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生き別れた双子の秘密!毎度おなじみ手塚治虫節全開の凄まじいラスト!「白いパイロット」

今回は
引き裂かれた双子が織りなすSFロマン
「白いパイロット」をお届けいたします。
生まれたばかりの双子が生き別れ、一方は王子、一方は奴隷として歩み
その後は敵として戦う事になる悲劇の運命を辿る手塚節全開のSF活劇

内容もさることながら
ラストにこそ手塚節全開の衝撃度が待っている異色作!
毎度おなじみの凄まじいラストを迎えますので
ぜひ今回も最後までご覧になっていただきたいと思います。


それでは本編いってみましょう。

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本作は1961年「週刊少年サンデー」に連載された作品です。

早速あらすじ見ていきましょう。

ある時、ミグルシャという王国で、どえらい発明をしたポスク博士は、
問答無用で秘密警察に殺されてしまいます。
博士には双子の子どもがおり奴隷として引き取られる事になるのですが
一人の子は女王に拾われ「マルス」という名で王子になります。
そしてもう一人は「大介」という名で地下工場へ送られ奴隷として育ちます。

時は経ち
運命のイタズラか、成長した二人は互いに敵対する道を歩み始めます。
今や地位も環境も異なってしまった引き裂かれた兄弟

そこで二人は双子である真実を知ってしまいます。

敵対する相手が兄弟である葛藤を抱えるも
そこに追い打ちをかけるように
もっとすごい衝撃の出生の秘密が明らかになります。

誰も想像だにしない度肝を抜くラストはまさに手塚節
さぁ一体この2人に待ち受ける運命とは一体何なのか?

というのが本編あらすじであります。


本作は「週刊少年サンデー」創刊より続く手塚治虫の連載作品
「スリル博士」「0マン」「キャプテンKEN」の次の作品であります。

この頃は手塚先生が長者番付の漫画家部門でトップに立ち、翌年には
国産初のテレビアニメ「鉄腕アトム」が放映開始される年でもあり
超多忙を極めた時期であります。

同じ時期に連載していた「ナンバー7」に続くグループヒーロー要素もあり
最新戦闘機がバトルを繰り広げる近未来SF戦闘要素もあり
当時のヒーローSFバトルの超王道とも言えるストーリー展開に
運命にもてあそばれた双子のドラマ性なども折り込み
非常に手塚治虫らしい設定の作品でありました。

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この同時期は本当にSF作品が多くて
同時期連載していたものだけでも
「鉄腕アトム」を筆頭に「ふしぎな少年」「オズマ隊長」「魔神ガロン」
そして「ナンバー7」「白いパイロット」
実にSFマンガを同時に6つ連載しているくらいSFまみれの時期です。

SFだけでこの数ですからね。
SF以外も入れちゃうと相変わらずのド変態なスケジュールなんで
ここでは紹介しませんが

手塚先生は初期作の頃からSFを題材とした作品を多数描いておられるとはいえ同時期にここまで書いているのは極めて珍しいことです。

それもそのはず
この1960年当時くらいまでのSFマンガと言えばほぼ手塚治虫の独占、

あと石ノ森先生か横山光輝先生がちょこっとあるくらいで
「SF=手塚治虫」といっても差し支えないくらい手塚治虫がSFの顔でありました。いわゆる「空想科学」と呼ばれるファンタジー作が世の中のブームになっていた頃ですね。

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その後1964年に「オバケのQ太郎」「カムイ伝」という時代を変えるヒット作が登場してきて劇画のようにマンガ表現が多様化していくわけですが
それまでのマンガとはこういうファンタジーが主体でありました。

ちなみに本作のこのデザインは非常に「サイボーグ009」に似ていますが
「サイボーグ009」は本作の3年後1964年連載開始であります。

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そしてこういう解剖図のようなカットは
後の「サイボーグ009」にも影響を与えたであろう感じもしますし
なによりこれがギミック満載のスーパーメカって感じでこの年代の男の子にとってすごいワクワクさせてくれるんですよね
これね、女の子には分かんないと思いますけど
男の子ってこういうの興奮したもんです。
今見ると全然たいしたことないんですけどね(笑)

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そして本作はただの正義と悪がドンパチするSFということだけではなく
生き別れになった双子がテレパシーのように心が通じ合って
どちらかが痛い思いをすると、もう一人も同じ目にあい、
ともに苦しむという「シャムのふたご」
モチーフになっていて物語の重要な役割を果たしています。

「シャムのふたご」って結合双生児とも呼ばれる、体が結合している双子のことでブラック・ジャックの第37話「2人のジャン」でも頭部を2つ持つ患者として登場していました。

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我々の世代で言いますとベトチャンドクちゃんなんかがリアルタイムでありましたけれども…本作では体は結合しておらず別々の存在なんだけれども
精神が繋がっている設定として描かれております。

この双子は一人は王子、もう一人は奴隷として育ち
越えられない身分の壁も越え全くの対極な運命を背負い、
そして無情にも戦うことになる2人のドラマを描いており

ここまででも十分に面白いストーリーなのでありますが…


ここからですよ、本気の手塚治虫節は!
ちなみにこの先はネタバレになりますのでご注意くださいね。


本編では可愛そうな双子って雰囲気醸し出しておきながら
手塚先生は最後の最後にとんでもない爆弾を放り込んできます。


それは…実は双子じゃないんです。
双子じゃなかったんです。

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双子ではなくて実はもう一方はクローンだったんです。

出ましたね。手塚治虫十八番のクローン。

つまり別人ではなく同一人物だったんですね。
そしてそれは、どちらかがニセモノで消えてしまうことを意味します。


ここで炸裂しました
自らのアイデンティティを崩壊させる容赦ない絶望描写

自分は本物なのか?ニセモノなのか?
この自分が存在することの意義を問いかけてくる表現は
手塚作品で繰り返し使われている手法ですよね。

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代表作のアトムだって
交通事故で失った息子の代わりに作られたロボットだけど
「成長しない」という理由で見捨てられ自身の存在意義に悩むし

1968年の「グランドール」なんかモロに
自分は人間なのかニセモノなのかって悩みますからね(笑)
短編の「赤の他人」なんかもそうです。
ゴリゴリにアイデンティティを刺激してきます。
この自分は一体何を信じて生きて行けばいいのか?という描写こそ
手塚治虫らしさ全開のラスト


さらに本編はそれだけに留まらず、ただどちらかが消えるだけではなく
「溶けながら消えていく」んです。
この溶けて無くなっていく描写もまさに手塚治虫。

1949年の「メトロポリス」でも主人公のミッチイが溶けて死んでいくし
それ以前の1945年に描いたとされる「幽霊男」でも溶かされて
死んでいく描写があるので、
この生命がドロドロに溶けて無くなるという恐怖には
手塚先生の戦争体験というPTSDもあるのかも知れませんが
先生の中で潜在的に持っている生命観、死生観の表現なのでしょうね。

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今回、マモルか大介か
どちらがニセモノで溶けて消えていくかはここでは
ご紹介しませんのでぜひご自身の目で確かめてみてください。


ちなみに本作連載終了後の1963年に描かれた「最後はきみだ!」という短編には「白いパイロット」で使われたミグルシャ国やメイスンをモチーフとした軍国主事設定がそのまま出てきて
戦争の悲劇を伝えるストーリー短編になっております。

本作でも描かれた戦争描写が続編でもない短編にもなって引き継がれたのは
何か意味があって描かれているんだと思います。

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今は絶対に戦争なんてないという安全圏の中でマンガを読んでおりますが
当時における戦争描写って今よりはるかに緊迫したものだったと思います。

戦後わずか10年ほどの時代観ですと
つい最近まで戦争していたっていう感覚です。
現代の10年前と言えば2010年です。
2000年台と言えばつい最近のことですよね。
このように戦後間もない時期の戦争とはとても身近なものだったはずです。

各国の「核兵器使用も辞さず」という声明は単なる脅しではなく
いつ原爆が使われてもおかしくないという状況の中で描かれたものですので
マンガにおけるメッセージ性というのは今より遥かに大きかったのではと思います。

「週刊少年サンデー」創刊時より途切れることなく続いた手塚治虫の連載作品「スリル博士」「0マン」「キャプテンKEN」そして「白いパイロット」
「スリル博士」以降はいずれも侵略戦争が作品の主題になっているのは決して偶然ではないと思います。
手塚治虫が週刊雑誌黎明期において子供たちへ伝えたかったメッセージ
それはやはり平和への願いだったのはないでしょうか。


こちらの「週刊少年サンデー」創刊の模様やその時の時代背景などは
コージィ城倉先生の「チェイサー」1巻の第4話にて描かれておりますので
興味がある方はご覧になってください。
こちら「チェイサー」の詳細記事もありますので併せてチェックしてみてください。


というわけで「白いパイロット」お届けしました。
マンガ文化が月刊誌から週刊誌に変わった時期の作品とあって
マンガ文化のひとつのターニングポイントでもあるタイミングでもあります。この時期に描かれた作品群と併せてご覧になることでより厚み、深みが感じられると思いますのでぜひご覧になってみてください。


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