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城山文庫の書棚から063『イスラエルとユダヤ人』佐藤優 角川新書 2020

ロシア担当の外交官だった著者が、イスラエルを最重要国だと言う。イスラエルにはロシアから移住したユダヤ人が約100万人いて、国の政策や経済に多大な影響力を持つ。ロシアに関する機密情報の入手にもイスラエル在住のユダヤ人脈が威力を発揮する。

佐藤氏は日本国内の報道はパレスチナ擁護に偏向しバランスを失すると警鐘を鳴らす。その真意を汲むには、複雑に絡み合う中東の歴史を理解することが不可欠だ。イスラエルが日本と共通の価値観を有するという観点からも、イスラエルとの関係重視を訴える。それもひとつの見方だ。

第4次中東戦争開戦の記述には戦慄が走る。1973年10月6日、その日はヨムキプール(贖罪日)というユダヤ教の最も重要な祝日だ。その時モサドはエジプト・シリアによる攻撃の正確な情報を持っていたが、軍と政治指導部が判断を誤った。50年後、歴史は繰り返す。

ロシアというフィルターを通してイスラエルを見ることで中東情勢のみならず同時進行のユーラシア危機まで射程に入れた視座を得ることができる。緊迫する世界情勢を把握するうえで、本書は「一粒で二度おいしい」一冊であると言えよう。