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テストステロンについて

内分泌系ホルモンは筋肉量の増加に大きくかかわる。筋肉量の増加に関わり、かつ十分な研究が行われているホルモンとしてテストステロン、IGF-1、成長ホルモンがある。今回はこれらのうちテストステロンについて詳述する。


この記事では、最初にテストステロンの生理学を説明し、次にテストステロンの効果、トレーニングによるテストステロン分泌方法、トレーニング外で体内のテストステロン濃度、値を維持する方法について説明する。


テストステロンの生理学


概要


テストステロンはコレステロールに由来するホルモンである。血液中全体のテストステロンの90~95%は精巣にあるライディッヒ細胞により分泌される。全体のテストステロンの5~10%程度が子宮や副腎で分泌される。テストステロンの筋肉への作用は運動時以外でも見られるが、運動時、特にメカニカルテンションに基づく機械的負荷与えた時によりみられる。


[i]テストステロンのほとんどが精巣のライディッヒ細胞で産出されていることから、テストステロンの量の違いが性差による筋肉量の差に起因しているといわれる。また、少し話がそれるが、女性の方が男性より肝臓が小さく、IGF-1分泌量も女性の方が男性より少ないことが多い。以上のことから、いかに女性の筋肥大が困難であるかが分かる。


だからと言って女性が骨格筋の肥大ができないわけではない。というのも、メカニカルテンションによる筋肥大は、扱う重量は異なるが重量が過負荷である場合は性差に関係なく発生するからだ。


作用


筋力トレーニングにおけるテストステロンの主たる作用は、アナボリック作用である。テストステロンは、骨格筋の増加や筋力の増加に寄与する。またテストステロンは骨密度の増加、維持にも貢献している。テストステロンは加齢とともに量が低下していき、これが年齢による筋肉量、筋力、骨密度低下の原因とされている。


テストステロンの分泌量は、20代をピークに年々減少していく。


[ii]テストステロンはアナボリック作用だけではなくカタボリック抑制作用も持つといわれている。また[iii]テストステロンは、他のホルモン、特に成長ホルモンの分泌を促進するといわれており、他の内分泌系ホルモンを分泌するという方法でも筋肉の増加に寄与する。


テストステロンの科学~トレーニング編~


テストステロンと筋肥大の関係


[iv]テストステロンが筋肉の増加に効果的であることは自明であり、疑う余地はないだろう。

生殖機能に異常のない健康な43名の男性を、プラセボ群、プラセボと筋力トレーニング群、テストステロンエナンセートを週100㎎投与し、筋力トレーニングを行わない群、テストステロンエナンセートを週100㎎投与し、筋力トレーニングも行う群に分け、除脂肪体重、スクワットの1RMが測定された。結果として、筋力トレーニングと外部からのテストステロン投与を行った群は除脂肪体重とスクワットの1RMが他の群と比較して顕著に増加した。興味深いのは、筋力とレーニングを行わずに外部からのテストステロン投与を行った群が、筋力トレーニングのみを行った群よりも、除脂肪体重が増加したことだ。


被検者の調査前と調査後の体重、除脂肪体重の変化を示した図。テストステロンを投与した群はそうでない群と比較して除脂肪体重が大きく増加していることが分かる。


[v]こちらの研究では、18歳から35歳の生殖機能に異常のない被験者61人を、テストステロンエナンセートを週当たり25㎎、50㎎、125㎎、300㎎、600㎎投与する群に分け、20週にわたって筋肉量の増加を測定した。結果として、テストステロンの投与量と筋肉量の増加には相関関係が見られた。


以上の研究から、テストステロンが筋肥大に関係することは間違いなく、テストステロンの量と骨格筋量の増加には相関関係がある。一般的に、外部からのテストステロンの投与は、週当たり750㎎で閾値を迎え、作用よりも副作用が上回るといわれている。しかし、トレーニングを通じて分泌される内部性テストステロンは外部から投与するテストステロンの量と比較してかなり少なく、血中のテストステロン濃度もトレーニング後3時程度で通常に戻るため、トレーニングによって分泌されるテストステロンによる副作用を心配する必要はない。副作用が少ないことは作用も少ないことを表すため、筋力トレーニングを通じて分泌される内部性のテストステロンは筋肉量の増加に効果がないと主張する研究者もおり、この主張を支持している研究も複数見られる。


私は、①週5回程度、1回当たり1時間のトレーニングを行っている場合、(トレーニング1時間+3時間)×5=20時間テストステロンが高い状態になり、これは慢性的にテストステロンが高い状態ということができる、②テストステロンの増加は成長ホルモンの分泌も助長する。③テストステロンはカタボリックを抑制し筋肉量を維持する側面もある、④我々の目的は筋肉の同化可能性を最大化すること、からトレーニングによるテストステロン上昇は決して無駄ではないと考えている。


トレーニングを通じてテストステロンを分泌させる。


[vi]内因性の内分泌系ホルモンはトレーニングを通じて分泌されることが報告されている。そして[vii]筋力トレーニングを行うことでアンドロゲン受容体が増加した研究も報告されている。アンドロゲン受容体とは、ステロイドホルモンであるテストステロンとジヒドロステロンに結合し作用を発生させる受容体である。この研究では、平均年齢24.4歳の健康な10名の被験者に6~10日間隔でスクワットを行ってもらい、アンドロゲン受容体のmRNA濃度を調査した。結果として、通常時と比較して、エキセントリック収縮時では1.63倍、コンセントリック収縮時では2.02倍アンドロゲン受容体が増加していた。


[viii]1RMのスクワットを20セット行う群と、70%1RMのスクワットを10回10セット行う群では、後者の群の方がテストステロン、成長ホルモンの分泌量が増加した。


以上のことから、メカニカルテンションはテストステロンの分泌を促進する可能性が高い。メカニカルテンションを多く対象筋に与えることができる、中重量中レップのトレーニングが、超高重量低レップのトレーニングよりテストステロン、成長ホルモンの分泌を促進できることが示唆される。またコンセントリック収縮は、アンドロゲン受容体を一時的に増加させる可能性が高い。


トレーニング最初にメカニカルテンションを主たる目的とした6~10レップ程度の種目を行い、テストステロンを増加させる。そしてトレーニング終盤に10レップ以上でエキセントリック収縮を軽視しコンセントリック収縮を重視した種目を行い、アンドロゲン受容体を一時的に増加させる。こうすることで、トレーニングを通じて血中のテストステロン濃度を上昇させ、受容体を増加させ上昇したテストステロンを作用させることができる。


テストステロンの科学~日常編~


以上ではトレーニングを通じてテストステロンを増加させる方法を説明してきた。以下では、日中のテストステロン濃度を高く維持するための方法を説明していく。


寝ろ


トレーニングでテストステロンを増加させることができるが、トレーニングだけでなく、睡眠と栄養でテストステロンの低下を抑制し、筋肥大効率を低下させないことができる。


[ix]健康な28人の被験者を、8時間睡眠群と5時間睡眠群に分け、1週間過ごしてもらい、日中のテストステロンの値を測定した。結果として、5時間睡眠群は日中のテストステロン値が10~15%低下した。その他も研究でもテストステロンと睡眠の質には一定の相関関係があるとされている。睡眠の質を向上させるために、[x]就寝前6時間、できれば10時間前にはカフェインを摂取しないことや、[xi]就寝前1時間の間にパソコンやスマートフォン等のブルーライトを放つ媒体を使用しないこと等を行うべきだ。


サプリメント摂取


亜鉛


亜鉛の摂取量と血中のテストステロン濃度の間には相関関係がみられる。[xii]正常な若年男性の、食事からの亜鉛摂取量を制限し、食事制限前と後で血清テストステロン濃度を測定すると、食事制限後のテストステロン濃度は有意に低下していた。また亜鉛が慢性的に不足している被験者が亜鉛サプリメントを摂取すると、血清テストステロン濃度が増加した。


また、[xiii]ラットを用いた研究で、正確なメカニズムについての追加の研究が求められるが、亜鉛が、アロマターゼの役割を阻害することが示唆されている。アロマターゼとは、とストステロンを女性ホルモンの一種であるエストロゲンに変換させる酵素である。亜鉛を摂取することで、テストステロンがエストロゲンへ変換されることを阻害し、高いテストステロン濃度を維持することができるかもしれない。


マグネシウム


[xiv]マグネシウムは、筋収縮や酸化的エネルギー供給(有酸素系)の際に使用され、タンパク質や核酸の合成といった300以上の酵素反応の際に使用されるミネラルである。


マグネシウムの摂取量とテストステロンの濃度については相関関係があると示唆されている。[xv]19人のフットボール選手を、ZMA群(30㎎の亜鉛と450㎎のマグネシウム、10.5㎎のビタミンB-6を摂取させる群)とコントロール群に分けて、8週間前と後での血中のホルモン濃度について調査した。結果として、ZMA群はコントロール群と比較して遊離テストステロン濃度、IGF-1濃度が上昇していた。


被験者を、体重1㎏あたり10㎎のマグネシウムを摂取する運動不足の群、一日90~120分程度のテコンドーの練習を行い体重当たり1㎏のマグネシウムを摂取する群、一日90~120分程度のテコンドーの練習を行うがマグネシウムの摂取は行わない群に分け、4週間にわたり、テストステロンの値について調査した研究がある。この研究では、サプリメント摂取前の安静時、サプリメント摂取前の疲労時、サプリメント摂取後の安静時、サプリメント摂取後の疲労時にテストステロンの値が測定され、血漿中のテストステロン値、総テストステロン値共に、安静時と比較して、サプリメント摂取後と前の疲労時に増加した。この研究から、マグネシウムの摂取だけでもテストステロン濃度は上昇すること、運動とマグネシウム接種を併用することでテストステロン値が大幅に上昇することが分かる。


最後に


今回は、筋肉量の増加に貢献する内分泌系ホルモンであるテストステロンについて説明した。トレーニングでは、エキセントリック収縮で血中のテストステロン濃度を上昇させ、コンセントリック収縮でテストステロンを多く作用させることができる。トレーニングで上昇するテストステロン量は、外部投与でのテストステロン量と比較してはるかに少ないため、日常の睡眠、栄養の質を向上させテストステロンの量を低下させないことが重要になる。


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参考資料


[i] https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1113/expphysiol.2006.036525

[ii] https://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2009/01000/The_Effect_of_Resistive_Exercise_Rest_Interval_on.11.aspx

[iii] https://link.springer.com/article/10.2165/00007256-200636030-00004

[iv] https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJM199607043350101?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200www.ncbi.nlm.nih.gov

[v] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12067856/

[vi] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2262468/

[vii] https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajpendo.2001.280.3.E383?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org

[viii] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8458810/

[ix] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4445839/

[x] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24235903/

[xi] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23509952/

[xii] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8875519/

[xiii] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31849431/

[xiv] https://www.hindawi.com/journals/ije/2014/525249/

[xv] https://www.researchgate.net/publication/288406212_Effects_of_a_novel_zinc-magnesium_formulation_on_hormones_and_strength

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