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『ルース・エドガー』 

原題「Luce」

◆あらすじ◆
バージニア州アーリントンで白人の養父母と暮らす黒人の少年ルース。アフリカの戦火の国で生まれた過酷なハンデを克服した彼は、文武両道に秀で、様々なルーツを持つ生徒たちの誰からも慕われている。模範的な若者として称賛されるルースだったが、ある課題のレポートをきっかけに、同じアフリカ系の女性教師ウィルソンと対立するように。ルースが危険な思想に染まっているのではというウィルソンの疑惑は、ルースの養父母にも疑念を生じさせていく。


アメリカが抱える人種差別問題を数多ある過去作とはちょっと違った切り口で描く秀作。

同じ黒人と言う立場でも【教師と生徒】【女性と男性】など、置かれた立場に因っての相違、或いは【養子、移民】と言う視点から生まれる【マイノリティの生き方】をサスペンスチックに描く手法が見事だ。

主人公はアフリカの紛争地から養子として白人夫婦に育てられた優秀な高校生。
彼が育ての親の期待に添うように十二分な努力をして来たのは間違いない。
が、その期待はもしかしたら自分が自ら作り出してしまった物かもしれないと言うニュアンスも含みつつ物語は進む。

片や同じアフリカンアメリカンの教師ハリエットはアメリカの差別の現実を踏まえ優秀なルースを差別の渦に巻き込まれないように計らおうとする。

この物語の真意は『人は自分の置かれた状況下での判断を優先する』と言う事。

ひとつ興味深かったのは義父と義母の意見の相違だ。
父は【真実】を見ようとし母は【息子の保身】を考える。
個人的には父親寄りなので『誤魔化しは無しだろ!』ってなったわ。
その母親の嘘がずっと引っかかったな。

ルースにとっては紛争只中の子供でさえ銃を持つ様な出生国よりもアメリカの方が遥かに安全と感じたかもしれない。
そして優秀な自分には苦難はあまり降りかからない。
(これスパイク・リーの出世作『Do the right thing』って作品に「プリンスは黒人じゃ無い、有名人だ」みたいなイタリア系のおっさんの台詞があるんだけどその心理って全く理解出来ない。でも才能や優秀さは肌の色を超えるって事なのかね。元々肌の色なんてどーでもイイ事なのにね。)

しかし教師にしてみれば優秀な生徒を少しでも危険から遠ざけておきたい心理が働く。危険の芽は早く摘んでおいたほうが良いのだ。(教師の立場と言う保身も含めて)

その想いの行き違いから起こるこの結末は『どう弱者が作られて行くか?』『差別以外の恐怖』も鮮明に描いてる。

SNSのデマ動画や心理の誘導。
そんな、身近に在る怖さがこの作品の主題なのかもしれない。



現アメリカで起きている事象に対してあまりにもタイムリーな作品。

パーソナルな問題がやがて大きな問題に繋がっていくその脚本力にただただ唸るばかりだった。

2020/06/06

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