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手塚AI「ぱいどん」読書感想!

出ましたついに「ぱいどん」発売ですよ。
2020年2月27日
こんなにも発売日が待ち遠しくて
発売日に書店に買いに行った作品って久しく記憶にないですね。

それだけでも十分ボクにとっては存在意義のあるマンガなんですけど
今回はその「ぱいどん」の感想、レヴューをお届けしようと思います。

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追記
書籍「ぱいどん AIで挑む手塚治虫の世界」として、7月29日に講談社から発売されております。

完結編しての総論はこちらをご覧ください。


それでは…
いきなり結論からいきましょか。


面白いか面白くないか…?


いきますよ…。


はっきり言いますと…


「続くんかい!」って感じでした(笑)


完結してないんですよ、続きがあるんですよ。
そして「連載」するかも知れない作品なんですよ。
これにはいい意味でも悪い意味でもびっくりでしたね!


もう完全に意表突かれたって感じです。
まぁこちらが勝手に読み切り完結って思ってただけなので
「え? 読み切りなんてそんな事一言も言ってませんけど…」
って言われちゃあしょうがないんですけど


まさか続きがあるなんて予想外の展開でした。
手塚作品と言えば秀逸の読み切りが代名詞だし、数々の短編も残してきておりますしブラックジャックに代表されるように一話完結が当たり前。
って勝手に思ってましたから
思い込み、先入観って怖いですね。

さて書評に入る前に「ぱいどん」がどういうものなのかちょっとおさらいしておきましょう。

AI技術と人間のコラボレーションとして「TEZUKA2020」なるプロジェクトがありまして

「もしも、今、手塚治虫さんが生きていたら、
どんな未来を漫画に描くだろう?」

というところから始まり
このプロジェクトの一環として手塚治虫の「新作」漫画をAIで制作しようという企画から誕生した「マンガ」のことです

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これだけ聞くとAIが勝手に手塚先生の最新作を書いた的なニュースとして受け止められがちなんですが
実際はまだまだ技術がそこまで追い付いておりません。

記事を良く読めば解りますが
AIが担当したところは
「手塚治虫の漫画を元データとして、
プロット(漫画の基本的な構成要素)とキャラクター原案」

とあります。

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つまりはこの作品のある一部をAIが担当し
後は人間の手で行われているのでAIが書いたというより
AIと人間の共存、コラボ作品という表現が正解。

具体的には手塚治虫漫画の主要長編65作品を29項目で人間の手でデータ化して、世界観と背景分析を行なったそうです。
また「短編131話を13のフェイズに分け、シナリオ構造テンプレートに落とし込んでデータ化した」
とあります。
つまり世界観やシナリオの核となるデータ分析は人間が担当しているってことです。

キャラクターの属性、ストーリー展開も人力で行っており
AIに手塚作品を学習させる工程にはまだまだ人間の手が必要としているわけです。


ボクらが勝手に想像しているAIが勝手に自動学習して、
自分で考え行動する鉄腕アトムのような
AIロボットのレベルでは到底及んでいないってことです。

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イメージで例えるなら「電卓」のイメージですかね
電卓って高性能な計算システムで人間が暗算するより遥かに早い計算能力を持っているけど「電卓」が勝手に独立しては計算しないのと同じ
何を計算するのかは人間が主導で数字を打ち込み、答えを出してくれるのが電卓。
これを人間とAIのコラボで共存として捉えるとするなら
この「ぱいどん」もそんなイメージかと思います。


ですから今回のプロジェクトで批判的なコメントも多くありますが
そもそも「電卓」が弾きだした答えは

AIなのか?人間なのか?

ってことなんですね。
勝手にAIが導き出した答えなのではなく
人間と共存して辿り着いた答えだってこと

多くの方は「アトム」のようなAIロボットがマンガを描いたのか?
って思われるかも知れませんが
実際は「電卓」レベルって感じです。

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こういう物言いしてしまうと関係者さんスタッフの皆さんに失礼に聴こえるかも知れませんが決してボクは否定、批判しているわけではありません。

現に講談社「モーニング」編集長の三浦敏宏氏は、今回の企画掲載について
「最初はお断りした。まだ『AIが描いたと呼べるレベルではない』からだ」と述べています。

このコメントのように
まだまだAI技術としては進歩の過程でありレベルとしては決して高いものではありません。
しかしAIが人間のクリエイティブな面に参加してきたことが
非常に今後の人類において大きな可能性を感じさせてくれるものであり
とてつもない価値のある一歩であると思っておりますので
今後も引き続き明るい未来を見せて欲しいと思っております。

---------------ここから感想--------------------


それでは作品の感想にいきましょう。
冒頭にも触れましたが一話完結ではない、続きがあるということで
手塚作品独特のスピード感は感じられません、鈍いです
これは間違いなく連載もの特有の遅さですね。

手塚先生独特の読者を置いてけぼりにする疾走感は残念ながらありません。

この弊害なんでしょうけど
コマ割りが非常に残念でした。
なんの変化も、訴えも、感情もない、ただのコマ割りなんですよね。
手塚先生のコマ割と言えば
どこから読めばいいのか分からなかったり
はぁーんこういうコマ割なのねとか
読者を考えさせる配置が特徴のひとつでもあるんですけど
それらの要素が全く感じられませんでした。

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キャラクターの感情や、ストーリー展開による読者の感情も
コマ割りによってもくすぐって来るのが手塚先生のコマ割りなのですが
それにはほど遠いコマ割りでした。
手塚先生ってコマ割りの革命児というか
むちゃくちゃコマ割りに力入れていると思うんですよ。
一目見て手塚治虫のコマ割りと分かるくらい独特のコマ割りをしています。

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コマ割りというのは現代ではあまりにも無意識に常識化しているので
差別化を図るのが難しいのかも知れませんが
手塚治虫が放つ唯一無二の圧倒的なコマ割りというのは
今回は一切感じられませんでした。
AIのプログラムには入ってなかったんでしょうね。ちょっと残念でした。


ストーリー自体は完結していないのでちょっと評価しにくい面があります。
今の段階ではなんとも言えないのが正直なところ
ただ「新人作家」という視点で見るなら「ボツ」です(笑)。

やはり1話目の構成は「次が読みたい」って思わせる展開が必要ですけど
その視点があまり感じられなかった。
実力というより2世タレントの話題性としてデビューした感が強くて
作品自体のストーリーとしては物足りなさが残ってしまいました。
これからの展開に期待しましょう。


キャラクター設定はですね
上手く手塚作品のイメージを引き継いでいるなぁって感心するデザインでした。

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ぱいどんの顔についてコメントを求められた漫画家のちばてつやさんは
「なんとも懐かしい感じがした。『どろろ』や『ブラックジャック』、
手塚治虫さんの血が入っているキャラクターだったので懐かしかった」

とコメントしているように
懐かしさを感じるキャラクターデザインでしたね。

どこか現代っぽい風合いを折り込みつつも見事に手塚キャラを誕生させています。どちらかと言えば手塚初期、もしくは少年誌をターゲットにしたデザインですよね。

だから、モーニングという雑誌の中ではちょっと浮いちゃうんですよね。
ジャンプとかチャンピオンで掲載されるマンガだとしっくりくるんですけど
モーニングの層だと違和感があります。
ターゲットが幼少の頃に手塚作品に触れた大人たちとすればモーニングの層に合致しますけどモーニングに掲載される前提とすると
画のタッチがターゲット層にむいていないんですよね。

手塚作品にまったく興味のない方、
もしくは手塚作品に触れてこなかったモーニングの読者層が
このぱいどんを見た時、「なんじゃこりゃ?」ってなる気がします。

まぁいろんな大人の事情があるんでしょうけど
掲載するのであれば「ジャンプ」や「チャンピオン」のような少年誌の方が良かったと思います。
もしくはモーニングで掲載するのであれば
別の手塚タッチ、「ムウ」とか「奇子」とまではいかないけど
せめてブラックジャックやブッダあたりのタッチで復活して欲しかったかなと。

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このタッチが変化するっていうのも手塚先生の多様性のひとつなんですけど
ターゲットや連載する雑誌によって画風やタッチを変えることができる稀有な作家であり時代の流れによっても変化させることができる作家。
悪い物言いで言えば「自身のタッチに一貫性がない」マンガ家でもあるんですよね。
今回の「ぱいどん」のデザインは素晴らしいものがありますが
発表された媒体を考えるとちょっと違和感を感じましたね。


あとは世界観やテーマ性についてはまだ見えてこない面はあるんですが
表現がストレートなような気がしました。
いわゆる含みを持たせた表現であったり伏線があったりというコマは
今のところ見受けられませんでした。

壮大な手塚ロマンを語る上でここら辺の
「何かあるかも感」「なんだこれ感」が感じられなかったんですよね

伏線はあるんですけどストレートすぎるかなと
なぜ浮浪者なのか
なぜ義眼
博士の研究の謎
昆虫の研究

伏線としてはちょっとインパクトに欠けるかな
でもね良いところもあるんですよ
「匂いが記憶につながっている」という設定は手塚先生らしさを感じました。
生物学的にもニオイが記憶と密接な関係にあることは立証されていますし
こういう人体構造から話を膨らませていく手法は手塚先生っぽいですね。
この先どんな秘密が明らかにされていくんだろうと気になる設定でした。

ギリシャ悲劇の名言を口にする。
これも良かったですね。
文学的作法といいますか史実、歴史を折り込んだ設定も手塚先生は得意としていましたので
今後物語にどう絡んでくるのか興味をそそられる設定でした。

まぁ冷静に考えたら“手塚治虫”というマンガ界で最も高い山脈に登山しているわけで初登頂で頂上制覇を期待してしまうのはさすがにしんどいかも知れませんね

だってここまで登ってくるだけでも相当しんどいという事が
記事を見ればわかります。
無いものを形にしてくいく辛さというのはまさに手塚イズム
そういう意味では携わったスタッフの方々の努力と執念の熱量は本当の手塚イズムの継承だと感じました。
心より応援していますので
ボクたちに明るい未来を見せて欲しいと思っております。

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人間がデータ化してAIに学習させる、そのデータ化の時点で
天才手塚治虫の思考を解析すること自体難解極まりない作業ですからね。
それこそ手塚治虫の脳ミソをそのままAIに移植でもしない限り
手塚治虫の深みの部分までは到達しないでワケですから
完全な手塚治虫を重ねてみるというのはムリな話なわけで…。

そうですね。この脳まで移植するようなれば「死者への冒涜」になってもおかしくないと思いますが現段階においては全くそんなことはなく
人間とAIの共存、コラボが正しい認識なのだと思いました。



ここまでがAI手塚「ぱいどん」の感想でした。
なんだか肯定している割には残念コメントが多くなってしまいましたが
これも期待値が高いという裏返しということで…。

各々のご意見ご感想たくさんあるかと思います。
それはあって然るべきだと思いますしそれを強要するものでもありません。
カレーライスを美味しいと思う人もいれば美味しくないという人もいるようにどこまで行っても正しい答えはありません。

マンガの原点はあくまでも娯楽であり楽しむものであります。
ボクの感想もひとつの参考程度にして
新作「ぱいどん」を楽しんでいただければと思います。






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