見出し画像

エッセイ:大ちゃんは○○である43

全員の絶叫タイムが終わると、竹村はゆっくりと皆の顔を見回し言った。
「はい、OK。じゃあ、みんな座ろうか。」
決して威圧的なわけではなく、高圧的なわけでもない。
むしろ笑みを浮かべているその顔は柔和な印象を抱かせるものだったのだが
竹村には場の緊張感を保たせる空気感をしっかりと身にまとっていた。
長年この世界でこういう場面を繰り返し、
積み上げて塗り上げてきた『それ』がそう思わせるのだろうか?
僕だけではない。きっと他の皆も僕がビンビンに感じていた空気感を同じように感じとっていたはずだ。
それぞれがその場に腰を下ろすと、皆は竹村の言葉を待った。
「まず最初に聞くけど、今やってみて『あー、窓ガラス割れたなあ』って思った人いる?ちょっと手上げてみて。」
この質問の反応に一番驚いたのは僕かもしれなかった。
いや、あくまで『かもしれない』ではあるが、
ほとんど間を置かずに僕を含めた全員が真っ直ぐに手を上げたからだ。
この緊張感の中においてであっても、皆が皆自分のしたパフォーマンスに自信を持っている。
誰にも負けてないと思っている。自分が一番だと思っている。
竹村はどう思ったんだろう?
当然の反応だろうなと思ったのだろうか?
それとも意外だと思ったのだろうか?
その表情からはうかがい知ることはできなかったが
変わらず柔和な笑みを浮かべたまま、僕たちレッスン生の顔を一人一人見つめていた。
「なるほどね。なるほどなるほど。はい、分かった。手下ろしていいよ。
じゃあ、一つだけはっきり言っとくわ。
この中で窓ガラスを割れた奴なんて一人もいないからな。
窓ガラスが割れるぐらいの表現なんて誰もできてないから。勘違いするなよ。
これから半年間でお前らがどう成長していくのか?
どう脱落していくのか?楽しみだなあ。
じゃあ、次いってみようか。」

つづく


この記事が参加している募集

#習慣にしていること

131,143件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?