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web3不動産の理想と現実 - ブロックチェーン事業者の妄想 -

はじめに

ブロックチェーン技術によっていわゆる「web3」という概念が世間で認知されるようになりました。しかし、実際に「web3」の定義は曖昧で、かなり解釈が異なっていることが現状です。
このnoteでは、「web3」の思想とは、「特定の組織のみに依存せず、トラストレスな(信頼する必要のない)インフラストラクチャを構築し、オープンで持続可能なシステムを実現すること」と定義したいと思います。
また、このnote内の「ブロックチェーン」という単語は、パブリックチェーンを指します。

目的

  1. ブロックチェーン技術を活用した不動産をするなら、目指すべき理想はどういった世界なのかを理解する。(法律は考慮しない)

  2. なぜ理想に至らないのか、実現可能性やその壁を整理する。

  3. 現状のユースケースの存在を知る。(詳しい内容な他の記事で)

web3で実現したいこと

ブロックチェーン技術によって何ができそうかを整理します。
一言でブロックチェーン技術といっても、さまざまな技術が組み合わさっていますが、ここでは細かい説明よりも どんなことができそうか という点に焦点をあてています。

①データの保存場所

理想

ブロックチェーンは、一度書き込むと改ざんすることが難しいデータベースです。物件の基本データ、取引データ、管理・修繕データなど、さまざまなデータベースとしての利用が可能です。
登記簿データがブロックチェーンで管理されていれば、ブロックチェーン上で売買した不動産取引が登記され、スムーズに所有権移転ができるのではないかという考えに至ります。

また、家の修繕など、ヒストリカルなデータを改ざんが難しい形で保存し、証明できるようになれば、家の査定評価や、売買時の買主と売主の情報の非対称性を減らせるのではないかというアイデアも浮かんできます。

現実

データベースにも様々種類があり、それぞれ長所短所があります。ブロックチェーンの場合、第三者が真贋性を検証できるというメリットがあります。一方、基本的にはデータはオープンになるので、不動産のようなセンシティブなデータは公開しづらい面があります。

レインズのデータベースをブロックチェーンに置き換える、登記簿謄本をブロックチェーンに置き換えるのはどうかという話をよく耳にしますが、特性を見極め、本当にブロックチェーンが最適なのか判断する必要があります。
例えば、レインズはユーザーが検索するために利用していますが、仮にブロックチェーンにのみ保存されている状態だと、検索しづらいデメリットがあります。これは極端な話ですが、目的にあった手段としてブロックチェーンの活用方法を決めるべきです。

例えば、レインズに登録されたデータを定期的にブロックチェーンへ圧縮した形でで保存し、改ざんされていないことを確認できる状態にするといった活用方法が考えられます。

②不動産取引

理想

「不動産取引をブロックチェーンで実現したい」という願望は、イーサリアムが誕生し、ERC721が実現してから抱いている人は大勢いらっしゃると思います。

もし、将来ブロックチェーンで完結する場合、どのような取引になるのでしょうか。ここでは、極端な理想例をあげます。

買主と売主は、それぞれお互いの個人情報を知らない状態です。個人情報を知らなくても、自分があらかじめ決めている基準を満たした取引相手であることは証明されているので、安心して取引できます。

売買は、NFTを通じて行われます。NFTは物件の所有権の証明です。
買主は、NFTの取引履歴や物件の修繕履歴、評価額の推移などを確認できます。売買契約の内容を確認し、あなたしか持っていない秘密鍵を使って電子署名します。
不動産取引の原則である"決済と権利移転の同時履行"は、NFTの移転とトークンの送金で同時に行われます。第三者によって取引が正しくおこなわれたことが検証されると、登記データベースに書き込まれます。
NFTの移転が完了すると、保険の契約内容も更新されます。
物件の引渡しは、NFTの所有者しか開けられない鍵がついているので、NFTを所有していれば開けることができます。

不動産売買取引の大まかな理想的な流れは、以上のようになると思います。

現実

上記の理想を実現するには、登記データベース以外にも、様々な壁があります。いくつかピックアップします。

不動産をデジタル上で取引する時に、「NFTにどんな権利を持たせることができるか」は非常に悩ましい課題です。
不動産はリアルな世界のものであり、デジタル世界でどのように表現するかは自由に設定できてしまいます。不動産の法的な所有権は、登記簿謄本によって第三者に対抗できるため、保証されていると言えます。
つまり、実際の登記簿に反映できないor反映まで時間がかかる場合、デジタル上の表現と整合性を保つための仕組みが必要です。また、不動産仲介業者が取引にいる場合、仲介業者は登記の移転を保証することはできません。司法書士が保証する領域であり、必要な資格です。

「決済と権利移転の同時履行」も乗り越えるべき課題です。
ブロックチェーン上で決済をする場合、取引先のウォレットに送金するだけならクリックするだけでできてしまいます。もし司法書士が存在しない場合、権利移転を同時に履行できるまで、決済をPendingしておく必要があります。いわゆる、エスクロー口座に支払いをするイメージです。
エスクローの役割は、複数人で管理するウォレットが担ってくれます。売主・買主・(第三者)がそれぞれ秘密鍵で署名すれば、中の資金を移動できないウォレットです。権利移転の準備が出来たことを確認できたとき、それぞれが署名して資金を売主に送金します。
しかし、この場合は、新しいリスクが生じます。通常のエスクロー取引の場合は証券会社の口座を利用することで資金が守られていますが、スマートコントラクトを使ったウォレットの場合、ブロックチェーンのリスクやコードのバグなどのリスクが生じます。万が一資金が引き抜かれてしまった時、不動産取引の関係者とは全く関係のない部分のため、責任の所在や補償が難しくなります。

③不動産投資

理想

不動産投資は、法人・個人にかかわらず資産形成には欠かせない手段であることは自明です。REITの登場や空き家DIYなど、様々な選択肢が増えています。ブロックチェーン技術によって、不動産投資やクラウドファンディングがより民主化されることが予想されます。

不動産のデジタル証券は、セキュリティートークンと呼ばれ、今よりももっと少額から投資でき、これまで参加できなかった層でも、資産価値の高い不動産に投資できるようになる。という意味で期待されます。

既存の不動産小口商品と何が違うのかというと、ブロックチェーン技術を活用することにより、実務的な業務メリットと、新しい商品を作れる技術的なメリットがあります。
実務面では、トークン化することによるコスト削減や権利移転のスピードなどが考えられます。技術面では、新しい資産をデジタル上で表現することもできるようになります。

例えば、自社で運営する不動産ポートフォリオに連動したトークンを発行し、収益を分配するようなトークンを開発したり、
オフィスビルの1区画分の受益権をトークンとして発行したり、
六本木ヒルズとららぽーとを組み合わせたトークンを発行したりもできるかもしれません。

このように、理論上はより柔軟な設計が可能になり、不動産投資書品の幅も広げることができます。

現実

実際、セキュリティートークンの領域は不動産業界におけるブロックチェーンの活用で最もプレーヤーが多い領域です。理由は、既存の証券化において法律の整備がされているため手を付けやすく、市場規模が最も大きい分野であるためです。

提供する顧客、提供する主体、提供する商品によって、法律の適用が変わってくるため、一概に比較することが難しいですが、大きな流れとしては、既存の証券化をデジタル化したトークンが作られており、そうしたトークンがDeFi(分散型金融サービス)と結びつき始めているといった流れです。

トークン化することで流動性が上がる というメリットがよく記事に書かれています。
現状、セキュリティートークンの2次流通マーケットを提供するためには金融商品取引業が必要であり、誰でもマーケットを提供できるわけではありません。また、流動性が十分に存在するほどトークンの発行枚数が多いわけではないため、流動性は課題が残りそうです。
DEX(分散型取引所)上で、取引できるトークンも存在しますが、今のところ取引量は少ないことが多いです。

まとめ

今回は3つの活用方法を説明しました。
それぞれ想像する理想形があると思いますが、ざっくりとブロックチェーンがあるとどんな社会になるのか、という妄想ができるとより技術を調べるきっかけになると思います。
ブロックチェーンに触れてこなかった不動産事業者さんにとって、少しでも技術を調べるきっかけになれば嬉しいです。


※単純化して書いているため、正確でない表現になっていて、ブロックチェーン側の方々には不快かもしれません。あまりにも間違ったことを言っていたらご指摘ください。



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