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エッセイ:大ちゃんは○○である29

オーディションは順調に進んでいった。
「誰よりも大きな声が出せます。」と言って
いきなり大声を出す者。
自作の歌をアカペラで歌い出す者。
「特技は重いものを持ち上げることです。」と言って
「今僕はとても眠たいので重たい瞼を持ち上げます。」
と目をパッチリ開けて審査員を笑わせる者。
出てくるなりバク宙を披露しようとして失敗する者。
本当に様々な個性が暴れ回っていた。
詩の朗読や台本の読み合わせについては
「うまいなぁ!」と素直に感心させられる人あり、
「ちょっとヤバいでしょ。」と吹き出してしまいそうになる人ありと、
これまた本当に様々だった。
京都の大学で自主制作の映画サークルに入り、
3年間で色々な個性的な人との関わりも多かったと思っていたが
おそらくは全国各地から集まってきたのであろうライバル達に触れて
『世間は広いよなあ』と思いながら、進んでいくオーディションを見つめていたのを覚えている。
オーディションも中盤を過ぎたあたりだっただろうか。ついに僕の名前が呼ばれた。
「はいっ!」と返事をし、審査員の前に出る。
立ち上がった時に、足がもつれて転んだのはご愛嬌。
とうとう僕の出番だ。
心拍数が上がるのが分かり、心臓の鼓動が聞こえる。
「では、自己紹介と自己PRをお願いします。」
緊張の糸は保ちながらも、自分では落ち着いていたはずなのに、
いざ前に出てスタンバイをすると、急に審査員の顔が昔絵本で見た閻魔大王に見えてきた。
天国行きか地獄行きを決める審判を下さんと、
不適な笑みを浮かべている閻魔大王の顔に。
周りにいるライバル達は好奇の目で僕を見ているような気もしたし
睨み付けるような、刺すような目で僕を見ているような気もした。

つづく

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