【フィクション】常連ぶらない蓮菜さん。第4話

※この物語はフィクションです。

第4話 美食家気取りは、レイズしたがる。

「うん。これはいい。」
いつもの喫茶店に、そうつぶやくおじさんがいました。

静かにたしなんでいた私たちは、その存在に気になっていました。
「ゆっちゃん。もしあれならあと5分10分ぐらいで出ない?」
「もしかして。あのおじさんがアレなの?」
「うん・・・。」
「分かった。いいよ。」
「ホントごめん!」

私は、蓮菜さんと公園で話していました。
「あの人は、多分食通の人ね。」
「なんでわかるの?」
「それは、SNSであの人を見たから~。」
「そんなに有名なの?」
「フォロワーは、見た時だと173万ぐらい?もっと増えてるかもねぇ。」
「そんな有名人がこの町にいるの!?」

郊外の町です。
出身芸能人はちらほらいますが・・・。
在住となると話は別です。

「いわゆるグルメインフルエンサーってやつ。」
「インフルエンサー・・・。」
その次元は、私と違う次元なもんで。
想像できませんでした。

「まぁ、私は嫌いなんだけどね。」
「え?」
いきなりの剛速球。
一瞬何のことか分からなかったです。

「ど、どういうこと?」
「あのおじさんのことよ。」
「なるほど・・・。」
私、急に嫌われたかと思いました。

「だから何だって感じ?食通だから偉いの?」
「いやでも。努力してるんじゃない?あの人なりに。」
「努力は認めるわ。ただ、決めつけがイヤなのよ。」
「決めつけ・・・。」
「例えばよ。ここに来ないと人生半分損してるとかね。」
「あるね。」
「自分の店ぐらい自分で決めさせてほしいっつーの。」
「なるほどね。」
だから、嫌だったんだ。
合点が行きました。

「ゆっちゃん。ここからは、あくまで私の偏見として聞いてね。」
「う、うん・・・。」
「ゆっちゃんは、ポーカーとかブラックジャックとか知ってる?」
「名前だけなら・・・。えっ!?まさか・・・賭けてるの?」
「賭けてないよぉ~。安心して。」
「そ、そう。良かったぁ。」

私は、変な不安をしてしまいました。
まさか、高校生ギャンブラー?
裏世界の若き覇者?
私は、素っ頓狂でした。
反省反省・・・。

「その中にね、レイズっていうテクニックみたいなものがあるのね。」
「レイズ?」
「例えば、自分のこの手は自信があるからBETを増やしたり、自信は無いから一気にBETを増やしてみんなをゲームから撤退してもらう時に使われるやつね。」
「うん?ちょっとワケが・・・。」
「だよねぇ。簡単に言えば、自分のBETを増やして揺さぶりをかけるって感じかな。」
「ああ・・・。なるほどね。」
分かる風の演技を続けます。
すぐバレましたが・・・。

「それと何の関係が?」
「そういう人ってお金を積むんだよね。」
「確かに。そうかも。」
「でしょ!あの人も食べ歩きしてるけど、高級店ばっか。」
「そうだったんだ。」
「そんで、おすすめして食通気取って常連ぶるのがイヤなのよ。」
「なるほど・・・。」

蓮菜さんは、本当にそのお店を愛してるんだ。
だから、こういうこと言えるんだなと思います。

「何ニヤケてんの?」
「べ、別に~。」
「ゆっちゃん!この~。」
「ちょ辞めてよ~。」

そして、蓮菜さんと友達になれてよかったなぁ。
そう思います。

つづく。

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