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こんなに多いぞ!「ブッダ」の未収録!

今回は手塚治虫の代表作「ブッダ」の未収録ページについて
ご紹介したいと思います。

手塚先生は雑誌に連載していたものを単行本に収録する際に
改編、修正、編集でこねくり回してオリジナルとは
違う作品にしてしまう作家で有名であります。

ですから『鉄腕アトム』や『ブラック・ジャック』『火の鳥』といった
有名作品はもちろん
その他の手塚作品でも未公開原稿や未収録作品が唸るように存在し
これを見るのがある種の楽しみでもあり、ある種の迷惑でもあります(笑)

しかし今回の「ブッダ」は手塚治虫の中でもライフワークと言われる火の鳥に並ぶほどの代表作でありながら
マニアの間でも改編についてそれほど語られておりません。

その実、単行本未収録ページの多さや、バージョン違いなどの描き変えの
多さは、手塚作品の中でも指折りで、実は「火の鳥」よりも多いんです

それは一体なぜなんでしょう。


今回はその秘密と改編された未公開がどういうもだったのかに迫ってみたいと思いますのでぜひ最後までお付き合いください。

それでは本編いってみましょう。

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今回のブッダの改編については復刊ドットコムの『ブッダ』オリジナル版をベースに進めていきます。

まず大枠ですが実は『ブッダ』の描き直しや改変というのは
めちゃくちゃ多いということ。
他の有名作『ブラック・ジャック』『火の鳥』『鉄腕アトム』などと比べても、『ブッダ』がかなり多いのはファンの方でも意外だと思うのではないでしょうか。

なぜこれほどまでに書き換えが多かったのかについては
本当のところは分かりませんが一説には
ブッダが悟りに至る過程に試行錯誤があったと言われています。

何と言っても「悟り」は本作の核になる部分でありますし
先生もその表現方法に相当頭を悩ませていたと思われます。

それを物語るに単行本版では
見ごたえのある良いシーンが惜しげもなくバッサリ切られているんです。


そもそも手塚先生は作品としての完成度を追求するためなら容赦なくカットしますし「作品が長すぎる」と感じるとこれまでの苦労も関係なくあっさり切り捨てます。
それはもう見事なまでにカットしちゃいますよ。
過去には
『火の鳥 望郷編』での大幅なカットだったり
アニメですけど『火の鳥2772』ではなんと30分も尺をカットしていますし
まんが道では来るべき世界の本編400ページに対して書いた原稿は1000ページだったというエピソードがあるくらい作品の完成度を高めるためなら躊躇なしに書いた原稿をボツにします。

原稿をハサミで切り刻んで使いまわしたりもするので
生原稿が残っていないということもしばしばあります…(笑)
とにかく現代の感覚では考えられないくらい
容赦なく原稿にメスを入れていくのが手塚治虫なのであります。


では実際「ブッダ」ではどんな風にカットされているか見てみましょう。

まず目につくのはシッダルタが悟りを開くまでの描写のところに、
かなりの描き換えがあり描き足しも非常に多いことが分かります。

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やはり悟りに到達するまでの描写に悩んでいたことが伺い知れます。
このオリジナル版を手掛けた復刊ドットコムの森さん曰く
どの巻の修正が多いのか調べてみたら特に2巻と5巻が多かったそうです。

前半部分に改編が集中しているところを見ると
ほぼ間違いなく悟りに到達するまでの描写に悩んでいたことが伺い知れます。

…で森さんがマスコミや読者に紹介するための資料をまとめていて3巻の編集をしていたら3巻だけでもなんと70ページほどもあって改めて驚いたと語っておられました。

「どの巻を手に取っても読んだ方はきっとびっくりすると思う」
「惜しげもなく切っていて大胆、スゴイ」

と手塚先生の容赦ない改編に驚きを隠せないようでした。

こう見ると
シッダルタの子供時代、出家する寸前の描写など
惜しげもなくカットされていますね

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そもそもブッダとは悟りに到達したとはいえ決して神になったわけではなく
あくまでも一人の人間として求道者として、
その真理を大勢の人々に伝え広めていった不器用な人間像であります。

そこが他の宗教のような絶対神などとは違う最大の特徴なんですけど
(ほかの宗教あまり知らないので深く突っ込まないでくださいね)

故に手塚先生はそこに至るまでの過程を
何度も何度も書き直し修正して完成形に至ったのだと思います

なんせ悟りの境地をマンガで説明するなんて世界初の試みでしょうからね。
言葉でもなく文字でもなく二次元描写でどのようにして読者に伝えて行こうかと苦悩したんだなというのは感じます。

有名なシーンでいくと出家した際のシッダルタの顔のアップ

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微妙な顔のラインを何度も書き直したホワイト跡が残っています。
こんな事くらいサラリと流せばいいのにと思うんですけど
顔のライン一つとっても気になるところはどんどん修正していた先生のこだわり具合が分かります。


あとは、『火の鳥』を感じさせるシーン。
『ブッダ』は元々『火の鳥』の続編という流れがあったので
『火の鳥』とかなり近いテーマを感じさせる描写が数多く存在します。

『火の鳥』で描いたような輪廻転生の生命観とか、コスモゾーンについての事とかまさに火の鳥と思わせるような壮大な描写もあるんですが
単行本版ではこれも容赦なくカットされています(笑)
さすがゴッド手塚治虫ハンパじゃありません。

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ここら辺はあえて火の鳥と似せないように修正したのか
その真意は分かりませんが「ブッダ」は火の鳥よりも対象年齢を下げて描いていることは確かなので
小難しくなりそうなところは後で全面カットした可能性はありますね。
実際に「ブッダ」の方が絵のタッチも優しくなっていますしギャグも多く入っており火の鳥のターゲット層とは明らかに違うことが見て取れます。

火の鳥とテーマは同じようなものであっても描き方の違いはギャグを見ると一目瞭然です。

映画のエイリアンが出てきたり

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ゴルゴ13なんかも平然と出てきます。

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さらに凄まじいのはシッダルタが一瞬現代にタイムスリップするシーン
1970年のベトナム戦争時にシッダルタがタイムスリップするという
猛烈なSFタイムスリップは一見の価値ありです。
これらは残念ながら本編ではすべてカットされています。

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あとはカラーページですね。
カラーページもかなり力が入っていて扉絵なども多数描かれています。


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ブッダが誕生するシーンも、
連載時は非常に美しいカラーで表現されているのですが、
単行本ではコマ割りも含めてバッサリ改編されております。

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単行本版でカラー表現できないのはしょうがないとしても
コマ割り改編などほんと容赦ないですね。
手塚先生って天才すぎて我々凡人が見ても何が気に入らないのかさっぱり分からないんですよね。
何かが違うから手を加えるんでしょうけど…
その何かがさっぱり分かりません(笑)


とういうわけで今回はざっと「ブッダ」の未収録
改編、修正の秘密を見てまいりました。

今回ご紹介した作品は
復刊ドットコムのブッダ 《オリジナル版》 復刻大全集を参考にしております

こちらは雑誌連載時の貴重な(オリジナル・バージョン)全話を
単行本としては初刊行しておりB5判フルサイズ&フルカラーで雑誌掲載時の大きさそのままでスケール感も抜群
紙質もこだわられており非常に上質な用紙に印刷されている
ファンならよだれものの超豪華仕様になっております

そしてなんといっても
連載版と単行本版の違いを、図版を見せながらの解説が付いておりますので
どこがどう変わっているのかが一目でわかるようになっているのは
本作のみどころの一つにもなっています。

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ブッダは掲載された雑誌が『希望の友』といったマイナー雑誌だったため
『少年マガジン』『少年サンデー』や『少年チャンピオン』のようなメジャー誌と比べるともともとの発行部数が少なく残存率も低いため古本屋でも取り扱いが極めて少なく
コンプリートできる確率が恐ろしく低い代表作ですので、こうして復刻として完全版を読むことができるのは大変興味深いことであります

これまでのブッダでは読めなかった雑誌掲載時そのままの『ブッダ』
改編されたページ数も圧倒的であり
それを完全版として現在手に入るものではコレしかありません。

ちょっとお高いですが興味のある方はぜひご覧になってみてください。

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