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ばあさん(年寄りの野良猫4)

川向うの兄さんの家に行った時。
途中の道で、ばあさんネコに会った。

オイラは無駄なケンカをする主義ではないので(兄さんとは違うし)、注意しながら通り過ぎた。

そのばあさんネコは、のっしのっしと歩いているが、腹ペコそうだった。

オイラが若い時に世話になったおばさんネコに、雰囲気だけ似てる。

「おばさん、腹減ってんの?」
聞いたみた。
そのばあさんネコは、答えない。
が、ゴロゴロ寄ってきた。
ははーん、ずっと飼われてたネコだな。
たまーに、家の中でずっと飼われてたヤツは、ネコ同士の言葉がわからない。

「おばさん、オイラについてきなよ。エサの有るとこ教えてやるよ。」 

果たして、ばあさんネコはついてきた。

「ここは、オイラのアニキがいるウチ。アニキに見つかったらヤバいけど、今は見回りに行ってて留守だから。
こっから入るんだよ。いつも開いてるから。」
納屋にはネコ用の隙間があって、そこから風呂場の窓から入る。
アニキはいいなあ、と、いつも思う。
飯はいつもあるし。寒くなったら寝床もある。

生まれたタイミングが少し違うだけで、オイラとアニキは天と地の差だ。
こればっかりは天を恨むしかない。
だが、オイラとアニキは瓜二つ。こうやってアニキの留守中に忍び込んで、アニキのエサをちゃっかり頂きまーす。

この間なんか、一回ココの家の飼い主に見つかった。だが…
「利兵衛、今日は沢山食べたんだねえ〜。」と喜ばれた。
ヘッへ〜、分からないでやんの。

まあとにかく、台所に行って見る。ばあさんもついてくる。
しめしめ、いっぱいあるなあ…。

ばあさんとオイラはたらふく食った。
ばあさんを先に風呂場の窓から出してやり、オイラは家の中をちょっと物色した。
イリコは冷蔵庫の上にある…その時、飼い主がぬっと台所に入ってきた。

「利兵衛、まだ腹ペコなの?イリコ食べたいの?」

飼い主はイリコを出してくれた。
(ここで慌てて逃げたら絶対にバレる!)
出されたイリコをおとなしく食ってると、ぼそっと飼い主が言った。
「オマエ、本当に利兵衛か?」

何事もないようにイリコを平らげ、風呂場の窓から出た。
本当に、本当に、肝が冷えた。
今更ながら、汗がドバーッと出た。
バレた?バレた?バレた?
でも…追ってくるような気配はない。
納屋の入り口で、ばあさんが待ってた。

「ありがと」

オイラはすっかり嬉しくなって、もう一か所の、秘密の、ふやけたイリコを夕方にたくさん撒いてくれる家も教えてやった。
で、アニキの家は見つかったら本当にやばいので、オイラと一緒じゃないと行っちゃっいけない!と一言付け加えた。

暑いときが終わったら、木の葉っぱが赤くなって、全部無くなる。
そうなるとものすごく寒くなる。
「ばあさん、どこ住んでるの?
 寒くなったら一緒に寝ようよ。」

振り向いたら、ばあさんネコは、いなかった。

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