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『パブリック 図書館の奇跡』

原題「THE PUBLIC」

◆あらすじ◆
オハイオ州シンシナティの公共図書館では、実直な図書館員のスチュアートが毎日さまざまな目的で同館を利用する市民のために働いていた。そんなある日、およそ70人のホームレスが閉館時間になっても帰らず、図書館を占拠する騒動が発生する。シンシナティに寒波が襲来し、市のシェルターも満杯のため他に行き場がないというのだった。外には彼らを排除しようとする警察ばかりかマスコミも集まり、いつしか事態はスチュアートの予想を超えて大きくなっていくのだったが…。




内容は、大寒波で凍死するホームレスが後を絶たない背景から行政や国に抗議を齎すと言う重そうな背景なのだがエミリオ・エステヴェス監督が打ち出したのはコメディとも言えるハートウォームな演出だった。
その効果もありアメリカに於ける民主主義や報道態勢に対する市民の怒りや抗議がとても解り易く描かれてる。

それでも直ぐに引き込まれる登場人物達の描き方が良い。

アメリカが抱えるベトナム退役軍人問題の大きさが今作では頻繁にキーワードとして登場する。彼等は戦争後遺症により職に就けずホームレスになるケースが少なくない。
だからホームレス描写としてその【精神疾患】と言う部分での描きはやや甘い感はあるもののビッグ・ジョージと言う「目からレーザーが出てる」と信じ込むキャラクターを登場させる事でその役割を集約させてるのだろう。

細かい描写がなかなか楽しくて冒頭の図書館員と来館者の会話や突然全裸の男が現れたり(後に伏線として回収)、ホームレス達の食事としてピザが配達されるがここでも伏線回収があるし、彼等が配給されるピザを規則正しく列を作って彼等の中にちゃんと【秩序】が出来上がっていると言う姿にまるで秩序の無い権力者や報道機関との対比が上手いと思った。

もう一つ印象的な台詞がある。
図書館長の「公共図書館は民主主義最後の砦だ!チンピラどもの戦場にされてたまるかっ!」と言う言葉。
勿論チンピラとは権力者に他ならないのだがこの権力者と図書館との関わり合いがこのストーリーの本筋に影響するのがまた伏線として複雑さを加味しててオモシロイ。

で、権力者側を演じるのが久しぶりにお目にかかったクリスチャン・スレイターで市長選を控え政治的なイメージアップをもくろむ検察官だ。
まぁこれがね徹底的に弱者を排除する体で嫌味で無能感見え見えなの。
でも、図書館司書たちは本の虫で凄くクレバーさを保ってる。
その無能とクレバーさの対決も見もの。

    ↓↓↓検察官と館長

ただ、その中間に位置する警察の交渉人をアレック・ボールドウィンが演じてるんだが、彼が抱える息子との確執問題がこれまた良い伏線になってるんだよね。
ここにも家族と言う単位の問題性が描かれてる。

ニュースでこの事件(に奇しくも発展してしまったのだが)を知った市井の人々の協力的姿勢もグッとくるシーンだ。

結局、事件に仕立て上げられた以上"逮捕は必至"と腹を括る中、権力に屈せず彼等はどうこの難局を乗り越えるのか?

最終的にホームレス達とエステヴェス演じるグッドソンが見出した脱出方法に観客は度肝を抜かれるし成程と頷いてしまうんだよね。

物語は至極単純。
大国が抱える様々な問題を重過ぎる事無く提議する意味でも主演、監督のエミリオ・エステベスの手腕は見事。泣き笑いしながら政治や行政の在り方を考えさせられる一作。

公共施設をどう考えるか?と言う問題提起。
冒頭、グッドソンとセキュリティのエルネストが「臭いの苦情で図書館からホームレスを追い出した」と言う訴えとシェルターや施設を増やさず凍死に怯えるホームレスを館内から排除する行政の考えと言う矛盾が見えるところにこのプロットの本質があるんだね。


影で活躍する女性達含め、とにかく役者が皆んなイイ!

ただ、ひとつ難を言えばこの邦題にはチョイと違和感あるな。
【奇跡】は起こってないと思うよ。
沈黙していた一市民の彼等が声を上げたと言う【軌跡】が作られたって事だよ。


2020/07/21


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