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手塚治虫音楽マンガ3選

今回は手塚治虫音楽マンガ3選お届けします。


手塚治虫と言えば漫画の神様、アニメを作った偉人として有名ですが
実は音楽についても相当なこだわりを持った音楽通でもあります。

特にクラシックが大好きで
執筆の際にはいつも大音量でクラシックをかけながら
大好きなチョコレートをかじっていたのは有名なお話です。

そんな手塚先生にとって死ぬほど大好きなクラシックにまつわる
手塚マンガ3選をご紹介いたします。

それではいってみましょう。

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作品紹介の前にまずは簡単に
手塚先生と音楽の深いかかわりを見ていきましょう。

まず手塚先生と言えば冒頭にもお伝えしましたが大のクラシック好き
チャイコフスキーに始まりブラームス、シベリウス
仕事をしながらガンガンに流すと文字通りいい気分になって仕事に脂がのると語っておられます。

藤子不二雄A先生の「まんが道」でも
「ジャングル大帝」の最終回を手伝っているとき
「チャイコフスキーの交響曲第六番 悲愴」が大音量で流れ泣きながら描いたエピソードが描かれており手塚先生が執筆中に大きな山場になるとこれが流れるという伝説もあるくらいです


漫画家になったキッカケもあのモーツァルトにあると本人も語っており

あの名作『火の鳥』もストラヴィンスキー『バレエ組曲:火の鳥』から着想して生まれたものですし
とにかく手塚先生は音楽と深い関わりのある作家であります。


そして手塚先生は自分でも音楽にはうるさいと語っており
納得いかなければ自分でピアノも演奏するくらいこだわりを持っています。

その手塚先生が認めた作曲家があの冨田勲さん
手塚アニメ作品語る際には絶対に欠かせない音楽家であります。

国産初のカラー連続テレビアニメ『ジャングル大帝』の偉業はもはや伝説

総制作費の1/4以上という現在のテレビアニメの常識では考えられない
とてつもない音楽予算を投入し
画面の動きとタイミングを合わせた音楽をこのアニメのためだけに作曲
変態的ともいえるこだわりで映像に同期させた作曲を毎週、放送していたのはまさに狂気です!
日本初ということで新しい時代を切り開こうとする天才2人情熱もさることながら、それを1年近くも継続させたエネルギーはもはや変態ですね。

なかでもオープニング映像は放送関係者の度肝を抜きました
元々海外へ輸出する予定で制作されており
これを海外に持って行ったときに海外関係者は

「これはスゴイ!何人編成?80人?100人?」

と聞いたそうですが

実際は30人だったそうです。
関係者はこんな素晴らしい音楽を出せるのかと終始不思議そうだった…
という逸話が残っております。

そして手塚先生はそんな富田さんを
彼をおいて他にはいないとまで絶賛
「このあと彼がどんな音楽を目指していくのか興味深い」
というコメントまで残しておりますが
その後の富田さんの活躍は言うに及ばずですね。
当時からその力量を見抜いておられたわけです。

ジャングル大帝(1965) OP&ED ((stereo))
ぜひ聞いてみてください

まだまだ音楽エピソードは数知れずあるのですが
ちょっと長くなりそうなので作品紹介いきましょう(笑)


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まず最初にご紹介するのはこちら
実録風短編の『雨のコンダクター』です。

『雨のコンダクター』は、
1973年1月19日のニクソン大統領就任式記念演奏会にぶつけて企画された
実在の指揮者バーンスタインによる演奏会がモデルとなった実録風短編となっております。

この日は泥沼のようなベトナム戦争がようやく終結を迎え
大統領の再選を祝う前夜祭でもあり
戦争の「勝利」を祝うコンサートが開かれていましたが
あいにくの冬の冷たい雨が降りしきる中でもあり客足もまばらで、
会場にはしらけたムードが漂っていました

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そのほぼ同時刻
ベトナム戦争に加担するニクソン大統領に反抗して平和と人権を掲げる
指揮者バーンスタインがワシントン大聖堂で「平和のためのコンサート」を無料で行います。


これには同じ雨の中、実に一万人を超える聴衆がつめかけたようです
事実、その曲を聴こうと大雨の中、会場のワシントン大聖堂には入りきれないほどの人たちがつめかけたともいわれています。

この夜、行われた二つの対照的なコンサートは、当時のアメリカという国の社会情勢をありありと示していた事実と言えるでしょう。

作中で演奏される演目はハイドンの「戦時のミサ」

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ナポレオンに占領されたウィーン市民の激しい怒りと反発を込めた力強い作品であり、その意味を感じ取った聴衆の反戦への強い想い
作中のオーケストラが演奏するシーンは力強く圧巻です。

興味のなかった警備員ですら「こんな素晴らしい演奏会は始めてだ」と声を漏らしてしまうほど圧倒的な演奏会の模様が展開されています。

戦争に固執したアメリカ政府と、反戦を訴える国民との「音楽の闘い」
実際にあったこの出来事を
戦争の愚かさを描いてきた手塚治虫が見事に表現しています。

決してハデな作品ではありませんが
手塚治虫が描く音楽漫画の傑作短編であると思います。

雨のコンダクター収録
手塚治虫漫画全集284巻 サスピション

サスピション Kindle版(試し読みもできます)

グリンゴ(2) (手塚治虫文庫全集) 


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続いて2作品目はこちら
「虹のプレリュード」

「虹のプレリュード」は、19世紀のポーランドが舞台。
世界的なピアニストになることが夢だった兄が心臓マヒで急死したため妹のルイズは、兄の遺志を継いで、兄になりすまし
ワルシャワ中央音楽院に編入します。

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そこで対照的で魅力的な2人の青年に出会い惹かれていくのですが
自分は女でありながら兄に変装しているので恋と友情、男と女の狭間に
揺れる複雑な気持ちになっていくんですね

ここら辺はリボンの騎士を彷彿させるジェンダーシーンが盛りだくさんで
手塚作品の男装ものが好きな方にはたまらない作品になっています。


そしてその恋の相手の一人はなんとあのショパン。
実在の人物と当時の社会情勢をリンクさせる手法はもはやおなじみ。
当時のポーランドの社会情勢と言えば祖国の独立問題に揺れ、
ショパンの心情も揺れるし登場人物の不安定な心情が見事に交錯していきます。

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「音楽を学ぶ学生たちの恋愛」「祖国を守る戦争」という狭間の中で
葛藤するルイズ
芸術か戦争か、はたまた恋愛か

愛する音楽、愛する祖国、そして愛する人
揺れる恋心とそれを阻む戦争の悲惨さを伝えた音楽漫画の傑作。

こちらは先の雨のコンダクターのような重厚な音楽描写ではなく
しなやかで美しい描写
音符が華麗に舞い踊る女性的で軽やかな魔法のような旋律は
まさに絵から音楽が聴こえてきそうな臨場感を感じさせてくれます。


美しい音楽描写と胸が熱くなる恋愛ラブストーリーに
容赦なく襲い掛かる悲劇の戦争描写

やはり戦争によって夢も希望も愛する人をも破壊していく
切なくも儚い驚愕のラストは
手塚作品らしいとも言える反戦へのレクイエムといえるでしょう。

間違いなく手塚音楽漫画の傑作です。

虹のプレリュード (手塚治虫漫画全集) 

虹のプレリュード (講談社漫画文庫) 

虹のプレリュード Kindle版(試し読みもできます)


ちなみにこちらは2014年にはミュージカル「虹のプレリュード」として公演されております。


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そして最後にご紹介するのはもちろんこちら
「ルードウィヒB」

これボク大好きな作品なんですよ、
マジで大好き。

ストーリーはあのベートーヴェンの物語です。

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残念ながら本作は原稿執筆中に手塚先生が亡くなったことで絶筆となってしまった作品ですが
残された原稿からは手塚先生の音楽に対する深い愛情が迸っています。

この溢れ出る創作意欲、抑えられない情熱はとても亡くなる間際のものとは思えないくらいエネルギーに満ちていますね。

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作品はモーツァルトなど実在の人物も登場し
若きベートーヴェンと交錯していく物語ですが
史実ではベートーヴェンとモーツァルトは一度会ったきり…
もしくは出会ったことすら怪しいといわれておりますが
そこは手塚節で重厚なドラマにアレンジされております。

物語の面白さもさることながら特筆すべきは「音の表現」
そのひとつにバッハの「平均律クラヴィーア曲集」

この曲を表現するのに
「まるで巨大なゴシック建築か分子の列のようにしっかりと組み立てられている」と描いていますがこれは音楽のプロが見たときに
バッハの音楽を知る人ならだれもが「バッハ」っぽいと感じるイメージ図であると驚いたそうです。

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プロが納得してしまう音楽の二次元的描写の巧みさは
さすが手塚先生、見事と言わざるを得ませんね。
文学的表現の「音」の存在感はまさに秀逸です。


そして
ベートーヴェンと言えば
「音楽を貴族のものから大衆のものにした」と言われている偉人でもあります。

それまで音楽というのは、貴族階級のもの、
皇帝の権力や権威を示すために使われており音楽家は、
貴族に雇われ、貴族の命令に応じて、貴族の娯楽のために
作曲していました。

今では考えられませんけど
当時音楽とは貴族に独占されたものであり
すごく閉ざされた文化だったわけであります。

その一般市民にとって遠い存在だった音楽を
広く一般大衆に広めたのがベートーヴェンであると言われているんです。

作中でもモーツァルトが貴族に頭が上がらず言われるがままに作曲する姿を見たベートーヴェンは
「ぼくは一生のうちにきっと、
ぼくの音楽の前に貴族をひざまずかせてみせます!」
と言い放ちます。

権力に逆らい大衆の娯楽として数々の音楽革命を起こしていくベートーヴェン姿はどこか手塚先生に通ずるものがありますよね。

音楽を貴族のものから大衆のものにしたベートーヴェン
漫画を俗悪なものから大衆のものにした手塚治虫

似てるんですよね。

実際手塚先生ご本人もベートーヴェンとボクは似ているところがあると仰っておられますし意識するべきところがあったんでしょう。


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そんなベートーヴェンの
人生最後の集大成「交響曲第9番」

誰もが知る時代の道標となった記念碑的な大作「第9」で
ベートーヴェンが伝えたかったことは、
「友人や愛する人のいる人生の素晴らしさ」と言われております。

絶望や苦しみもあるけどそこに歓喜があると…
これも手塚先生の作品全体に流れるメッセージと非常に似ていると思います。

このあと
作中でどのようにこの「第九」を手塚先生は2次元で表現したのか?
今となっては一生見ることはできませんが
めちゃくちゃ見たかったです。

手塚先生なら絶対に頭の中にこう描きたいという構想があったと思います。
ほんと残念ですね…


ルードウィヒ・B (手塚治虫文庫全集) 

ルードウィヒ・B 1 Kindle版(試し読みもできます)


未完という作品ではありますが
これも手塚音楽マンガの傑作のひとつとさせていただきます。

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ちなみにこちらは2014年に
舞台『「ルードウィヒ・B」として上映もされております。


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というわけで手塚音楽マンガ3選お届けしました。
如何でしたでしょうか・

手塚作品と音楽の深い関係
言語の壁を超えて広く人々に親しまれる文化として
音楽とマンガには共通している点があるのだと思います。

漫画家でもあり芸術家でもあったともいえる手塚治虫の音楽マンガ
ぜひその作品に触れてみて欲しいと思います。


手塚治虫マンガ音楽館 (ちくま文庫) 


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