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短編小説:男と女と香水と【最終回】

女の目には依然として溢れんばかりの涙が光っていた。
「いやいやいやいや。そんなことできるわけないでしょ。
分かるよね?えっ?分かるでしょ?」
男にはもはや女の言っていることが、
違う国の言語なんじゃないかと錯覚するぐらい理解ができなかった。
「でも、どうしても抱いてほしいんです。
それで全部忘れますから。」
「無理だって。そんなことできないって。
えっ?何で分かってくれないの?」
さすがにここまでくると、男には恐怖心なるものが押し寄せてきた。
この状況を切り抜ける為には、どんな言葉を女にかけてやるのが正解なのか?
むしろ正解があるのかさえ男には分からなくなっていた。
「お前バカかっ!
お前のことなんて何とも思ってないんだよ。
何とも思ってない女のことなんて抱けるわけないだろ。
何でそんなことも分かんねえんだよ!
帰れよっ!」
あえて強く言うことで、せめて自分のことを嫌いになってほしい。
そんな思いで男は邪険な態度をとることを選択した。
『あんな男。付き合えなくて、よかったわ。』と思える方が女にとっても諦めがつきやすいだろうし
気持ち的に引きずらなくて済むんじゃないかと思ったから。
しかし、男の言葉を聞いた女の行動は
男の意にこれでもかというくらいに反したものだった。
女はチラっと男の部屋にある棚に目をやったかと思うと
「あそこに並んでる香水で、谷口さんが今使ってる香水ってどれになるんですか?」
女は男の言葉が聞こえなかったんだろうか?
それとも聞かなかったんだろうか?
はたまた聞いた言葉をそのまま投げ捨てたんだろうか?
強い口調で言葉を発した自分が恥ずかしくなるほどに
女は淡々とした口調で男に尋ねてきた。
「い、一番右のCKだけど…いや、そんなこと今はさっ」
と男が言いかけた瞬間だった。
女はすっくと立ち上がったかと思うと棚に向かい、CKの香水の瓶を手にとった。
そして、男の方を向き不適な笑みを一つ浮かべると、
香水のキャップを開け、自らCKを頭から全身にかけて浴び始めたのだ。
「これなんですね!これが谷口さんの匂いなんですね!
全身に染み込ませておけば、いつでも谷口さんを近くに感じていられる。
これが!これが!谷口さんの!これがぁー!谷口さんの匂いぃー!」
開いた口が塞がらなかった。
目の前で、香水を全身にふりかける女に恐怖しか覚えなかった。
とうとう女は瓶に入っていた液体全てを自分の身体へと染み込ませた。
空になった、CKの瓶を見つめながら女は言った。
「あーあ、なくなっちゃった。」
そして女は、「ふふふ」と笑った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
この後の男と女については皆様のご想像にお任せいたします。
男と女には本当に様々な物語がありますね。
また短編を書きたいと思ってますので、
お楽しみにしていて下さいね(^-^)

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