「この一点は大きいよ」の意味するところ

先日、ドイツ語の和訳問題をやってて

In der deutschen Geschichte gab es von Anfang an besonders viele Kriege. Der wichtigste Grund dafür liegt in unserer geographischen Situation.

という文の、Der wichtigste Grund を日本語にしようとして詰まった。以下は心内文

(「その最も重要な原因は」と訳してしまうとどうもぎこちない。「原因」が「重要」って、原因そのものが「大事」みたいなニュアンスになってしまう。「原因」って大事にするものじゃないだろ。むしろ追及したり発見したりするものだし、諸悪の根源的な感じだしな。じゃあ「その最も重大な原因」とするか。でも「最も重大」って語感としては変だ。意味が空回りしてる。「一番重大な」とかにすればいいのか…)


と完全に沼にはまったので、おとなしく解答を見た。

解答
ドイツ史は始まりから戦争がとりわけ数多かった。その最大の理由は我々が置かれている地理的状況にある。

なるほど、「最大の理由」か。しっくりくる。「重要」という言葉がないのに、その意味がちゃんと言葉に宿ってる。でもなぜ「最大の」という言葉で重要という意味合いが出せるのか。
考えていくと、文脈によっては「大きい」という言葉に「重要である」という意味があるなと気づいた。「この一点は大きい」とスポーツ中継とかで聞くたびに「まるで点数にサイズがあるみたいな言い方だな」と思ったことがあるが、これはつまり「この一点が勝敗を左右するくらい重要なもの」という意味だったわけだ。

気になったので手持ちの辞書で「大きい」にこの意味がないか調べてみた。

⑦重大である。重要である。「世間を驚かした━・い事件」「この契約の成功は会社にとって━・かった」

大辞林

㊂事柄の重要さや他への影響などが一般に予測される程度を超えていて、無視できない様子だ。
「△不安(ショック・得るところ)が大きい」
「△影響(責任・波紋)が大きい」
「大きい問題を抱えて苦慮する」
「有望な新人を獲得したことはチームの将来にとって大きい」
「語学力の有無が大きく物を言う」
「頭から大きく〔=居丈高な態度に〕出る」
「態度が大きい〔=→態度㊀〕」

新明解国語辞典

価値がある。重大である。
*応永本論語抄(1420)学而
「そっとしたる事にも大きい事にも礼ばかりを用て、和を不㆑用、事が不㆑成也」

精製版日本国語大辞典

❺(数量を感覚的にとらえて)その程度・可能性・傾向などがはなはだしいさま。特に、問題が軽視できないさま。
「苦労が大きければ成功の喜びも大きい」
「山好きになったのは兄の影響が大きい(=強い)」
「この病気は再発する可能性が大きい(=高い)」
「放置すると騒ぎが大きくなる」

明鏡国語辞典

重要である。価値がある。「―・い事件」 「あそこで点をとっておいたのが―・い」

大辞泉

引き比べてみると、「大辞泉」や「大辞林」のように「重要である」「価値がある」という意味で載せているものもあれば、「明鏡」や「新明解」のように「程度がはなはだしくて無視できない」という影響力の大きさという尺度で意味を規定しているものもあった。この意味での「大きい」をどこに分類するかは辞書によっても異なるが、「明鏡」や「新明解」の語釈は「この一点は大きい」には当てはまらないと考える人もいるかもしれない。

完全にドイツ語の勉強を放り出してしまったが、やはり辞書の横断はためになる。

ちなみにドイツ語の問題の元ネタはこちら。


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