2022年 7月23日 HondaFC 1-1 奈良クラブ 感想

またしても、HondaFCに勝つことができなかった奈良クラブ。しかし、今期行われた過去2試合と比べても非常にレベルが高く、内容面や精神面でもかなり改善して向上されていた箇所が随所に見られた。そして、選手全員の戦う姿勢が全面に出ていて、とても素晴らしい試合だったと言えるのではないだろうか。それでは、今回は最初にこの試合のスターティングメンバーを紹介していこう。

両チームのスタメンと基本フォーメーション

奈良クラブは、前節滋賀戦よりボランチの国領選手から片岡選手、左WGの森選手から加藤戦への変更があった。

奈良クラブが試合前に発表されるスタメン表によると、左WGは寺島選手で、左SBは加藤選手であった。しかし、試合を通じてこの2選手間のポジションは上下が逆の布陣が見られた。

対するHondaFCは、前節枚方戦より右SB16番から3番、左SH14番から10番、FW13番からST5番への変更があった。

HondaFCは武蔵野、ホンダロック、ソニー、枚方と4連勝中のなか、天皇杯ではスタメンだった選手を少しづつ入れ替えて新たな布陣を模索していている最中だった。ところが、この試合のスタメンを見たとき、FW13番以外はほぼ天皇杯のスタメンと同じ布陣で挑んできたことに驚いてしまった。これは、奈良クラブ戦では、過去2試合90分間で決着をつけられなかったことがおそらく原因ではないかと思われる。この試合ではHondaFCの持てる力を最大限に発揮して、奈良クラブを完膚なきまで圧倒して勝ち切ることを、HondaFCは試合前から念頭に置いていたのではないか。これには少し考え過ぎる感は否めないが、このスタメンはHondaFCの本気度を表しているといっていい。それだけに、奈良クラブにとっても現在地を知る上でとても大切な試合となった。

次に、試合後のスタッツを確認してみると…

JFL公式HP一部抜粋

このように、冒頭でとても素晴らしい内容であったと書いたが、このスタッツをみるとやはりHondaFCとの力の差を感じざるを得ない。シュート数はもちろんではあるが、特にCK数が後半の1本だけというのはあまりにも厳しい数字だろう。これではリスタートから得点を取ることは難しくなるし、現状ではHondaFCから勝ち切るということはかなり困難になってくる。一刻も早くこの課題を克服しなければいけない。

それではこの試合について書いていこう。まずはHondaFCの攻撃について。

(以下敬称略)

3分その1

右CB15番→左CB11番→左SB4番 4番に桑島プレスもかわす 後方に戻る左SH10番に片岡寄せる CF9番が空けたスペースへレイオフ 4番→9番へ渡る 片岡プレスバックするもこぼれ球を9番が回収

3分その2

CF9番→SH10番へ渡る 桑島と片岡プレス こぼれ球を後方にいたボランチ17番が回収 右SH8番が森田と寺村と寺島と加藤の間のスペースへ上手く入りフリーの状況をつくる動き 17番→8番へ 素早く8番→ST5番→左SB4番へ渡る 都並プレスをかわし4番クロス 5番ペナ内へ進入するも合わず

26分その1

右サイドで右CB15番→右SB3番 右WG加藤が3番へ寄せる ボランチ7番へ山本がプレス 3番→15番へバックパス 山本は15番へ再び寄せる 加藤は3番を離れ7番へ寄せる フリーの3番 15番→3番へ

26分その2

右SB3番が右サイドまで運ぶ 右SH8番が寺島と寺村と森田と片岡の間のスペースへ上手く入りフリーの状況をつくる動き 3番→8番も上手く収まらず 寺村8番へ寄せるも転倒 片岡8番へ寄せる 8番がボールキープ 都並と桑島がボールフォルダーの8番へ 8番→フリーとなった左SB4番へスルーパス 4番ダイレクトボレーを打たず 4番トラップしてシュート アルナウ前へ詰めシュートブロック なぜ4番は迷ってしまったのか


このピックアップした2つ事例でも分かるだろうが、まず試合開始早々の3分の最初のシーンについて。ここでは、左SH10番の動きに片岡が寄せることでスペースを作り出し、意図的に連動したCF9番が、空けたスペースへレイオフして降りて効果的にボール保持へ加わっている。このような連動した動きをHondaFCの攻撃時には何度もなく仕掛けてくる。26分の最初のシーンについても、右CB15番が加藤と山本が寄せる動きをしっかりと判断してから、フリーになった右SB3番へ繋げている。その他にも38分、ST5番が上手く最終ラインへ降りて保持をフォロー。その後に右サイドから中央に位置していた5番へフリーで受けたり、72+α分では、左CB11番がオーバラップして相手陳内まで上がり森田へ寄せるという場面もあり、これらもHondaFCらしい分厚い攻撃を裏付ける要因となっている。このように連動した攻撃をされてしまうと、守備側はかなりマークに付きづらくなってしまう。かといってスペースを意識し過ぎてしまうと、今度は後方から質の高いロングボールを蹴り上げられるし、また左SB4番を中心にサイドから崩されてしまうからとてもやっかいだ。

そして、右SH8番のスペースを見つける動き出しの巧妙さ。3分と26分の最後のシーンでは、奈良クラブの守備陣の間のスペースへ上手く入られているのがよく分かると思う。これではボール奪取能力に長けている森田であっても、この状況で彼からボールを奪うことはとても難しい。しかも、守備側は常に後手後手に回るので、対応することがかなりやっかいだ。ちなみに、奈良クラブはこの試合でファール数が20回(前半11+後半9)と多いように感じると思う。しかし、この要因の一つには、守備時に上記の理由でHondaFCの選手を捕らえきれずにファールをしてしまうことも往々にしてあるのかもしれない。そのため、HondaFC相手にPKを2度献上してしまうことに繋がってしまったのではないか。とはいっても、アルナウが2度目のPKは防いでくれたし、中盤をHondaFCに幾度なく崩されたとしても、結果的にシュート数を7本で抑えられた、奈良クラブの最後の粘り強い守備はとても素晴らしいと思う。これはクリーンシート以上に価値のあるものだ。

それでは、奈良クラブの攻撃について。この試合におけるマン・オブ・ザ・マッチは浅川だと思っている。CFとしてゴールがないのは彼もだろうが私もとても残念だ。しかし、この試合での彼の動き出しの素晴らしさは目を見張るものがあった。

9分

アルナウにCF9番がプレス 森田はヘソのスペースへフリーに アルナウ9番のプレスの前に→森田 ボランチ7番が森田へプレス 森田7番をかわす 森田前へ運ぶ 7番と左SH10番とボランチ17番に囲まれる 桑島中央へ 左SB4番桑島の動きに目が入り左サイドの対応遅れる 森田センターライン超える 浅川右サイドへ流れる 森田→浅川 浅川右サイドでグラウンダーのクロス ペナ内へ進入した桑島には合わず 左SB11番がカット こぼれ球をボランチ17番がクリアもショート そのクリアボールを浅川ペナ外際右でダイレクトでシュート性のクロス ペナ内中で右WG加藤がシュートもゴールライン割る

10分

ボランチ7番が2CBの間へ降りて3バックを形成 左CB11番→7番→右CB15番へ渡る 浅川前方へワンステップ 右CB15番→ボランチ17番へパス そこを狙いすましてトップスピードで浅川がインターセプト→左WG加藤へ

36分

GK1番に浅川プレス その間に都並オーバラップ GK1番→左SB4番のパスを都並が前方へパスカット そのまま都並ゴール前へ 左CB11番とボランチ7番は都並に寄る 4番寄せる前に桑島右足でグラウンダーパスを出して転倒 浅川クロスに合わせるも右CB15番に寄せられる ゴールラインを割る 相手ボールへ

39分

アルナウ→加藤→浅川へのロングボールに対して左CB11番を背に浅川収める その後右SB3番やボランチ17番7番も寄せにくる 浅川→フリーの片岡へ渡る 片岡→右サイドの桑島へ 桑島クロスも11番が戻って頭でクリア

61分その1

61分、PKアルナウが止める アルナウ→寺島 FW9番が寺島寄せる前に中へ横パス→森田 FW13番が森田に寄せる 森田13番に寄せられるも左斜め前へ運ぶ 山本左サイドセンターラインとタッチライン際へ入る ボランチ17番が山本へ寄せる 山本→中へ入った寺島へ 右SH10番が寺島に寄せる 寺島前方へ浮き球のミドルパス

61分その2

浮き球を右CB15番が収める 15番→後方の右SB3番 3番から15番へリターンする途中で浅川がカット 左サイドへボール流れる 桑島が中へ 浅川がグラウンダーのクロス 左CB11番が桑島の後方へ 桑島→山本 右CB15番が山本の背中へつきボールロスト こぼれ球を→桑島 ボランチ7番、15番、11番が寄せる 桑島のシュートに11番がブロック こぼれ球を浅川がシュートも枠外

72分+α

72分+?、ボランチ17番に片岡プレスもかわされ→左SB4番 片岡すぐさまプレスバックで4番へスライディングで4番ボールロスト こぼれ球を森田が回収 左CB11番が森田に寄せる 4番が都並に寄せる 都並→山本→可児→片岡→山本 11番山本へすごいスピードで寄せに来る 山本→長島→浅川でオフサイド ペナ内に加藤 長島シュートでもよかった


このように、浅川が中央だけに留まらず、右サイドへ繰り返し動き出すことによって、奈良クラブの攻撃を活性化させているのが分かってもらえただろうか。このピックアップしたなかでも特に素晴らしかったのが、10分と39分のシーンだろう。10分では、浅川のワンフェイクをCB15番へ見せることによってボランチ17番のパスを見事にインターセプトしている。このちょっとした動き出しが、浅川のプレッシングの技術の高さであることを言わねばならない。39分では、浅川はディフェンスラインの裏抜けを得意とするCFだと思われがちだが、このシーンでは左CB11番を背にしながらも、がっちりとポストプレイヤーとして相手からボールを奪われずしっかりと収めているのがよく分かるだろう。そこから、このシーンでは最終的にシュートこそは打てなかったものの、HondaFCのプレッシングをかいくぐってロングボールで見事に攻撃へと繋げていった素晴らしいシーンだった。そして、このような浅川の献身的なプレーがこの試合で最も実を結んだのが、先制点となる31分のシーンだろう。

31分その1

浅川右サイド流れる 伊勢ロングパス→浅川上手くトラップ 浅川に左CB11番が寄せる 桑島中央から斜め右へ 左SB4番は左CBの位置へ

31分その2

浅川11番をかわして→桑島へ 加藤ペナ内中へ進入 ボランチ17番後方からボランチ7番は中央から桑島を寄せる 寄せられる前に桑島中へ流れて左足で前方の加藤へ 片岡中央へ ゴールと右CB15番を背に加藤はたく フリー片岡へ渡る

31分その3

片岡へ右CB15番とボランチ7番が寄せる 片岡かわして前へ少し運ぶ 右SB3番が詰め寄りこぼれ球へ こぼれ球に浅川がダイレクトシュート 左SB4番がブロック こぼれ球をペナアークのフリーに近い山本へ 15番が寄せる前に山本振り足早くシュート 4番ショートブロックもGK1番右へ飛び込むもゴールへ


この先制点で良かった点をいくつか挙げてみよう。


伊勢のロングボールの精度の高さ

浅川が右サイドへ降りて右WG桑島が中へ入ることで、浅川のマーカーである左CB11番をサイドへずらす

サイドを起点とすることで相手の最終ラインのスペースが生まれる

サイドから質の低いクロスをただ放り込むだけではなく、ポジションを入れ替えることによって、キック精度の高い桑島がよりゴールに近いところで仕事ができる

ペナ内中前方で、コンタクトが強い左WG加藤がポストプレイヤーとして折り返すことで再現性を高められる

事前にデザインされていることで、シュート期待値が高い片岡へ高い位置で配球するスピード感

偶然だったとはいえ、2度に渡る相手からのこぼれ球に対し、浅川と山本へ繋がったのはチームとしての一体感がそれを生み出した

山本のシュートブロックに、左CB11番をずらし本職ではない左SB4番のブロックだったため、ほんの一瞬ではあるが対応が遅れた。ここが11番をサイドへずらした最大のメリット

野性的な山本の何の躊躇もない素早い振り足からのコントロールされた見事なシュート


このように、この先制点は奈良クラブがHondaFCと対戦した過去2試合とは全く異なり、高いレベルの攻撃を選手全員で見せられたことが重なり合って生まれたゴールだったということが、これで十分に理解してもらえたならありがたい。このゴールによって、奈良クラブの現在地がJFLを優勝するチームであることに相応しいチームだと、誇らしげに周りに公言してもなんら不思議ではないことの、これは証明となるゴールだろう。それほど素晴らしいゴールだった。

最後に、HondaFCとのJFLでの戦いはこの試合をもって事実上これで終わったことになる。HondaFCは本当に強くて素晴らしいアマチュア最強のチームだ。しかし、社会人カテゴリーということだけが非常に残念でならない。それは、JFLのカテゴリーより上のカテゴリーでは、HondaFCと対戦することができないからだ。リーグ戦ではない天皇杯ではノックアウト方式のため、HondaFCの本当の強さを体験することは難しい。私は思う。HondaFCがJリーグで活躍するところを是非とも見てみたい。J1では個の力で打開する外国人選手が多数在籍するので、まずはJ3へHondaFCが参戦すれば一体どうなるのであろうか。そして、J2では…と想像が膨らんで止まないのだ。国内で最も強いチームを決めるのがJリーグの醍醐味であるというなら、国内サッカーの停滞感を打破するためには、このような楽しい例外の1つや2つがあっても面白いのではないか。それは単なる例外ではない。国内最強で最高のチームがJFLにHondaFCとして存在することを私達は知っているのだから…

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?