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あいつは ブーナ (年寄りの野良猫2)

アイツが最初に庭に来た時は、ワイは気がおかしくなるほど怖かった。
キジ模様で、とにかく図体がデカい。
ワイ、チビりそうになった。 
母ちゃん出かけてルスだったからさ、誰も追い払っちゃくれない。
多分ワイのこと、気づいちゃいないので、サッサと逃げた。

次にアイツが来たのは、デッキでワイが日向ぼっこしてた時。
ワイが寝そべっている座布団に、一緒に座ってきた。
半分寝てたワイは、いきなりの匂いと体温に、びっくりしてしまった。
「家を守るのは利兵衛の役目だよ」と、母ちゃんにいつもいわれてたけど、あんまりびっくりしたので、逃げてしまった。
怖くて逃げたんじゃないぜ。びっくりしたんだ、あのときは。

母ちゃんはアイツにブーナと名付けた。
だがワイはアイツは嫌いだ。
第一、ネコらしくない。
ワイが、いつもブーナを見て威嚇するので、母ちゃんは
「ブーナ、こら!あっちへ行け!しっし!」と追い払う。
ザマーミロだ。

ブーナ(母ちゃんがブーナというからブーナなんだろう)は、どうやら婆さんネコらしい。
ワイが好きなんだろうか。それともこの家が好きなんだろうか。
だが、この家はワイのナワバリ。いくら婆さんネコだからと言って、のさばらせるわけにはいかない。

ワイも、コドモの時、本物の母ちゃんにココに連れられて来た。
生まれた所はココより少し高台の、空き家だ。
母ちゃんはワイ達を一生懸命育ててくれたが、なんせ野良猫、餌なんぞ誰もくれりゃしない。
で、おっぱいも出ないときが段々多くなった。
弟達が2匹続けて死んだ後、母ちゃんはワイを咥えて、下の家に降りた。

母ちゃんは、ココの家に新しい住民が来たのを知ってて、時々餌を食わせてもらっていたらしい。
ワイをデッキに上げたら、母ちゃんはサッサとにげた。ワイは腹が空きすぎて、うごけなかったんだ。

すると、人間のオバさんが出てきた。ワイを見ると、
「鉄仮面のコドモか?」と、聞いてきた。
鉄仮面とは、どうやらワイの母ちゃんらしい。
「ちょっと待ってね」と人間のオバさんは中に入り、次に出てきた時は竹輪を持ってきた。

ワイは小さすぎたので、竹輪が食えなかった。するとどこからか母ちゃんが帰ってきて、竹輪をペロリと平らげた。

そして、ワイを咥えて、また上の空き家へと上がった。
ワイはその夜、母ちゃんのおっぱいをしこたま飲んだ。

その次の日も、ワイは母ちゃんに咥えられて、下の家のデッキに行った。
その次の日も、その次の日も。

ワイは自分で、竹輪が食えるようになった。

ある日母ちゃんは、迎えに来なかった。
ワイはずっと待った。
ここらは田舎だから、春でも夜は寒い。
ワイは声が出ないので、母ちゃんを呼べない。母ちゃんは来ない。

ココの家のオバさんは、毛布を出してくれた。そしてワイに言った。
「オマエを飼うわけにはいかないんだよ。ここはシャクヤだから。寒いから毛布にくるまって、母ちゃん来るの待ってな」

何日も何日も、母ちゃん来るの待った。

ある日、オバさんはワイをムンズと捕まえ、家の中に連れて入った。
ワイは怖かった。ホントに怖かった。
温かい水(とんでもない!)をかけられ、泡の出るなんかぬるぬるする液体をかけられ、ゴシゴシこすられ、温かい水をかけられ、タオルでゴシゴシされ、大きな音の、熱い風が吹くヤツに当てられ…怖くて半分気を失ってて…

気がついたら、家の中で寝ていた。

それから…思い出したくも無い、今でもオバさん・新しい母ちゃんをむちゃくちゃ恨んでいるのだが、どうやらワイは病院とやらでタマタマを切られたようだ。

母ちゃんは納屋で、寝床を作ってくれて、柔らかいエサをたくさんくれた。
ノミだらけで、痩せていたワイは、なんとか生き延びることができたようだ。
後から知ったが、鉄仮面と呼ばれたワイの本当の母ちゃんは、年に3回も出産した。そのコドモで生き残ったのは、ワイと、ワイの2回後に生まれた、ワイにそっくりな弟だけだ。

ハナシは長くなったが、そんなわけで、ワイもブーナの気持ちは少し分かる。
それにブーナはどうやら生まれた時は飼い猫だったが、お婆さんになって追い出されたみたいだ。

今度ブーナに会ったら、少しだけ、優しくしてみようかな…。







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