見出し画像

「ダイバーシティ経営に邁進する岐阜の町工場経営者」前編 早川工業株式会社 代表取締役 大野雅孝さん

●ご挨拶と出演者紹介

画像2

三木:マインドフルビジネスストーリー第190回、本日は早川工業さんにお邪魔しました。早川工業さんは今ダイバーシティということでかなり日本中の製造中小企業から注目されている企業ということで、この部屋にも色々なアート作品もありますし、これから日本が最も求められている多様な人々の多様な価値観で働いて日本を作っていくということを体現されている会社として色々とお話を伺っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

社長室のアート掲示

大野:よろしくお願いします。


●enmonoと株式会社フジタの梶川社長との出会いについて

三木:我々が出会ったきっかけから伺いたいんですけど、たまたま知り合いの株式会社フジタの梶川社長が大野社長と親しくて、梶川さんが我々のzenschoolを卒業されてというところからつながったという記憶なんですけど、そうでしたか?

大野:そうですね。それ以前は中国工場もあって私は中国を行ったり来たりを7~8年やってました。年の半分以上は中国に行ってて、2016年の6月に後をやってくれる人が見つかってもう中国は行かないって決めた月なんですね。その月に機械技術要素展で梶川社長にお会いして、たまたま私はガイアの夜明けを見てたんですね。

(アルミ削り出しの)欄間が飾ってあったので「この欄間見たことある」って言ったら、梶川社長が出てきてお話をさせていただいたのが印象としてすごく覚えています。その後社員8人ぐらい連れて工場見学に行ったんです。その時の帰り際に「いや、実はミュージアムを作るのよ」って言われてチラシを渡してもらって、「美術館!?」みたいなところに私がちょっと興味があって。

三木:この後ろに飾ってる絵とかありますけども、アートに造詣が深いんですね。

大野:そうです。好きなんです。町工場でそういうことをやられてる人がいるんだっていうことが衝撃的だったっていうことがあって。

三木:若い頃にニューヨークに1年ぐらいいらっしゃったんでしたっけ?

大野:2年ぐらいいましたね。

三木:それは何かお仕事で?

大野:一応英語の学習という形で行ってましたけど、実態はブラブラしてましたね。

三木:それでアートと出会って?

大野:そうですね。よく行ってましたね。ソーホーとかその頃だとギャラリーもいっぱいあったので。路上にアーティストがいたりしましたしね。

三木:好きなアーティストは?

大野:別にないんですけど、ポップアートは好きですね。

三木:色々ここにも壁に飾ってありますけど。こちらは何ですか?

画像3

大野:これはMoMAでしたっけ。近代美術館に行った時にこれだけ買って、「何でこれを買って帰って来た?」って家族にすごく言われた。

三木:左のは?

大野:これは福祉作業所の物だったり、お友達の井上愛さんがやっているイベントでもらったり買ったりした物です。


●ダイバーシティ経営のきっかけについて

画像4

三木:今早川工業さんはダイバーシティということで非常に注目をされているんですけど、きっかけはどういうところから?

大野:きっかけとしては、今から思うとアメリカに行ってた時にマイノリティ側に回ったという経験はあるんですね。黄色人種だっていう意識はすごい持たされました。

三木:何年ぐらいですか?

大野:90年ぐらいで。黒人の差別とか当然ないですけど、自分が黄色人種だっていうことはすごく感じながら生きてたっていう。

三木:目に見えるような差別みたいなものがあったんですか?

大野:目には見えにくいですけど、白人の町には住みにくい…

三木:感じるところがあるんですね。

大野:住みやすいところってやっぱりあるんですよね。そういうのもあったり、LGBTと呼ばれる方、今はその用語を知ってますけど、ゲイぐらいは知ってましたけど。

三木:私も95年ぐらいにニューヨークに行ってて、僕の大学の先生がゲイなんですよ。そのゲイのコミュニティとか色んなアーティストとか多種多様な人達がいて、「あ、そんな世界があるんだ」みたいな。

大野:そうですね。普通にいらっしゃったっていう事実はあって、二十歳ぐらいだったんですけど、パーティとか行くと色んな肌の色の人がいて、ゲイの人もいたり、レズビアンの人、バイセクシャルの人には会ったんだと思います。トランスジェンダーの方の観念はまだ日本にもないんじゃない。僕も知らなかったんですけど。

三木:25年前にニューヨークでは普通な感じなのがようやく今日本に来たみたいな感じ?

大野:混ぜこぜでパーティをやったりとかしてたので、「ああ、こういうもんなんだ」っていうのはありましたね。一緒にシェアハウスに住んでる人がゲイだったりもしましたし。

三木:エリート層の方が多いんですよね。会計士とか弁護士とかアーティストとか。アーティスティックなセンスがあって。そういう世界は何となく分かります。それが何か印象にあって…

大野:今から思うとそういうこともたぶん影響してるのかなと思ったりはしてますね。あとは私が障がい者の父になったということが大きなきっかけだったと思います。

三木:何年ぐらいに戻って来たんですか?

大野:92年。

三木:日本に戻って来られてこちらのほうに就職みたいな形?

大野:そうですね。そういうことになっちゃいました。

三木:社長を継がれたのは?

大野:10年ぐらい前なので2009年。

三木:それまで20年近くずっと社員というか…

大野:そうですね。

三木:その時から自分が社長になったらそういう会社にするみたいなのはあったんですか?

大野:そもそも社長になる気はなかったんです。

三木:なる気はなかったんだけど、色々事情があってなることになったんですか?

大野:諸々の事情がありましてなることになったんですけど。(ダイバーシティ経営の会社に)しようと最初は思ってなかったですね。障がい者の親みたいな立場はプライベートなので家庭のことですし、それと経営とはごっちゃにしちゃいかんだろうというのは思ってましたし、ここは早川工業で親戚の会社なのであんまりそういう家庭的なことを持ち込んじゃいけないっていうのは勝手に思ってました。

三木:それが社長になって何年ぐらいまでそう思ってたんですか?

大野:つい最近まで(笑)。三木さんや宇都宮さんに会うまではずっと思ってまして。

早川工業という在り方

三木:『早川工業という在り方』という会社案内なんですけど、この中の1ページ目を見ると“こうあるべきという呪縛”というのがあって、結構衝撃的な会社案内かなと思って。これはどういうことなんですか?

こうあるべきという呪縛(H1200)

大野:自分の性分もあると思うんですけど、社長ってこうだろうっていう見本みたいな方が多いですし、そういうところに相談に行ったりすると。

三木:そういう社長さんがいらっしゃるんですか?

大野:はい。親父(先々代社長)の友達の方とかに相談に行くと叱咤激励をしていただけるんですね。当時はそれは奮い立つし、よっしゃっていう気持ちに思ってやるんですけど、そう長いこと続かないっていうね。

三木:自分の本質じゃないところを一生懸命やるみたいな感じなんですか?

大野:ただ会社も結構危機的な状況もあったので、決断力を早く精神力は強くみたいなところに向かわなきゃいけないっていう自分の中で闘いみたいなものは起こしながらやってたっていうのはありますね。そうでなきゃ会社は成り立たないしっていうのはありましたね。

PR


●zenschool受講とその後の変化

三木:zenschoolに入ってこられた時はどういう想いで?

大野:何かもやもやはしてたと思うんですけど、そこを梶川社長に感づいていただいて(zenschoolに)伺ったんですけど、もう最終日に近いところまでは自分の本質というか自分の中に向き合うっていうことが結構苦手で。

三木:つらそうでしたよね。

宇都宮:最初のワクワクトレジャーハンティングチャートの瞑想ワークの後に白紙…

大野:白紙(笑)。白紙だったんですね。

三木:初日の写真で自己紹介をしている写真があって、顔の特に首の回りがすごい張ってるんですよ。何か緊張してる感じ。それが発表の当日はすごいリラックスして本来の自分に戻って。

大野さんの表情の変化

大野:そうですね。逆にzenschoolに来たからには何かを出さなきゃいけないっていうのがあったと思うんですよ。結局それもどんだけ絞り出そうと出ないしみたいな話でフリーになったところに「そうじゃないですか?」って宇都宮さんに突っ込まれてね。「そうなんだ」みたいなところはありましたね。

三木:発表会で出されたコンセプトってどういうものだったんですか?

大野:発表会で出させていただいたのは私が持ってる親としての本質というか自分なりに向き合ってきた20年とかあったのでその部分と、今のガチガチにこうでなきゃいけないを外して一緒にしていこうと。

三木:統合していくみたいな。

画像8

大野:zenschoolのプロジェクトとしては障がい者の方のアートが好きだったのでそれを工業製品と一緒にしたいなっていうプロジェクトで、結局工業製品になることはなかったんですけど、そのためにアートを探して色んな福祉施設を回ったっていう時期があったんですね。そこの場所場所でご本人達や色んな人達に会ったんですね。自由にモノづくりをしているとか好きなことをただやるみたいなことが創造的だったりとか、色んなものに出会ったんですね。その施設長の考え方であるとか数行っただけお会いしてそのお考えも入ってきて、「ああ、これでいいんだ」みたいな感じになっていった。

三木:それで今のダイバーシティ経営のほうに変わっていったという?

大野:そういう考え方を町工場に入れたらどうなるんだろうっていう実験をすごくしたくなったんですね。

三木:すごい変容ですね。

大野:答えが見えないですからね。息子は今のままでいいわって思えたりとか、自分がすごい救われたっていうのがあって、どうしたらこういう空気感ができるんだろうっていうのをすごく感じたんですね。

三木:今ちょうどこちらにも良い感じのテイストの書が書かれてますけど、“おれもあんたも弱い。”これはどちらの?

おれもあんたも弱い

大野:こちらは京都のスウィングさんっていうところの方が書かれたものです。

三木:そこの利用者の方が書かれた?

大野:そうですね。ファンキーなアートで私は大好きなんです。

三木:誰の心にも刺さる感じですね。

大野:はい。ここの理事長さんが「弱さは強さとほぼ同義語である」っていうことを言っておられて、それにすごく感銘を受けて。

三木:そういう障がい者の方から学ぶことも多いんですかね?

大野:そうですね。学ぶというとかっこよすぎますけど、僕らのようにすごく迷いながら生きてないっていうのが自分の子供なんかを見ると、自分の本質に従って生きてるというか…

三木:その瞬間に生きてるっていう…

大野:その瞬間、瞬間に生きてる。社会的立場だとそうはいかないかもしれないですけど、したいことはするし、したくないことはしないみたいなある意味自立しているというか…

三木:すごいマインドフルなんですね。

大野:そうですね。人に影響を受けないというか、そういう見方で見るとなるほどと思ったりもします。


●ダイバーシティ経営と障がい者雇用について

画像10

三木:実際に障害がある方を会社として受け入れ始めたのはzenschoolに来る前からされていたと?

大野:そうですね。お一人はご紹介でzenschoolに行かせてもらった時にはもうすでに入っておられて、でもそのお一人以上っていうところには自分も踏ん切りがつかないでおりました。

三木:今は社員数は何名?

大野:25名中5名ですから20%ですね。何らかの手帳的なものを持った人ですよ。

三木:手帳があるっていうことは障害があると認定されてる?

大野:そうですね。

三木:タイプとしてはどういう方達が?

大野:知的障害の方が2名。お一人はすごく発信する口数が多い方。もう1人はずっと黙ってる方。あとは身体障害の方と発達障害の方と難病の人です。

三木:どういうステップで採用していったというか、1人入れてまた様子を見てみたいな…

大野:お二人は一遍に入れましたし、難病の人に関しては中国で出会った友達なんですよ。

三木:そうなんですか?

大野:海外組といってずっと若い頃から海外にいる人で中国語も堪能で、たまたま金属加工で金型をずっとやってて難病になっちゃって。それこそさっき任せる人ができたっていうのはその人なんです。難病なのに海外担当でいるという。

三木:会社のほうに受け入れる下地を作るっていう作業もされたんですか?

大野:実はそんなにしていません。

三木:してない?一応説明みたいなのは社内のほうにはしている?

大野:多少はしますし、最初のお一方に関してはもう何年もいらっしゃったというのもあるし、基本的に合理的配慮って言われますけど、あんまり受け入れる体制とか勉強とか今は基本的にしてないですね。共にいるっていうことを大事にしていて。

三木:それでも問題とか…

大野:出ます、出ます。

三木:ありますよね。それは社長が全部ケアしていくっていうか…

大野:施設の方も巡回で入ってくれてますし、社員の方のケアも含めて外の施設の方も話を聞いてくれたりしてます。あとはここ(社長室)で話をしたりもします。

三木:結構頻繁に相談が来る感じですか?社長室に。

大野:発信型の子は私がいれば毎日来ます。ルーティンになってるので。

三木:ここでずっとお話を聞いて会話するみたいな?

大野:そうですね。話を聞くだけですね。彼に提案もたまにはしますけど、基本的に聞くだけですね。「あれしなさい」「これしなさい」は余計混乱するので、それはもう現場で指示されているので、作業しなきゃいけないですから。私は困ったことを聞いて「ああ、そうですか」って。

三木:そういう色んな方を受け入れるようになって会社が全体的に変わってきたみたいなのはありますか?

大野:全体的にもそうですし、今の発信型の子は結構同じことを何度も言ったりきついことも言ったりするんですけど、何やかんや現場の方も「もうかなわない」とか「腹立つわ~」とか言いながらいないとはしないですね、彼を。ないという前提で話をしないのはすごい成果だと思ってますし、ケアする人もいるし、そうでない人もいるし、全員が全員ケアする人じゃなくてもいいですし、好きでもいいし嫌いでもいいし、それが結局一緒にいるっていうことなのでそういう形にしていくというのが大事だと思ってて、「そんなことをやってますよ」みたいな感じで採用活動をしたら若い大卒の女の子が2人入ってくれたっていう事実があって。

三木:それが今中国を担当されてる方?

大野:そうですね。あとは現場にも1人。

三木:なかなか募集しても来ない中小企業が多い中でそういうのは貴重ですよね。

大野:その子達を見ながらまた新しい子が入ってくるっていう。小さい会社なのでそんなに採用活動をしてないんですけど、この1年半ぐらいの間に若い子達がグーンと入ってくれました。

三木:何か採用の広告を出したりしてるのですか?

大野:体験型の中途採用であるとか、あとは学生と企業をつなぐNPO法人とかあってそういう人達にお世話になりながらやっていったんです。最初のお二人に関してはじっくり1年ぐらい私が発表して興味があるシナリオを持って来てみたいな、何ヶ月に1回ずつお会いしてみたいなことをやってお二人入ってくれた感じです。


●社員にzenschoolでのワークをやってみた

社員さんへワクワクトレジャーハンティングチャート

三木:最初のお二人の方達にはzenschoolでやっているワクワクトレジャーハンティングチャートみたいなのをやっていただいたらしいですけど、どうでした?

大野:2日間缶詰でやったんですけど、1日目終わった時に「もやもやする~~」っていうのを言ってましたよ。

三木:それで彼女達の中から何か出てきたんですか?

大野:どれぐらいかは実証は分からないですけど、何かは私も得た気はしましたし、彼女らもあったみたいですね。

三木:なぜそういうことをやってみようと思ったんですか?

大野:自分がやって楽しかったから(笑)。すみません。まねごとをさせていただいて。

三木:いえいえ。すごくうれしかったです。

大野:合計6人ぐらいはやったんじゃないですかね。その子達もやったし、その次の子達もやった。

画像14

三木:それは瞑想もやって?

大野:いつものやつです。

三木:素晴らしい。もうマスターですね。zenschoolマスター。

大野:それは違うかもしれないけど。一番最初は1対1で次の課長になってほしい子とじっくり対話をしたんです。「どういう課にしていきたいですか?」みたいな話をした時に「僕はこういうのにしたいんです」っていうことを言われたので、すぐは動きませんでしたけど、何年もかけて彼はそういう状態にしていってくれたので、今は彼のなりたい姿を応援している感じ。その人に一番最初にやって、次新卒の人には本当にホワイトボードを置いてああいうスタイルでやってみて、その次の方もやったんですね。

三木:じゃあ代々新入社員の方はそれをやるみたいな?

大野:なるんですかね。自分が結構楽しかったんですけど。

三木:それぞれのやりたいことが何となく見えてくる?そのワークの中で。

大野:やりたいことというよりも自分の本質的なことまでですね。製品とかじゃなくて、「こういうことが好きな人だよね」みたいな。

画像13

三木:そのワークをやった新入社員の方がその後どういう風に変化していったんですか?

大野:新入社員だから誰も分からないんですけど、今アクセサリーブランドとかできてるんですけど、そこの中心人物になっていったりとかしてますし、元々いる男性社員もクリエイティビティの高い子だったんですけど、お一人だったのであまりうまくやり切れなかったんですけど、彼女が入ったことによって仲間ができてドーンみたいな感じで。

三木:アクセサリーブランドとあと音楽部があるんでしたっけ?

大野:音楽部は1人だけど(笑)。あとアウトドアグッズを作るやつとか。

【早川工業】mid night factory


焚き火台「kagebi」

「焚き火台 kagebi」

三木:そういうプロジェクトがいくつか出てくるようになって、それは大野さん自身が変わっていったからそうなっていったっていうことですか?

大野:自分ではあまり意識はしてないんですけど、「そうじゃないですか?」って言う社員さんはいますね。

三木:zenschool前の大野さんじゃなくてzenschool後の大野さんが変わったから?

大野:それは言われました。実際に私の発表を見に来た社員が何人かいたんですけど、「明らかに前と後で違う」って言ってます。私は本人だからあまり分からないんですけど。


後編に続く


対談動画


大野雅孝さん

:⇒https://www.facebook.com/masataka.ohno.58



会社WEBサイト


■「enmono CHANNEL」チャンネル登録ねがいます。

■MC三木の「レジェンド三木」チャンネルもよろしく

■MMSアーカイブページ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?