さよなら、メビウスオプションイエロー5ミリちゃん。
わたしには行きつけの居酒屋がある。
地元の最寄駅近くにある、カウンターで15席ほどしかない居酒屋で、
今年でたしか開店37年なのでだーーいぶ長く続いているお店だ。
わたしは数年前から縁あってそのお店の常連客となり、
今や3週間顔を出さなければお店から電話がかかってくるほどたぶん気にかけてくれている。
そこで出会った他のお客さんは多くが自分より10もしくは15歳以上年上の方ばかりだけど、
お店で会う客同士という関係を越えて遊びに誘ってくれたりしている。
わたしはみんなに何度も笑わせてもらったし、何度も救われた。
そして今日も仕事終わり、ほんの少しの時間だけどお店に足を運んだ。
そこで、わたしは一つ宣言をした。
「タバコやめる」
わたしは喫煙者だ。
吸っている期間や本数は全くもってヘビースモーカーというほどではないけれど、
本当にタバコがだいすきだ。
味も、吸っているときの気持ちも、喫煙所で生まれる会話も、
全部が尊い。
タバコを吸う時間のことを、誰にも言ってないけど心の中でニコちゃんタイムと名付けていたくらいだ。
仲良くなれそうになかった人と、タバコきっかけで仲良くなれたことも何度もあるし、
喫煙所で和田アキ子の『愛の光』を聴きながら涙を流したこともある。
タバコを辞めれば、
もしかすると、そういう日々のラッキーがなくなるかもしれない。
もういつものコンビニで番号を言うこともなくなる。
そしていつも買ってるのに年齢確認されて恥じらいながら免許証を出すこともなくなる。
新しくなったパッケージのデザインがダサい話で盛り上がることもなくなる。
だけど、だけど!辞める決意をした。
大きな声では言えないが、喫煙者であることに対して正直そんなにやましい気持ちもなかった。
昔、禁煙外来に通い始めた瞬間明らかに家族への当たりが強くなった父を見ていたし、
「禁煙」ってとにかくストレスフルなイメージしかなかった。
それでも辞めようと思ったのは、
これを乗り越えられると自分に自信がつく気がしたからだ。
今わたしは変わろうとしている。
もしかしたら、失敗するかもしれないけど。
それでもやってみる。
そして意を決していつもの居酒屋で「タバコやめる」宣言をした。
すると、お店の常連さん(本当に毎日いる)(父と同い年)が
「吸うてるタバコいくらや?」
と聞いてきた。
490円。
「ほんなら、これで辞めたらええ」
そう言って500円玉を渡してくれた。
どうやら、これで最後の一箱を買え、ということらしい。
(あれ?わたし今持ってる一箱で辞めるつもりやったのにな)
という本音は到底口にはできなかったが、
「最後の一箱代あげる。でも、これで買うかどうかはお前次第や。」と。
なるほど。
急に試された。
でも、またそのあと続けて、
「3週間やめたら◯◯円、半年やめたら◯◯円あげるわ。
俺は自分のために幸せになろうとしてる人を応援したいねん。
その代わり禁煙してるって分かるように、店には来いよ。」
そう言って禁煙支援プロジェクトを立ち上げてくれた。
具体的な金額を書くのは野暮だし、実際もらうつもりもないが、
とにかくその気持ちが嬉しかった。
もうわたしがそのお店でタバコを吸うことはない。
タバコを吸える場所が減ってきたこのご時世、
堂々と一服できるそのお店はわたしにとって癒しの空間だった。
もちろんイチバンの魅力はもっと他のところにある。
だけど、間違いなく、その場所での楽しい思い出のそばにいつもタバコがあった。
タバコをやめる方法なんて、書籍やウェブサイトにごまんと書かれてある。
だからもちろん、わたしも知っている。
だけど、わたしには、タバコに紐づく嬉しかったこと、楽しかったこと、今なら笑い話にできる辛かったことがたくさんある。
禁煙は、そんな思い出たちを肌で感じることと、さよならすること。
“匂い“が思い出のトリガーになる経験は、非喫煙者の方でも、きっとあるはずだ。
いや、禁煙なんてさ、
喫煙歴数年のこんな小娘が、感傷的になるほどのことではないよ。
でも、タバコと過ごした時間はなかったことにはならない。
(健康面でもそうですし)
一緒に豊かな時間を過ごしてきた相棒とテキトーに別れることなんてできない。
だから、最後の一本をどこで、何を聴きながら、何をみながら吸うか、今から考えている。
いやいや思い立ったときに辞めないと!!という意見は今は聞きません、いったん、2人にしてください、すみません。
そして、今のわたしなら、
「“やらない”の習慣化」もきっとできる。
吸わない。
吸わなくなった4分間は、本でも読めばいい。
口が寂しければ、ガムでも噛めばいい。
ああもう今からさみしい。
せっかくピーク時から6、7キロ痩せたのに、また太っちゃうのかな。
ご飯おいしくなるんだろうな。
こんなに辛くなるなら出会わなければよかったと深夜に激イタポエムをSNSに投稿する世のメンヘラ女子の気持ちが今は痛いほど分かる。
分かってるよ!
でも辞める!
応援してくれるひとの気持ちが嬉しいのもあるけど、
自分のために、がんばる。
禁煙まであと5本。
おやすみなさい。
P.S.
まあ支援プロジェクトについては、そうこういいつつ、
気軽にいただける額は断っても握らされるだろうし、
証拠として目標金額をLINEでメモして残しちゃったのもあるし、いただくでしょう。
でも、その分本当にがんばるよ。
支援プロジェクトのスポンサー様は、
(こういうとパパ活みが増すので嫌)
「もし吸ってしまっても、正直に言わんでもええ、
そういうときもある。
そのことで自分はアカンって思い込むんじゃなくて、
明日からまたがんばろうって思うようにするねんで。」
そう言ってくれた。
KENTの細いタバコをふかしながら。