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『パラレル・マザーズ』

原題「西MADRES PARALELAS/
       英PARALLEL MOTHERS」

◆あらすじ◆
フォトグラファーのジャニスは考古学者のアルトゥロと出会い、彼にスペイン内戦で亡くなった親族の遺骨発掘について相談し、これをきっかけに2人は深い仲となっていく。やがて既婚者であるアルトゥロの子を妊娠したジャニスは、シングルマザーとなることを決意する。出産を控え入院した病院で、ジャニスは17歳の妊婦アナと出会い、彼女もひとりで出産すると知り仲良くなっていく。やがて2人は同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。その後ジャニスは娘と対面したアルトゥロから"自分の子とは思えない"とDNA検査を要求され腹を立てる。しかし気になって検査したところ、実の子ではないという衝撃の結果を突き付けられてしまうジャニスだったが…。


性の多様と自由な愛の形。


この作品は一見、監督の【御都合主義的】に見えてしまうかもしれない。
それくらいアクシデントの重なり方が日常では無い。

しかし、人の営みの中で突然訪れる予期せぬ事は絶対無いとは言い切れないのだ。


人々に遺したスペイン内戦の傷跡と言う伏線の要・不要論議はありそうだが女性(母)を描き続けて来たアルモドバル監督の拘り且つ夫や息子を戦争に奪われた女性達の悲しみを、今作で主線となる2人のシングルマザーの複雑な感情と重ねる事に私はそれ程違和感は感じなかった。

同日に出産した40歳と17歳の2人の女性の対比や関係性、視野の狭い若い母親への年長者としての教示も伏線に繋がる。


人々が忘れてはならない事を年長者は伝え続ける義務があるのだ。

その歳上の母役ジャニスをペネロペ・クルスが好演。

彼女が娘とのDNA鑑定の結果を知った時の動揺や迷い、娘への変わらぬ愛情、実の母の追求の是非などなど…複雑さに澱む心情が痛い程に感じられて見事だった。

個人的には過去1番好きなペネロペかもしれないな。

ミレナ・スミット演じる17歳と言う若さで不本意に身籠もり、戸惑いながらも出産し、子育ての決意をするアナ。けれども両親はそんな彼女を巡り言い争いばかり。そんなアナを更なる悲劇が襲う。アナは自分の人生をどんな風に感じて居たんだろ。救済も無く1人取り残された様に感じたはず。

親の元を離れて暮らす様になったアナと思わぬ所で再会するジャニス。

運命の様に引き寄せられ、お互いを思い合う二人に性別や愛情を超えた繋がり、言ってみれば"ソウルメイト"の様なものが表現されてる。


赤ん坊の取り違えはかつて時々耳にしたがシステム化が進んだ現代では殆ど聞かなくなった。
だがこの物語はその時点が"彼女達のさだめ"だったのだろう。
その上"取り違え"と言うテーマの描き方も実にアルモドバルらしい一筋縄では行かない展開が待っていた。


そしてアルモドバル作品の楽しみの一つ【拘り抜いた美術】はやはり健在。
家屋、部屋の内装、小物の一つ一つも見逃したくないと思ってしまう。


アルモドバル節と彼の美学、やはり自分には心地良いわ。

2022/11/05


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