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洋館の中で見つけた日記 105 【少し変な犬との思い出】

20☓☓年。
研究所にて自分らしさを忘れてしまうP-ウイルスが流出した。
瞬く間にウイルスは蔓延。
世界はポカンハザードに陥る。
ポカンから逃れるため古い洋館に駆け込んだ。
そこである日記を見つけた。

読んでいただき、ありがとうございます。
ポカンハザードの世界で日記を書いております。
励みになりますのでフォローしていただければ幸いです!!

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◆少し変な犬との思い出

私はぶんという犬を飼っていました。

ぶんは固有名詞ですが3匹います。

1匹目は祖母の家にいた熊のような犬です。

2匹目は私がお願いして飼うことになったミニチュアシュナウザーで、赤ちゃんの頃は真っ黒な毛並みでした。

1匹目のぶんのように大きく立派になるように名前を受け継ぎました。

3匹目は最後に祖母の家にきた犬です。

お嬢様のような性格の白いトイプードルなので、何も関連はないですがぶんになりました。

1匹目のぶんは外の檻の中で暮らしていました。

バーニーズマウンテンドッグと何かの雑種で、真っ黒の毛の大きな大きな犬です。

私が小学生のときに成犬で、見た目も力も熊のようでした。

ぶんは体が大きくなるにつれて力を持て余し、祖父の手を噛んで怪我をさせてしまったそうです。

他の人にも怪我をさせる恐れがあるため、檻の中で暮らすようになりました。

檻は5メートル四方ほどで高さは約2メートル以上、真ん中に小屋があります。

檻があるのはリビングの大きな窓に面したところで、みんなの中心。

檻の中で暮らすようになってから数年して大人の男3人で散歩に行きました。

しかし散歩紐を持った大人が振り回されてしまったそうです。

それが最後の散歩になりました。

定期検診やトリミングは麻酔をして、おとなしくなってから行います。

おやつは肉食動物が好むような鹿の肉や骨です。

私たち家族は毎年お盆やお正月に祖母の家を訪れました。

北海道の長い長い道をドライブ。疲れてたどり着きます。

迎えてくれたのはぶんの太い吠え声でした。

祖母の家でぶんと過ごすのは楽しかった。

リビングや檻越しにいくら眺めていても飽きません。

普段の食べ物は出汁の香りがするおじやのようなものを祖母がつくり、美味しそうに食べました。

お手伝いとして糞の片付けをしました。

1.5メートルほどの長さの特性のスコップを使い、檻の外から集めます。

撫でるときは鉄製の熊手を使いました。

檻越しに体を寄せてくるので、熊手で毛をほぐしたり、撫でたり、掻いたりして一緒にいました。

そうやって幼い私と遊んでくれました。

決して小さく弱い私をうるさがらず傷つけませんでした。

本当に優しい心を持ってたんだと思います。

2匹目のぶんは私にとって弟のような存在です。

彼を迎えたのは初代のぶんがいなくなってから。

私が中学生で、祖母のところに家出をして登校拒否だった頃です。

全てのものから逃げ出した私のもとに、手の平サイズの小さな小さなミニチュアシュナウザーがやってきました。

幼いときに団地の下の階にお利口な犬がいました。

おじいちゃんのような眉毛がチャームポイントのミニチュアシュナウザーでした。

いつも遊んでくれて楽しくさせてくれたので、いつか飼ってみたいと思っていました。

けれどもぶんはミニチュアシュナウザーらしくない犬でした。

最初に来たときは真っ黒の毛むくじゃら。イエティのような姿。

とにかくいろんな物を噛みました。

抱っこすると指を噛み続けます。

とはいえ全然痛くなく、くすぐったいくらいで面白かった。

ただし椅子の下の方はボロボロになりました。

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毎日小さなぶんの目線になって遊んでいました。

ぶんが一回り大きくなった頃、札幌の家に一緒に帰りました。

家族もぶんを可愛がりました。

大きくなると毛の色はグレーに変わりましたが、耳が立っていてうさぎみたいでした。

手足が長く、戦いごっこをして遊んでいたため筋骨隆々。

汗っかきだったので体の毛を短くしました。

そのため小さなドーベルマンのような姿でした。

ボール遊びをしようにも取り合いになり、いつもの戦いごっこになってしまいます。

負けたときは悔しそうに穴を掘りました。

戦いごっこは達人の域に達し、完璧な甘噛と空を切る猫パンチ、二足歩行を習得します。

そのため決して他者を傷つけないのですが、他の犬に急接近してしまい、よく怒られてしょんぼりしていました。

かくれんぼをするとくんくん鼻を鳴らすのになかなか見つけてくれません。

鼻が良いのか悪いのか分かりません。

公園でリードを離すとどんどん先に行ってしまい、不安になると全速力で戻ってきます。

冬の遊びは独特でした。

ふわふわの雪に顔をうずめることが好きで、くすぐったそうにくしゃみをします。

そして満足そうな顔をします。

晩冬になるとグラウンドは除雪機によって1メートルほどの雪の壁が何層もできます。

どんどん奥に行ってしまい、私から離れたことに気づくと、ハードルの選手のようにぴょんぴょん雪の壁を飛んで最短距離で戻ってきました。

ぶんには申し訳ないことをしました。

家に引きこもっていた私は発散できない力を、自分より弱いぶんに向けることがありました。

すごく怖かったことでしょう。

寝ているときにブルブル震えていることがありましたが、きっと私の恐ろしい夢を見ていたんだと思います。

それでも、ぶんはどんなときも私に寄り添ってくれました。

私は大学に進学しました。

大学は実家から通える距離でしたが家を出て一人で暮らします。

私は自分のことしか考えておらず、ぶんの世話を放棄してしまいました。

たまに実家に寄りますが、すぐにいなくなってしまうので、ぶんは混乱していたようです。

ほどなくして姉も家を出て、両親も離婚し、ぶんは母と二人暮らしになりました。

ぶんは歳をとっても、ちびっこや犬が大好きでいつまでも子供のように無邪気に生きましたが、私が社会人6年目に天国に行きました。

立派でかっこいい最後でした。

ぶんが来たのは私が登校拒否になり、何もかもから逃げ出したときです。

それからどんなときも支えてくれました。

楽しい思い出がいっぱいあります。

出会えたことに感謝してます。

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