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『盤上の夜』ネタバレ読書呑記(9)〜奇妙と癒やし

前回の呑気はこちら。

さて、短編集『盤上の夜』において、まだ呑記していないのは一番最後に収録した『原爆の局』と3番目の『清められた卓』です。

今回は、予定通り『清められた卓』になります。

病人ばかりの対局

さて、『清められた卓』のテーマとなるボードゲームは麻雀。
4人の登場人物が対局します。
そして登場人物全員、何らかの病気……というか障害を患っています。

1人目は、真田優澄(さなだゆずみ)。統合失調症。その後、特殊な感覚を身につけて、対局後に失明してしまいます。

2人目は新沢駆(にいざわかける)。4人のなかで唯一のプロ雀士。過去の事故で前向性健忘症になってしまう。対局後に改善する。

3人目は当山牧(とうやままき)。9歳の最年少。アスペルガー症候群。対局後はコミュ障が和らいでいる。

4人目は赤田大介(あかだだいすけ)。精神科医。実は、真田優澄の担当医。病名は恋煩い。相手は真田優澄。対局後は、優澄をサポートする。

対局の場は、麻雀のタイトル戦である第9回白鳳戦の決勝。
登場人物の紹介順は、予選結果の順位(1〜4位)になります。

真田優澄の打ち筋があまりにも異様すぎたため「封印された対局」――第9回白鳳戦は「存在しない」――となっています。

優澄の特殊さ

『清められた卓』でのキーなる人物は真田優澄です。
彼女は、赤田のカウンセリング、治療から逃走して隠遁します。そして、身体的にも精神的にも厳しい境遇をくぐり抜けた結果、

・カラスと会話ができる。
きっかけは、隠遁中の優澄の住居にカラスが住みつきはじめ、最初は疎んじていたがカラスの報復の所作に感心し、カラスと会話を試みたら、通じた。

・カルト集団「シティ・シャム」のカリスマとなる。
カルトといいますが、まだ宗教と呼ぶには歴史的経過をたどっていないだけで、実質宗教的な集団です。
真田優澄は、シティ・シャム=「都市のシャーマン(呪術師)」として活動します。

・特殊能力「エコロケーション(聴覚で視覚に近い感覚を持つ、共感覚の一種)」を持つ。
対局中はほぼ終始鼻歌を奏でていました。その理由は、音に反響した固有振動数によって麻雀牌を判別するためでした。
これが、優澄の強さの秘密でした。

予選ではぶっちぎりの1位。
しかし、決勝は赤田の優勝でした(ただし、公にされない封印されたゲームなので、世間的な名誉だとかの意味はない)。

封印された対局

さて、第9回白鳳戦、とりわけ決勝は「異様な対局」「異質な対局」で、それゆえ封印されました。
封印となったのは、半荘1戦を終えて、通常のルールでは優澄に勝つことが不可能だと悟り、新沢が大会運営者に次局以降終了まで、カメラなし観客なしの非公開を求めて、承認されたからです。
第2戦開始に、勝利以外の報酬(つまり持ち金)を取り合う「賭け麻雀」を提案するためです。
実は、これは陰で赤田が新沢に持ちかけたものでした。
その意図は、勝利以外の目的を用意することで優澄の心理へ揺さぶりをかけることでした。
対局者全員「賭け麻雀」で行うことを了承し、再開。
揺さぶりの目論見は、多少の効果はあり、優澄は順位を落としました。
しかし、心を持ち直して普段どおりのメンタルに戻ったので、結局賭けはなしにしました。

curious(奇妙な)の語源

ところで、異様や異質を言いかえると、「奇妙な」です。
英語だとcurious。
語尾の-ousは、対象の名詞を「〜の特徴を持つ」「〜が多い」などの形容詞にする役目があります。
たとえば、danger(危険)につけるとdangerous(危険な・危険度が高い)ですし、courage(勇敢)につけるとcourageous(勇敢な・勇敢あふれる)です。
なので、curiousから-ousを外すとどうなるか。

cure(癒やし・治癒)

です。

はて?
なんで、「癒やし」と「奇妙な」が関係するのか。
「cure」の語源は、ラテン語の「cura」。
意味は、心配、注意。、気配り、世話、治療などあります。
さらに「cura」の語源となるのが「kweis(注意する)」。
「看護して病気を治すこと」がこの単語のコアの語源です(※引用:語源英和辞典)。

もっと突っ込むと、看護の「看」は、

看る(みる)。

看るべきところが多い状態・状況だから「curious」、ということです。

優澄vs赤田

ところで、優澄に恋煩いの赤田。
彼の職業は「精神科医」です。
つまり、彼の仕事は、

診る(みる)。

小説では、「宗教対科学」の記述があり、優澄1人と残り3人を思わせますが、実は「呪術師対医師」の「看る対診る」のサシウマ(1対1の勝負)が内包していました。

ただし、数年前に、赤田は優澄を治療することができずに逃げられてしまいます。
対局前まで、いや対局開始時も、優澄を診る赤田の能力は激弱でした。
ところが、「奇妙な対局」によって、診る能力――優澄の心理を診る――が戻りました。
対局の最終的な決着は、優澄の捨て牌を赤田がロンをします。
優澄の対局中の仕草や癖、会話の記憶など、いくつもの診るポイントをたぐりよせて「cure-ousな対局」に勝利した、ということです。

残り2人も注目……ですが


今回は、優澄と赤田を中心に呑記しました。
残っている2人、新沢と当山は次回……、といきたいですが、もうちょっと書きます。

では。


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