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エッセイ:大ちゃんは○○である28

高橋一也は「はいっ!」と大きな声で返事をして前へ出た。
黒の皮ジャケットを羽織り、黒の皮パンツ。
全身が黒一色に包まれ、シルバーのアクセサリーをじゃらじゃらと身につけた小柄な男だった。
「では、自己紹介、自己PRからお願いします。」
「高橋一也、24歳です。自衛隊に所属していたこともあり、体力・気力だけは誰にも負けません。
反骨精神を持って、ロックに生き抜いてやろうと思ってます。
好きな映画はバックトゥザフューチャー。
特技はほふく前進。最近考えていることは
長い地球の歴史の中でたくさんの人々がゴミをポイ捨てしてきたと思うんですけど
今こうして僕たちはゴミにまみれることなく生きれていることから
僕たちがゴミをポイ捨てしたところで
未来の人たちは何も困んねぇんじゃないかなと思ってます。」
1人目からなかなかパンチの効いた奴が出てきたもんだ。
何を言ってるんだ、こいつは?という空気が蔓延していたと思う。
だが、自信満々に持論を語るもんだから納得はできないにしても、
伝えようとするパワーは伝わってきた。
いくつかの質疑応答が終わり
「では、詩の朗読をお願いします。」
と審査員が促すと
「では、いきます!」
と言って今度は腹筋をしながら詩の朗読を始めた。
『いやいや、変な奴すぎる。。』
高橋一也を見ながら思った素直に率直な僕の感想だった。
『変わってる。。こんな奴ばっかりなの?
東京には個性的な人たちが、わんさか集まってくると噂では聞いていたけど
変な奴すぎるでしょ。。1人目がこれって…』
肝心の朗読だが、腹筋というパフォーマンスをしながらの朗読だったということを差し引いても、
お世辞にも上手とは言い難かった。
まあ言ってしまえば、とてもとてもひどかった。
素人目線ながらで申し訳なかったが
センスのかけらも感じられなかった。
続く台本の読み合わせも、感情なんて何も感じられない。
書いてあるセリフを力強く大きな声で読んでいるだけといった印象だった。
「ありがとうございました!!」
本人はというと、『やりきってやったぜ』感満載の清々しい表情で会場を出ていった。
結論から言うとこの高橋一也は合格することになる。

つづく

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