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二次元の女の子に恋をしちゃった!肉体を持つ者と持たざる者との恋の行く末…

今回は二次元の恋物語「るんは風の中」をご紹介いたします。
高校生の少年が、ポスターの中の少女にマジ恋してしまうというお話。

必ずしも初恋の相手が人間であるとは限らない思春期
初恋相手はマンガのキャラクターだったとか
二次元の異性に恋をしてしまうなんて事も
決して珍しいことではないと思います。

頑張っても報われない恋だけれど…
叶わない恋なのはわかっているけど一度でいいから会いたい

そんな一番胸が締め付けられた青春時代の
甘い思いが詰まった青春ラブストーリー

そんな切ないをお話をご紹介しますので
ぜひ最後までお付き合いください。

それでは本編行ってみましょう。


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本作は1979年に『月刊少年ジャンプ』に掲載された
短編であります。

さっそくあらすじ見ていきましょう。

毎日憂鬱な高校生活を送っていた少年・アキラは、
ある日、高架下の薄暗い通路に貼られていたポスターの中の写真の女の子に一目惚れしてしまいます。

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アキラはポスターを剥がし家に持ち帰り自分の部屋に貼り、
彼女を「るん」と名付け
唯一気の許せる存在としてマジ恋しちゃいます。

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学校にも馴染めず実社会とのギャップに
自ら命を絶つことさえ考えてしまうアキラ少年。
そしてついには写真の中の女の子のモデル「るん」そのものを
探す旅に出ることを決意します。

様々な手がかりを経ていよいよ「るん」本人を探し出し
実際に会うことになるのですが…

さぁ一体この後どのような結末を迎えるのでしょうか?
理想と現実の狭間に揺れる恋物語の
クライマックスをぜひご覧ください

というのが本編あらすじであります。


一見すると二次元に恋をしたオタクの話でありますが
本作ではいろんな意味で思春期に経験する恋愛の切なさを描いています。

かつて誰もが持っていた、青春という思い出
あたかも人生のすべてが恋に取りつかれたように夢中になった日々…

みなさんも一番胸が締め付けられた時期なのではないでしょうか。

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そんな甘い青春の相手が
本作では現実逃避した二次元のポスターの女の子ですから
人間とポスターとの奇妙な恋愛物語という
それこそどこかSFチックな設定でありました。

今でこそ二次元の相手に恋をするなんてごく一般的であり
映画、マンガ、ゲームにVR、
今後はメタバースなんてものも注目されていますから益々この手の題材は驚くほど身近なものになっています。
それらをこの時代に描いていた手塚先生にまたしても感服せざるを
えない訳でありますが…

とはいえ
二次元の相手に恋をしてしまうなんていうのは精神性は昔からありました。

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「ピーター・パン・シンドローム」なるものがあるんですけど
これは年齢的には大人なのに、
精神的に子どものままでいる「おとな・こども」の男性のことを指します。
いわゆる未成熟な大人の男性のことで「子供心」とは若干違うんですけど
永遠の子どもという立ち位置を示しており
このような精神性を持った男性の傾向って昔からあったんですね。

そして興味深いのが
この症候群は男性にのみ訪れるという特色を持っていたんですけど
最近では女性にも多くの症例が見られているってことです。

潜在的な精神性が開花したのか分かりませんが
昔的に言う「オタク」の女子版が増えましたよね。
こういう現象を見るとやはり次元の隔たりを超えた恋愛観というのは
男性だけが持つ心理傾向ではないということが分かります。


女の子がぬいぐるみに話しかけたりするのも
もしかしたらこの一種ではかもしれませんね。
適当に言ってますけど(笑)

本作では題材がポスターですけど
さしずめ今ならスマホにデータがぱんぱんに入っていたりして
いつでもどこでも理想の恋人に会えることに
な~んて事になっているのでしょうね。

ここら辺は時代のギャップといいますか
離れている時間の立ち位置が若干異なってしまいますよ。

会えない時間が長いほど会えた時にキュんとするものですけど
すぐに会えちゃったらありがたみが薄くなりがちですよね


そして二次元に恋する人の特徴として、
そもそもの理想が高すぎるというのもありますけど

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(上の例は極端ですけど…笑)

実際は現実の恋愛に奥手であることが挙げられると思います。

何が起こるか分からない現実の恋とは違い二次元の恋には
頭を悩ませるような非常事態はほぼ起こりません。
よって失敗したくない、恥ずかしい思いをしたくない
ムダな労力を消費したくない、などのような辛い経験への逃避心理が
心の奥底にはあるんじゃないでしょうか。

恋愛してるときってどうしたって「嫌われたらどうしよう」とか
「振られたらどうしよう」っていうネガティブ思考が優先されちゃいますからね。

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でも二次元が相手なら基本的には自分の思い通りにできますし
そんな煩わしい事一切考える必要がないんですから
恋人としては最高の相手であります。

…でもそこに待っているのは
青春の甘さではなく非情なまでの残酷さ
身を引き裂かれるような辛さに他なりません。


いつかこれが絶対報われない恋だと知る時が来るんです。
いや…
そんなこと最初っから分かっているんですけど
叶わない恋だと分かっているんだけど
一度でいいから会いたくなるんです、
抱きしめたくなるんです。
それが特殊な事であることも言われなくたって分かっているんです。

でも好きなもんは好きなんですよね。
この心の衝動を抑えることが非常に難しいのが二次元の恋です。


「火の鳥復活編」では人間とロボットとの恋を描いており
同じく抑えられない衝動の行く末を見事に表現しています。
これも単なる異形のラブストーリーというだけでなく
人間以外との恋は悲劇しか生まないという結論を示しており
手塚治虫が放つ生命倫理感をも描いた傑作になっています。

手塚先生は度々この異形のものとの恋愛を描いておりますが
ほぼ毎回、最終的には訪れる悲劇を描いておりますので
やはり大枠では人間以外との恋を否定しているんですね。

この辺りは2013年公開の人工知能と人間との恋愛を描いた
「her/世界でひとつの彼女」という映画も面白いので
見たことがないかたは一度見てみてください。
ひとりのおっさんがAIにガチで恋をしてしまい
リアルな性の問題にゴリゴリにアプローチしてくる描写がエグイ問題作です

肉体を持つ者と持たざる者の肉体関係に対しての答え
色々と考えさせられると思います。


こちらの記事でも紹介しておりますのでついでにどうぞ。


そしてもちろん「火の鳥復活編」も確実に読んでおきましょう。

さて…
そんな二次元女子に恋をしてしまった本作
これまでの手塚作品であれば悲劇が描かれるのが普通なんですが
なんと本作では詳しくは言えませんが非常に美しい終わり方をしています。
未来に繋がるラストを迎えているんですね

ポスターの中の女の子に恋をして
その先にどうなるかなんて
どう考えても最悪の結末しか予想できないですよね。
でも本編では「なるほど」と思わせてくれるラストが用意されています。
ぜひそのラストをご覧になってみてください。
(タイガーブックス4巻収録)

そして本作は
1985年4月に本編25分の短編でアニメ化もされております。
yotube公式サイトでは一部ですがご覧いただけますので
ぜひご覧になってみてください


今から40年前のラブストーリーでありながら非常に現代的なテーマでもある
甘く切なく時に残酷な青春純愛物語…
今だからこそ読んでみて面白い作品ではないかと思いますので
ぜひお手に取ってみて欲しいと思います。

ではまた次回


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