鉄腕アトムの最終回を読む!
今回は「鉄腕アトム」の最終回について
迫ってみたいと思います。
今年2021年はですね
アトム生誕70周年という記念の年であります。
日本漫画を語る上で試金石にもなり得るアトムの歴史
複数ある最終回をざっと振り返ってみて
アトムがどのような経緯を辿ったのか
その歴史を手繰り寄せてみようと思います。
それでは本編いってみましょう
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まず「鉄腕アトム」についてさらりと予習しておきましょう。
鉄腕アトムと言えば正義のヒーローというイメージが強いと思います。
確かに鉄腕アトム以前に登場するヒーローと言えば悪人を次々と倒し
弱点のない完全無欠のヒーローが一般的でした。
しかし手塚先生はロボットでありながら生身の人間のように苦しんだりする
等身大のヒーローを描きました。
これがこれまでのヒーロー像ではないにも関わらず
繊細さと脆さを持ったヒーローとして世間に受け一躍大ヒットします。
しかし次第に世間の理想とするヒーロー像として
間違った認識だけが一人歩きしてしまい
人間とロボットの狭間で揺れる悩めるヒーローを
描きたかった手塚先生の思いとは真逆の方へと
世間がかけ離れていくギャップを感じていくんですね。
そうした背景の中で描かれていく複数存在する最終回
漫画に初めて悲劇を持ち込んだ手塚治虫らしいエピソードを
今回はいくつかご紹介していこうと思います。
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それでは「死」んだとされる最終回から見ていきましょう。
まずは1966年の大晦日TVアニメ版の最終回。
本来アニメを最終回として扱っていいのか微妙ですがあまりに衝撃のラストなため社会現象を巻き起こした曰くの作品としてご紹介しておきます。
平均視聴率30%を超えていたお化け番組もスポンサーなどの意向により
最終回となり内容はアトムが太陽に突っ込み死んだのでは?
というラストで
「アトムを殺さないで」と
全国の子供たちから手紙が殺到した伝説の最終回となりました。
シナリオは手塚先生自らが描いており良い子になりすぎたアトムとの
決別宣言ともとれる非情なラストになっておりますが「死んだ」とは明言されていないんですね。
ここら辺は以前ご紹介している別記事でご覧ください。
「死んだ」ことばかりが大きな話題になってしまうのですが
実はこの最終回の前年である1965年発表の「青騎士」編で
アトムは一度死んでいるんですけどね(笑)
この辺りを鑑みると視聴者は「死んでいる」という事よりも
終わり方、幕引きの方を気にするのだと思います。
終わりよければすべて良しじゃあないですけど
大衆原理ってそういうものなんだと思います。
…でも手塚作品にそれを求めちゃうとダメでしょ(笑)
基本的にアンハッピーエンドが多いですからね。
ちなみに原作の全集版12巻に
「地球最後の日」というエピソードがありまして、
このアニメ版のラストと非常によく似ています。
こちらでは地球に激突する赤い惑星にベムという男の子か女の子か分からないお得意の宇宙人キャラがその惑星に突っ込んで自爆して地球を助けるというお話になっておりまして
恐らくこれをモチーフに最終回でアトムを太陽に突っ込ませたんじゃないかなと個人的には思います。
興味がある方はこの「地球最後の日」をぜひ見てみてください。
続く形で「死」を描いたのは
1968年「最後のエネルギー」というエピソード
アニメ版最終回の続編として1968年9月にサンケイ新聞で連載されたもので
後に単行本化の際に「アトム今昔物語」として改名されて発売されているものになります
こちらは
太陽に向かったアトムが宇宙空間に漂っているところをイナゴの宇宙人に助けられたという設定なんですが
全集版ではこの部分は大きくカットされています。
なぜなら全集版にはTVアニメの最終回、太陽に突っ込むシーンがないので
そもそもつじつまが合わなくなってしますんですね。
なのでこのサンケイ版は雑誌版とはほとんど関係ない話になっています。
アトムが生まれた時代にタイムスリップしてタイムパラドックスを引き起こしてこの時代に自分は居ちゃいけないと草むらに横たわって
静かに朽ち果てていくというラストになってまして
これはなかなかに衝撃的であります。
ある種のパラレルワールド的ともいえる本作は
本編とは違ったストーリーを読むことができます。
しかもややこしいことに「アトム今昔物語」はサンケイ新聞掲載時のストーリーと、ゴールデンコミックス単行本版のストーリーがあります。
ここら辺はかなりカオスなんでボクは把握しきれていません
全集版と復刻版でも色々と改編されておりますが
紹介すると膨大な量になるのでここでは割愛させていただきます。
ちなみにこの「アトム今昔物語」の「ベトナムの天使」というエピソードのラストではアトムが死んだとされ白い布にくるまれて川に流されてメコン川の川底に堕ちていくという凄まじいシーンもあります、
これ案外話題にならないんですけどかなり刺激的なシーンで
ほぼ死んでいるといってもいいくらいカオスなんですけどね。
続いては1970年 『別冊少年マガジン』 7月号掲載の「アトムの最後」
アトムの中でも最も救いようがないとされた問題作です。
人間とロボットの立場が逆転したディストピアを描いた衝撃の結末は
あっけないを通り越してあっさりとアトムが死んでしまいます。
こちらも別記事がありますのでぜひご覧になってみてください。
「死」を連想される回はざっとこんな感じなんですけど
続いて最終回と言われるものを見ていきます。
まずは「火星から帰ってきた男」
これは雑誌『少年』に1968年3月号に掲載されたもので
「アトム大使」から18年も続いた雑誌『少年』が3月号をもって雑誌自体が休刊になっちゃったので止むを得ず急遽連載が終了します。
実質的な原作の最終回に当たる作品となってしまいまして
とても最終回とは思えないラストになっています。
悲壮感なんて微塵もなく終了の挨拶文に「サンケイ新聞」でお目にかかりましょうと書いてあります(笑)
これはすでに1年前の1967年にサンケイ新聞で別のアトムを連載していたためそっちがあるからまぁいいでしょ。…的な感じなんでしょうかね。
長年連れ添ってきた雑誌にしては非常にあっけないラストになっております。
ちなみにこの「火星から帰ってきた男」は
全集版の18巻に掲載されておりますが挨拶文などはカットされています。
続いて1972年小学館の「小学四年生」3月号
こちらは後に「アトム還る」というタイトルに改編されておりまして
テレビアニメの最終回の「その後」を描いた物語です。
地球を救うために太陽につっこんだアトムが、鉄のかけらにくっついて宇宙空間を漂っているところを
三つ目の宇宙人・ルルル星人のロケットに拾われて助かるというもの。
彼らは高度な科学技術を持っておりアトムを
より高性能なロボットとして改造しちゃうんですね。
これがまぁハイカラなデザインに改造されちゃいまして
もはやジェッターマルスみたいになっちゃってます(笑)
あらすじは
地球に戻るんですけどそこには人間の祖先のような猿人がいたんですね。
実はアトムにタイムトリップできる機能を付け加えられるよう改造されていてしかも過去に来たつもりが実は遠い未来の姿だったという展開
人類はずっと前に公害と戦争で滅びていたという
四年生にしてはめちゃくちゃ重すぎるストーリーは衝撃です
「アトムの最後」にも似た人類終末の物語を
ここでもぶちかましてくるという手塚治虫の凄まじさ
これは大人が読んでも腰を抜かしますね。
完全にやっちゃってます手塚先生…
続いて
1981年小学館の「小学二年生」11月号で最終話「富士山の決闘」
これにはなんとあの「ユニコ」が登場しています。
登場って言ってもモデルだけなんですけどね、内容は低学年用のドタバタ展開で最後はあっさり「みなさんおうえんありがとう、じゃあね」と終わっちゃいます。
手塚先生はこれ以降描いていないので
実質連載としてのアトムはこれがラストになっています
ラストにしてはなんとまぁある意味衝撃といいますか…。
でも短編形式での連載なんでまぁいいでしょう。
直接関与という意味では1980年第2期のテレビアニメ版の最終回
これも衝撃です。
このときはカラーアニメになっていて
第一期に不満を持っていた手塚先生がリメイク、リベンジを試みた意欲作でありまして第一話に「アトム誕生」のエピソードを持ってくるなど気合いの入ったアニメでした。
しかしこのアニメ版の最終回でも
第一期に勝るとも劣らないトラウマの展開をぶち込んできます。
シナリオはもちろん手塚先生本人です。
冒頭で「アトムの足は女の子の足だったんんです」と意味深なコメントを叩きこんで本編へ
しかも手塚先生本人も登場。
本編でアトムはニョーカという美少女に恋をしてしまうんですが
彼女は実は「中性子爆弾ロボット」だったんですね。
…で彼女は地球を破滅させる危険性があり爆発を阻止させるため
泣く泣くニョーカを解体することになり
そしてニョーカを忘れないために
残ったニョーカの足を自分の足にくっつけてもらうというお話
主人公の男の子が、女の子の足に付け替えるなんて
一歩間違うとアウトですよ(笑)
これはもう
ピノコとかロビタ要素満点の手塚先生大好きな「黒手塚」が炸裂した問題作ですよね。
しかもここにきてアトムが実は女の子だった説を放り込んでくる暴挙
男女がミックスして性の垣根を超えるという先生の性癖丸出しのシナリオ
(手塚先生の深層心理を理解するためにこちらの記事もどうぞ)
いづれにせよこちらも最終回にしてかなり曰くのラストとなったのは間違いありません(笑)
…という訳で今回は「鉄腕アトム」の最後をご紹介して参りました。
ハッピーエンドが少なすぎてびっくりしたんじゃないでしょうか。
何をもって最終回の定義とするか人それぞれだと思いますが
「鉄腕アトム」も例に漏れずいづれも凄まじいラストを迎えていたことがお分かりいただけたかと思います。
まぁこれが手塚治虫なんですけどね。
これほど世間に受け入れられた漫画家でありながら
これほどまでに作家性の強い反逆の漫画家もいないと思います。
日本が誇る不世出の天才が残した代表作から滲み出ている作家性の一端を
感じてみて欲しいと思います。
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