Ken H

東京在住♂ アル中、ビラ中、活字中毒。 3拍子揃った、依存症界の三冠王。

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最近の記事

城山文庫の書棚から086『チョンキンマンションのボスは知っている』小川さやか 春秋社 2019

著者はタンザニアでフィールドワークを行いスワヒリ語を操る文化人類学者。登場人物は香港のチョンキンマンション=重慶大厦に暮らすタンザニア出身の商人たち。彼らのボスと称されるカラマとの交流を通じて、アングラ経済の仕組みを解き明かす。 カラマは決して力強いボスではない。時間にルーズで顧客にはいつも怒られ、若者達からも煙草の吸い過ぎを嗜められている。けれど憎めない愛されキャラで同郷人達の信頼を獲得している。日本人の著者とのツーショット写真までビジネスに活用する強かさも併せ持つ。

    • 城山文庫の書棚から085『マルクス・ガブリエル 日本社会への問い』丸山俊一 NHK出版新書 2023

      欲望の時代を哲学する、マルクス・ガブリエルシリーズ第三弾。昨年5月に来日した哲学界の“ロックスター”がインタビュー形式で語るわかりやすい入門書。首都高を走る車内でタルコフスキーの映画『惑星ソラリス』を想起して興奮する彼にとって、東京は刺激的な街のようだ。 世界の現状をガブリエルはネステッド・クライシス=「入れ子構造の危機」と表現する。相互に絡み合い影響し合う輪の中で、もはや一つの危機が他の危機の一部となって組み込まれているような状態だ。すべての出来事の背景には気候危機がある

      • 城山文庫の書棚から084『全体主義の克服』マルクス・ガブリエル、中島隆博 集英社新書 2020

        8月28日の夜に開催するガブリエル氏シンポジウム、後半のパネルに登壇される中島教授との対談。現在起きている問題の核心にあるのが、公的な領域と私的な領域の区別の破壊。その背景にある新たな形の全体主義に現代社会は脅かされているのではという問題提起。 「上からの力」によって民主主義が攻撃されている訳ではない。それは「市民的服従」によるものであり、新たな全体主義の本質だという。GAFAをはじめとするグローバル・テック企業の科学と技術が全体主義の台頭を加速する。我々は国家とは別の物語

        • 城山文庫の書棚から083『倫理資本主義の時代』マルクス・ガブリエル早川書房 2024

          「哲学界のロックスター」の異名を取るガブリエル氏が日本の読者のために書き下ろした新書。一般層にも伝わるよう平易な言葉づかいで資本主義のめざすべき方向を指し示す。「脱成長」に対するオルタナティブとして彼が提示する「倫理資本主義」とは何か。 現代の世界が直面する難題をガブリエル氏は「入れ子構造の危機」と表現する。複雑に絡み合った危機を乗り越えるため、倫理資本主義が実行された後に「エコ・ソーシャル・リベラリズム」という未来志向の社会像を描く。 すべての企業に倫理部門の設置を義務

        城山文庫の書棚から086『チョンキンマンションのボスは知っている』小川さやか 春秋社 2019

        • 城山文庫の書棚から085『マルクス・ガブリエル 日本社会への問い』丸山俊一 NHK出版新書 2023

        • 城山文庫の書棚から084『全体主義の克服』マルクス・ガブリエル、中島隆博 集英社新書 2020

        • 城山文庫の書棚から083『倫理資本主義の時代』マルクス・ガブリエル早川書房 2024

          城山文庫の書棚から082『見ることの塩 上 イスラエル/パレスチナ紀行』四方田犬彦 河出書房新社 2024

          20年前にテルアヴィヴ大学客員教授としてイスラエルに滞在した際に書かれた本を二分割して緊急再出版。虐殺が繰り広げられているガザの今を四方田さんが見つめる「見ることの蜜は可能か」を追補。二国共存の希望が残されていた時代から絶望の今を照射する。 80年代にコロンビア大学でサイードから薫陶を受けていた四方田は、イスラエルに向かう定めだったのかもしれない。背中を押したのは山口淑子;かつての大女優・李香蘭その人だった。彼女は70年代初頭にテレビ番組の収録でパレスチナ難民キャンプを訪れ

          城山文庫の書棚から082『見ることの塩 上 イスラエル/パレスチナ紀行』四方田犬彦 河出書房新社 2024

          城山文庫の書棚から081『自壊する欧米』内藤正典 三牧聖子 集英社新書 2024

          ウクライナ戦争ではロシアを非難するのに、ガザに侵攻するイスラエルには沈黙し続ける。どちらも国際法違反が濃厚な戦争犯罪だ。欧米のダブルスタンダードの背景にある論理を、老練な中東研究者と気鋭の米国政治学者が炙り出す対談。 アメリカにはユダヤ人ロビーと軍需産業、ドイツにはホロコーストのトラウマがある。英国には3枚舌外交の後ろめたさがあるのかもしれない。だからと言って、イスラエル国家の非道を批判することと反ユダヤ主義の区別もできない状況は極めて危険だと内藤氏は指摘する。 欧米諸国

          城山文庫の書棚から081『自壊する欧米』内藤正典 三牧聖子 集英社新書 2024

          城山文庫の書棚から080『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』岡真理 大和書房 2023

          昨年10月7日に突然始まったわけではない。我々日本人も惨状から目を背けてはならない。100日を越えたイスラエル軍による今回のガザ侵攻はあまりにも度が過ぎている。3万人以上が殺され、その多くは民間人の子どもたちだ。岡真理さんが10月20日と23日に行った緊急講義を緊急出版。 1948年にパレスチナ人を襲った民族浄化の暴力、ナクバ。今回のガザ侵攻はその再来、いや規模で言えばそれ以上だ。背景には欧米列強の煮え切らない中東政策と国連によるパレスチナ分割がある。国際社会の無関心が今も

          城山文庫の書棚から080『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』岡真理 大和書房 2023

          城山文庫の書棚から079『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』篠原匡 朝日新聞出版 2022

          「面白い」という感覚の裏側にあるのは驚きであり、驚きの根源にあるのは「知らないこと」だと篠原さんは言う。さらに言うと「見えていなかったこと」の中に何かが始まる萌芽があるとも。本書はまさにそんな本だ。 座間市役所生活援護課の職員たちの取組みを取材したルポルタージュ。民間出身で熱血漢の課長を軸に、周りでサポートするNPOやサービス会社による「チーム座間」の活動も紹介。生活援護を受ける市民にもフォーカスして、普段目に見えない社会の様相を浮かび上がらせる。 生活困窮者自立支援制度

          城山文庫の書棚から079『誰も断らない こちら神奈川県座間市生活援護課』篠原匡 朝日新聞出版 2022

          城山文庫の書棚から078『神山 地域再生の教科書』篠原匡 ダイヤモンド社 2023

          徳島県神山町。地方創生の成功モデルとして全国から注目を集める町だ。人口5千人弱だが、様々なルーツの移住者が東日本大震災をきっかけに増え、コロナ禍の2020年には8年ぶりに社会増に転じた。何が人々を神山に惹きつけるのか。 2023年4月、神山町に新しく全寮制の高専が開校した。1学年40名、全体で200名の学生が住民として加わる。ほとんどは町外から移り住む若者であり、彼らが町にもたらす効果と影響は計り知れない。神山に残り起業する者も現れるだろう。 元の住民と移住者が交流し、人

          城山文庫の書棚から078『神山 地域再生の教科書』篠原匡 ダイヤモンド社 2023

          城山文庫の書棚から077『人生は選べる』篠原 匡 朝日新聞出版 2024

          ハッシャダイソーシャルは、全国の高校や児童養護施設、少年院などの若者に、無償でキャリア教育を提供している一般社団法人。代表の勝山は「選択格差」が日本の若者の進学を巡る差を生み出していると指摘する。もう一人の代表・三浦も同じ20代の若者だ。 勝山は自身が少年院を出た札付きのワルだった。付き合っていた彼女の兄から手を差し伸べられ更生する。相棒の三浦は教師を目指したが高一でいじめにあう。「周りは変わらないから自分が変わるしかない」という恩師の言葉にはじめは反発するが、やがて少しず

          城山文庫の書棚から077『人生は選べる』篠原 匡 朝日新聞出版 2024

          城山文庫の書棚から076『言葉は選ぶためにある』田中優子 青土社 2024

          法政大学前総長、江戸研究家の田中優子さんは最近ずっと怒っている。2022年から23年に書かれた連載コラムを収めた本書で、その怒りは家父長制や女性蔑視、排外主義などに対して向けられる。いずれも旧態依然とした世の中の価値観、昭和の残滓だ。 抑制した筆致で綴られるそれらの怒りは、ヒステリックでないが故に余計に鋭く読む者に突き刺さる。激しい言葉を選びながらも品性を失わない静かな怒りの意思表示。差別や価値観の押し付けに抗い、精神の自由を希求する態度が通奏低音を奏でる。 執筆期間に露

          城山文庫の書棚から076『言葉は選ぶためにある』田中優子 青土社 2024

          城山文庫の書棚から075『夜明けを待つ』佐々涼子 集英社 2023

          歌舞伎町の駆込寺、入国管理局の理不尽、国際霊柩送還士そして在宅終末医療。人間の生と死を見つめ、優れたノンフィクション作品を次々と発表してきた佐々涼子さんのエッセイ&ルポルタージュ集。彼女の仕事の集大成となるであろう一冊。 地下鉄サリン事件の首謀者ら7名の死刑が執行された日、佐々さんは友人や息子とモヤモヤについて語らう。自分が正しいと信じて疑わない人達が間違えたのがあの事件であり、閉じ込められた人の集団は腐る。その通り。だけどモヤモヤは消えない。 一時期人生に迷った著者は、

          城山文庫の書棚から075『夜明けを待つ』佐々涼子 集英社 2023

          城山文庫の書棚から074『声の地層 災禍と痛みを語ること』瀬尾夏美 生きのびるブックス 2023

          東日本大震災の被災地へ赴き、津波と地震から生き延びた人々・大切な人を失った人々の声を聞く経験から語り継ぐことを始めた瀬尾夏美さん。東京から陸前高田・仙台に移住し、10年を経て東京に戻り、語ることを続けている。真摯なその記録。 本書は彼女が聞いた話を元に書き起こした物語と、それに対する彼女自身の解説のセットで織りなされている。話を聞かせてくれた人びとのほとんどが、誰かに伝えてね、と言ってくる。語り継ぎの役目を託された瀬尾さんは、本書で見事にそれを果たしている。 東日本大震災

          城山文庫の書棚から074『声の地層 災禍と痛みを語ること』瀬尾夏美 生きのびるブックス 2023

          城山文庫の書棚から073『東京の生活史』岸政彦 編 筑摩書房 2021

          東京に暮らす150人にその知人150人が聞き取りを行なった記録。ひとり1万字で150万字・二段組で1200ページの大著は、読み終えるのに2ヶ月半を要した。始まりは岸さんのふとしたつぶやきだった。 「東京の生活史、300人くらい聞きたい。」反響は大きく、2020年7月に募集をしたら480名近くの応募があったという。そこから絞り込み、150名の聞き手を選ぶ。聞き手が語り手を選び、研修後に聞き取りを行い、所定の文字数まで絞り込み編集する。この本は本というより、偶然と必然のあいだで存

          城山文庫の書棚から073『東京の生活史』岸政彦 編 筑摩書房 2021

          城山文庫の書棚から072『東京23話』山内マリコ ポプラ文庫 2017

          千代田区を皮切りに、擬人化された東京23区が自分語りする。キャラクターは男性だったり女性だったり、ビルだったり行政区だったり。主体に合わせて話し方も変わる。文京区などは「吾輩は区である。」で始まる漱石風だ。 その街のキャラに合わせ声色は変幻自在。渋谷区はギャル、世田谷区はマダム、江戸川区はインド人風で台東区は江戸っ子べらんめえ調といった感じだ。同じ東京都区部でも方言があり、フランス語のように性別もあることに気付かされる。 描くのは現代ではなく思い出の懐かしい東京。と言っても著

          城山文庫の書棚から072『東京23話』山内マリコ ポプラ文庫 2017

          城山文庫の書棚から071『東京の創発的アーバニズム』ホルヘ・アルザマン Studiolab 学芸出版社 2022

          慶應大学で教鞭を取るスペイン人都市研究者・建築家が東京の都市を解析しプロトタイプを浮かび上がらせる試み。横丁・雑居ビル・高架下建築・暗渠ストリートそして低層密集地域という5つの都市パターンで東京を切り取る。 著者が提唱する創発的アーバニズムとは、偶発性と切実な必要性から生まれる都市のあり方。森ビルや三井不動産をはじめとする大企業が主導する既存のアーバニズムとの違いは、小規模で多様な関係者による地域密着型のコミュニティであることだ。 ゴールデン街やのんべい横丁は海外から訪れる人

          城山文庫の書棚から071『東京の創発的アーバニズム』ホルヘ・アルザマン Studiolab 学芸出版社 2022