまう可能性が高い。
種目の難易度を落とせば、はじめのうちは「脊柱の固定能力>脚の筋力」の状態で実施できるかもしれない。でも、継続しているうちにその種目においても「脚の筋力>脊柱の固定能力」状態におちいることが予想される。
ようは筋肥大をめざすほかの種目において要求される脊柱の固定能力を、バーベルスクワットによってオーバーキル気味に身に着けることができるわけです。
ほかの種目に移ったときにも十分な動作が行えるだけの素養を身に着けているとき、「ボディビルのために必要なウェイトトレーニング素養は合格レベル」といえます。
「素養が身についた」の合格ラインをどこに置くのかは非常に難しいところです。体重差や身長差もありますからスクワットの重量などで明確には線引きはできません。
しかし、言えることがあります。ボディメイクにおいてその基準は「複数レップス」で測られるべきだということ。1発の強さも重要かもしれませんが、パワーリフターほど重視する必要はありません。複数レップスの中でどれだけ安定したフォームを反復できるか、のほうがボディメイクにおいては重要な能力だからです。
バーベルスクワットが強いということはそれだけ脊柱のせん断力に対抗する腹腔内圧の上昇、多裂筋の活動などによる脊柱の安定化ができているということ。強いに越したことはありません。
ですが、その基礎能力がある程度のレベルにまで達したら、筋肥大を求めていくためにバーベルスクワット以外の種目をメインに据えるという考え方をしてもよいものです。
レベルが高いビルダーほどバーベルスクワットをメイン1種目目に据えている人は少ないように感じます。ですが、それは彼らの筋力レベルが非常に高いからこそ。バーベルスクワットはどうしても脊柱に多少の無理を強いることになりますから、彼らのフルパワー1種目目を支えるのには文字通り「骨が折れる」のです。
初中級者がそれをマネて、「スクワットはメイン1種目目に据えなくていい!やらなくていい!」という情報だけを吸収してしまうのは危険です。
初中級者は多少苦労してもスクワットをはじめとする基本種目を行う。このようにウェイトトレーニングの素養を磨くことで、その後、3~5年経ったときにその大きな恩恵を受けられるでしょう。
まとめ
筋肥大を目指す場合、かならずしもバーベルスクワットを継続する必要はありません。しかし、「ウェイトトレーニングの素養づくり」という意味でバーベルスクワットに代わる種目はないのです。なので最低限のレベルは身に着けておきたい。
とくに初中級者は出来ないからと放り出すのではなく、「素養づくり」と真剣に向き合ってほしい。3~5年経った後、「素養づくり」からやり直すとなると大幅な時間ロスとなってしまう。
初中級者にはバーベルスクワットの正しい実施を強くオススメします。
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