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文学フリマ ブース装飾のススメ

文学フリマ東京に10年以上参加してきた筆者による、文学フリマにおける「ブース装飾」のノウハウをお伝えします!


ブース装飾の重要性

文学フリマで本を買ってくれる人には3タイプある。もちろん、固定ファンだったり、常連のお客さんがいれば別だが、それにしたって初見のお客さんが大半を占めている。筆者は「どこでこの本を知ったのか」について買ってくださった方に口頭で訊くことが多い。その結果、大体3つのタイプがあると認識している。

① 見本誌コーナーで見かけた人

このタイプの方々はスタッと迷いなくブースにやって来て、これください!と即買いしてくださる神様だ。この層にとって、ブース装飾は正直あまり関係ない。せいぜい、配置番号が見やすければ探しやすいよね、くらいのものだ。

② Twitter(現X)などのSNSで気になってくれた人

このタイプの方々も、割と迷いなくブースにやってきて、一応確認のためにパラリと現物を手に取ったのち、パッと買って下さる神様だ。SNS宣伝は結構効果的なので力を入れた方がいいが、ブース装飾はあまり関係ない。

③会場をぶらついていて気になってくれた人

このタイプの方々は、ブースの前を通りがかり、ちょっと足を止めて遠くからしげしげとブースを眺め、「よろしければお手にとってご覧ください」と言われて試し読みし、吟味の上買って下さる神様だ。この層にはブース装飾が刺さる。つまり、この層へのアプローチとしての装飾を意識する必要があるということだ。

ここで、会場をぶらついているお客さんに、我々としては「してほしいこと」が2つある。それは
目を引いて立ち止ってもらう
購入を決心してもらう
ことだ。

この2つは似ているようで全然違う。目を引いて立ち止ってもらうことは、野球で言えば「打席数を増やす」ことを意味する。とにかくまずは遠距離から目につくこと。その中に潜在的なお客さんもいれば、not for meであっけなく立ち去る方もいるだろう。しかし、まずは立ち止ってもらわなければ、せっかくの素晴らしい頒布物を読んでもらうこともできないのである。

一方で、購入を決心してもらうことは、例えるならば「打率を上げる」ということだ。ブースに立ち寄った人に、購入の決め手を与える。近距離で、頒布物の魅力を後押しする装飾。筆者もココにあまり力を入れられていなかったが、ここ最近で手ごたえのある装飾方法を確立してきたため、紹介したい。

【打席数を増やす】装飾

多くの人に立ち止ってもらえる装飾とは、端的に言うと「サークルや頒布物の方向性や特徴を大きく・見やすくした装飾」だ。文学フリマではホラー・推理・百合などのおおまかなジャンルは固まって配置されている。そのためジャンルは大体わかるのだが、その中で埋もれないための独自性を大きく打ち出していく必要がある。

①敷布

コミグラさんに発注した敷布。デカい。

文学フリマの1ブースは長机の半分で、幅90cm×奥行き45cm×高さ70cmだ。(一部奥行きが60cmになったりする)これはコミケやコミティアも全く同じサイズである。机の物を載せる天板部分はデザインしても本で隠れてしまう。しかし、机の足元部分、つまりお客さんから見てブースの真正面には、幅90cm×高さ70cmの巨大広告が出せるのだ。ここに、「ウチはこんなサークルですよ!」とアピールすることが重要である。……そこで、オリジナル敷布の出番だ。

筆者のブースの敷布は、合同誌がデカいということもあり2ブースを使うことを想定しており、幅180cm×奥行き45cm×高さ70cmで発注している。ただし、1ブースで出店することも考えて、半分に折れば「クソデカ感情百合」の文字までは入るようにデザインしてある。

合同誌など、何回かイベントに出店して売り切っちゃいたい場合には本の表紙を前面に出しても良い。ただ、長く使っていきたい場合には、サークルの名前やロゴ、コンセプトなどを大きく印字すると使いまわせる。例えばお知り合いの津森七様のブースは前面に「少年に、狂う。」と大きく掲示されており、その宣伝効果は抜群だ。どんなサークルで、どんな本が置いてあるのか気になって仕方なくなり、つい足を止めてしまうだろう。筆者のブースも「クソデカ感情百合小説アンソロジー」とデカデカと書いてある。

例えばコミグラさんの場合、長机半分サイズ(「1スペース」)で5110円、長机全部(「2スペース」)で7950円でオリジナル敷布が作れる。入稿もイラストレーターやフォトショなどは必要なく、pngなどの画像さえ用意できればOKとなった。

しかし、筆者も文学フリマに出店して4年ほどは敷布を発注するお金もなく簡素な布を使っていた。初参加で敷布を発注します!というのも勇気がいるだろう。しかし、お金がなければ紙でも十分。コンビニでA3サイズに印刷すると、縦長に置いて横に3枚、縦に2枚つなげれば机の前面が埋まる。養生テープなどで机の端に10cmほどのりしろを用意して貼り付ければ即席敷布の完成だ。これなら100円×6枚で600円で済む。使い捨てで持ち運びも気が楽だ。

②タペストリー/ポスター

人の頭より高い位置のタペストリーはやはり目立つ。

会場で遠くからでもアピールできるのは、人の頭よりも高く掲げられたタペストリーないしポスターだけだろう。紙で作る場合はA3サイズ4枚でA1の大きさくらいにするとちょうどいい。ただし紙の場合注意点があり、上下に棒状のものをくっつける必要がある。端っこが丸まってしまったり、ピンと張らずに見栄えが悪かったりする。百均で買えるスチールラックの足など、分割して持っていけるものが良いだろう。

 また、タペストリー加工されたものを発注するのも良い。最初から上下に棒がついているし、布製ならほぼ永遠に使える。ポプルスさんで新刊を作ってもらうと、オプションで表紙をサービスクロスにしてもらえる。1枚2750円で、タペストリー加工には550円かかるため計3300円だ。正直これは格安で、タペストリー単体を他の会社に発注すると結構高い。ただし、「表紙そのまま」しか印刷して頂けないため、文字入れをしたり、サークルの名前をいれたい場合にはやはり単品発注するしかない。

 新刊であっても、コンセプトが分かりづらいものはそのまま表紙を掲示するのではなく、大きな文字などでウリや特徴を追加したほうが良いかもしれない。例えば筆者渾身の「そしてふたりはあかつきの」はタペストリーを作ったものの、結局どんなコンセプトの本なのか一見して分かりづらく、タペストリーだけでは集客に結びつかなかったように思える。その反省を生かして第2版では帯を巻き、特徴を分かりやすくした。本のデザインについては別の記事に機会を設けたいと思っている。

 紙にしろ布にしろ、言えることは「前後面に用意する」ことだ。文学フリマは壁際に配置されない限りはブースの前にも後ろにも通路があり、意外と見通しが良いので二列くらい超えた先のポスターが見える。ちょっとでも気になってもらうためには、前だけでなく後ろのお客さんにも見えるようにすることがオススメだ。

 また、これは自戒も込めてだが、ポスタースタンドは自作することをオススメしない。筆者も百均のスチールラック+ハンガーなどでポスタースタンドを自作してみたのだが、やはりどうしてもぐらつくし、ポールがまっすぐに立たなかったり、そもそもバラした時にコンパクトじゃなかったりしてやめてしまった。安い素材を使っても、なんだかんだ1000円~2000円くらいコストがかかるので、だったらいっそアマゾンなどで安いポスタースタンドを買った方がいいだろう。筆者はBonarcaの2380円のポスタースタンドを愛用しているが、ただこれは支柱が折りたためないため、リュックから飛び出た状態でいつも搬入している。ジャマだ。

やはりここは憧れのPO.SU.TAが一番だろう。7500円するが、あまりにもコンパクトでキレイに立てられる。ポスタースタンドは一度買えば長持ちするので、お財布と要相談である。


【打率を上げる】装飾

立ち止ってもらった後、購入してもらえる確率を上げる装飾とは、端的に言うと「頒布物の独自性を強調する装飾」だ。本を手に取ってもらえさえすればその良さが分かってもらえる……と断言したいところ。しかし、たくさんのブース・本があるイベントで、限られた軍資金の中、プロのものではない同人の小説を「買おう!」と決断してもらえるにはあと一歩の後押しが必要になる。
 
 初見の人に購入を後押しする方法、それは【一言で特徴を伝える】ことだ。

①卓上ポップ

いきなり非常に重要な装飾を紹介する。A5サイズ横向きの卓上ポップだ。10年の試行錯誤の結果、これがあるとないとでは打率に雲泥の差が生じると分かったほどだ。内容としてオススメなのは「表紙・タイトル・内容を一言で紹介・値段」だ。

ポップの画像データ。立ち止った多くの方がじっと見て下さった。

ブースに足を止めたお客さんの気持ちになる。「ほほう、百合か……しかし、百合は他のサークルも売ってるからなあ……」。しかしここで、ブースに飾られたポップを見る。「おお、曇らせ百合、しかも最後はハピエンに大逆転、と……こういうので良いんだよ、こういうので」頷いて購入していく人がかなりの数いらっしゃるのだ。

ポップ自体は自宅のプリンターでA4サイズで印刷して折ったり切ったりすればいい。掲示の方法については、ラミネートするか、透明で固めなクリアファイルに入れるか。しかしオススメは無印良品のアクリルフレームシリーズだ。A5サイズだと1090円で、足が取り外せるため持ち運ぶ際には平面になるので運搬も楽。見栄えが非常に良いのでぜひ騙されたと思って使ってみて欲しい。


②お品書き/卓上スタンド

お品書きは卓上スタンドを用いて頒布物とポスターの間の空間に配置する。ここが一番空間的にデッドスペースになりがちで、どこか装飾が寂しくなってしまう。頒布物を一覧にするだけでなく、ここにも作品のキャッチフレーズを忍ばせておくと琴線にひっかかりやすくなる。

値段よりもキャッチコピーのほうが大きいお品書き。

また、これは筆者の個人的な見解だが、ブースで売りたい作品は数を絞った方が売れやすい。そこで、既刊は展示せずお品書きに載せておくことで、気になった作品があれば奥から出すというスタンスがちょうどいい。筆者の所属するLGというサークルではこの方式を取り、既刊がちゃんと十冊以上売れているので方法は保証できる。

 卓上スタンドはPO.SU.TA mini(3800円)が何と言ってもオススメで、折りたたむとボールペン4本くらいのサイズになるのが素晴らしい。
だが、なければ卓上に積み上げた在庫の側面に立てかけておくだけでも悪くない。ただし、これも紙でお品書きを作る場合はピンと張るようにクリアファイルなどに入れるのがおすすめだ。


③立ち読み用冊子

筆者は呼び込みが苦手だ。10年以上イベントに参加していても、「お手にとってご覧ください」と言うのはドキドキしてしまう。買う人は買う。買わない人は買わない。無理に立ち止ってもらう必要はない。それが精神的にも長続きするスタンスなのかもしれない。本noteも、あくまで「潜在的なお客さん」に見逃されないようにするための装飾方法なので、ゴリ押ししたいわけではないのだ。

さて、そこで最後の勝負は立ち読み用冊子だ。100均のブックスタンドで十分だが、読んでもらいたい本一種類につき【2冊】は立ち読み用冊子として用意するのがおすすめだ。混みあうタイミングだと立ち読み中の人の後ろでウロウロした結果足を遠ざけてしまう人も出てきてしまう。また、ブックスタンドに立てかけられた本はその本自体の最も重要な広告だ。立ち読みしてもらっている最中にも、通路を歩く人に見てもらいたい。そのため2冊ずつ用意するのが良い。目の前で自分の渾身の本を読んでもらっている瞬間……作者と読者の一対一の対峙。これは商業作家にも味わえない、文学フリマの醍醐味と言えるだろう。

☆まとめ

 ブース装飾の主なターゲットは【会場をぶらついている初見の人】
 目的は【打席数を増やす】ことと【打率を上げる】こと
 重要なのはサークル・頒布物の特徴を端的に表すこと

 以上が、筆者が10年の文学フリマ東京への参加の中で試行錯誤してたどり着いたブース装飾に関する知見である。もっとも、会場を見渡せば非常に独創的なブース装飾は数多くある。タワーのように積みあがるもの、何か作品内モチーフや世界観を表現したもの、本棚のようなもの……大人が本気で持ち寄って作る文化祭のようなものだ。あくまでも本noteの方法は、オーソドックスな装飾に過ぎない。ぜひご自分の作品を、楽しみながら頒布するために試行錯誤していって頂きたい。この記事が、その一助になれば幸いである。

☆おまけ~雑談のノリで~

ここまでは言うなればまじめな講演会での発表といったところで、これ以降はとりとめのない、打ち上げでの雑談のようなものである。本noteはせっかく10年も文学フリマに参加してきたのだから、そのノウハウが消えてしまうのはもったいないなあと思って書き記したものにすぎない。文学フリマ出店初心者の方に、ちょっとでも参考になればよいと思って無料にしている。もしビール一杯分ほど筆者に奢ってくれるという奇特な方がいらっしゃれば、少しだけ延長してブース装飾についての雑談を繰り広げてみたい。

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