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全裸が当たり前の世の中になったら?

今回は大人手塚第2弾として「ヌーディアン列島」をご紹介します。
手塚治虫のド変態ぶりが炸裂する異色短編シリーズ



第1弾は世の女という女が欲情して男たちを犯しまくるなどド変態作品2編を収録した作品を解説した記事をご紹介しております
ぜひそちらもご覧になってください。


今回ご紹介する「ヌーディアン列島」
講談社発行手塚治虫漫画全集ナンバー67巻「すっぽん物語」に収録されている短編集の中の1篇となります。


こちらには「ヌーディアン列島」のほかにも
「セクソダス」という1日に7人の女性と性行為をしないと
欲情がたまり爆発してしまう男に手術を施し
1年に1回しかXXXをできなくしたら
その1回の性行為はどうなってしまうのか?

…というこちらも
ド変態設定の短編が入っていたり、非常に見応えのある
手塚治虫節全開のアダルト短編集となっておりますのでぜひ最後までお付き合いくださいませ



さぁ「ヌーディアン列島」言ってみましょう


この作品は一言でいうなれば
「全裸が当たり前の世の中になったら?」という物語です。


全裸が当たり前なので街では誰一人服を着ていません。
というより服を着ている方が恥ずかしいという
今とは真逆の価値感が常識という世界観です。

なのでふとしたことで体の一部が隠れてしまう
それが逆にいやらしい、エロいということになります。

普通は女性のスカートがめくれて「おお!」ってなるのが
見えているものが隠れてしまうことで「おお!」ってなる
見せないことがエロイという世界を描いております。

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さぁ大人手塚節全開のアダルティな世界観になってきましたね。


会社の同僚は「いいもん見せてやろうか?」と
今でいう水着のグラビア写真を見せると

これを見て思わず股間をおさえてしまうほど
これはすごいと興奮しちゃうんです。

「お前とんでもない代物持ってんな!」って。

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これはまだ
隠すべきところを隠していた時代の産物
…ってな具合に本編の設定では
今のエロスの概念をブラックユーモアたっぷりに表現されています。

なぜこのような社会になってしまったかといえば
徐々にヌードなど過激な表現にマヒして
「裸を芸術」と名がつけば許されてきた時代の弊害だというわけです。
一種のバーバリズム、
つまりは一切の虚飾を避けようとした変化なんですね

分かりやすくいうところの
外見だけの飾り、見栄を取っ払ったら「素っ裸」になったということ。



その流れが政党にまで及び政府は裸を推奨
服は不浄なものというイメージがつき日本では全裸がスタンダードになってしまうという、すさまじい世界観が繰り広げられます。


エロさの定義が完全に真逆になっているので
男は女性をいかに隠そうとさせるかに必死になる様も面白い

タオルを投げたりして必死に見えないよう、隠そうとするんです。
そしてそれに興奮している男は完全にアホだなって思います(笑)


だけどこの間抜けさが際立てば際立つほど
現実がいかに間抜けかってことに気づかされます。
こういう対比の描き方も手塚マンガの真骨頂ですよね。

あるべきものをないように描いて
今あるものの本来の価値を描くというね
手塚治虫らしい手法だと思います。


あと面白いのは
この全裸主義は日本だけなので海外からの入国者は
日本に入るときに必ず全裸にならないといけません。


これを利用して興奮する外国人や
芸者遊びで着物を着ている芸者たちがぞろぞろ出てくるところを見て
大興奮して失神したり
まさに変態的な世界観で巻き起こるとんでもストーリーです。

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↑ 日本人には着衣の刺激が強すぎて
外国人は「なぜ脱がないのか!」と怒っているシュールなシーン。


紹介はここまでといたしますが
あり得ない価値観をマンガという媒体で表現する手塚治虫はまさに天才。

これを発表した時代は
劇画全盛の時代、
こういう大人漫画や風刺漫画は地方誌や新聞に限られていた時代
ちょうど手塚先生は物語や映画的にしただけのマンガに
物足りなさを感じていたそうで本来漫画の持つユーモラスやオチの面白さ
これらを復活、そして自らも勉強したいとして書いたそうです。

そしてこのような大人漫画や風刺の利いたアダルトなものを描くことは
ある種の気晴らしになっていたとも語っています。


新たな環境の変化や不条理
手塚は古いなどと言われながらも時代に抗い、
時代に挑戦し続けた革命児です

並みの作家なら過去の栄光に固執したり
流行りのものに染まっていくんでしょうけど
手塚先生はこっち側にいきますからね(笑)

確かに手塚先生も流行りものにはいち早く手を出すんですけど
それと同等に全く違うジャンルにも挑戦していくスケール感は
常人の物差しでは測りきれない魅力に溢れています。


本作の作風も軽いタッチと風刺の利いたノリで
シュチュエーションコミックという世界観を見事に表現しています

はっきり言ってゲスな内容ですけど(笑)
これこそがマンガ的であり手塚治虫なんだと思う
常にマンガ表現というものに向き合ってこられた手塚先生の辿った軌跡

ぜひ一度この大人手塚というものを体験してほしいと思います。


本作は講談社発行手塚治虫漫画全集では「すっぽん物語」に
掲載されておりますが
こちらの手塚治虫文庫全集の「フースケ 」ですと


この『ヌーディアン列島』 と以前にご紹介した
『月に吠える女たち』
『ペックス ばんざい』
の変態2作品も同時に掲載されていますので
こちらの方がお得かと思います。
ぜひチェックしてみてください。


というわけで今回は手塚治虫のド変態作品「ヌーディアン列島」のご紹介でした。

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