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Drive to the sea

車の窓から風船を飛ばしてみた。空に吸い込まれる前に、点になって消えてしまった。海に着いたとき、その風船が遠い空に見えるか確かめたい。車は僕の人格を増幅する。次々と現れる景色を目が全部食べてしまう前に、一つ一つ言葉にしてみる。何もなく、ひたすら真っ直ぐなアメリカ西部の砂漠を走っていても、あのサボテンの形が面白いとか、あの岩に力強さを感じるとか言ってしまうだろう。
海が待ち遠しい。きっと車はタイヤだけになっても海に向かって走り続ける。曇り空の奥で夕陽が揺れていて、恐らく足は山にかかっている。半分は暗くなっている。遠くで光が揺れている。波はすぐそばで繰り返している。
エメラルドグリーンの実山椒の雨が降ったら手のひらで受け止めて、箸で一つずつ摘んで食べよう。ビールを飲みながら。Matthew Halsall のWater Streetが流れるとき、ブルーシートは僕らを乗せたまま飛んでいってしまうかもしれない。そのとき、風船と再び手を繋げるだろう。そんなことはどうでもいいと、ビールは泡立ち続ける。波は繰り返し続ける。後ろでは、車が流れ続ける。僕とは無関係なことがあるなんて、なんて素敵なことだろう。湿気は世界の膜。その膜の中で無関係に関係している私たち。
ガソリンが虹になってしまって、帰れなくなってしまったとしても、もう構わない。砂浜にフラグを立てよう。ここが故郷だと。でも、誰かが僕を呼んでいる。雨が降ってきたから帰ろうと。僕たちは家に行こうと思う。でも、もうしばらくここにいたい。

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