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【映画所感】 シャドウ・イン・クラウド ※ネタバレ注意

長尺でじっくり魅せる大作や話題作が目白押しの中、上映時間83分の潔さと心意気だけで好印象。結論から言うと、贅肉を削ぎ落とした非常にタイトでソリッドな娯楽映画だった。

ワン・アイディアのB級アクション・ホラーと侮ってはいけない。80年代に流行った、SFオムニバス映画へのオマージュが随所に散りばめられ、映画オタクの戸口に立っていた頃の“蒼い感覚”が鮮明に蘇ってくる。

第二次大戦下、戦略爆撃機の機体下部に備え付けられた球形状の銃座の中に閉じ込められた女性パイロット、モード・ギャレット(クロエ・グレース・モレッツ)。映画の前半部分は、彼女の独壇場といっていいほどの一人芝居がつづく。

無線から聴こえてくるクルーとのやり取りは、剥き出しのセクハラと無自覚なパワハラを含んだ女性蔑視の見本市のよう。モードのいらだちは怒りへと変化し、抱える不安と緊張はやがて最高潮に達する。

閉塞した空間で次から次に襲い来る危機への対処、緊迫感が半端ない。アクションだけでなく、密室からの脱出ミステリーの趣も加味され、なんとも贅沢なつくり。

本作のストーリーは、乱暴に言ってしまえば『世にも不思議なアメージング・ストーリー』(1987)の第1話〈最後のミッション〉と『トワイライトゾーン 超次元の体験』(1984)の第4話〈2万フィートの戦慄〉を足して2で割ったようなもの。

〈最後のミッション〉は、敵機の攻撃により車輪を破損させた爆撃機が、胴体着陸を余儀なくされ、その際、機体下部のドーム型銃座に閉じ込められた主人公の運命と奇跡を描く。

〈2万フィートの戦慄〉は、飛行機恐怖症の男が、航行中の大型旅客機のエンジンを破壊しようとしているクリーチャーを、窓越しに発見したことから起こるパニックを描いたもの。

本作『シャドウ・イン・クラウド』は、上記2作の“良いとこ獲り”に加えて、いびつなマッチョイズムに支配された組織に、果敢に挑む女性兵士の姿を、クロエ・グレース・モレッツが凛々しく眩しく体現している。

戦前・戦中の抑圧された女性の立場に、正面からぶつかっていく姿勢は、性差別や偏見と戦う現代のジェンダー思想をも想起させる。男性優位主義につながるような従来の戦争映画からは、飛躍的にブラッシュアップされている。

とりわけ、エンドロールで流れる連合国の女性パイロットの記録映像の数々は、思わず身を乗り出してしまうほど、新鮮な驚きに満ちていた。当時実際に操縦桿を握り戦闘機や爆撃機に搭乗していた女性兵士の姿は、誰しも溌剌としていて掛け値なしにカッコいい。この映像を拝ませてくれただけで、本作の評価は、自分の中でどこまでも高みに向かう。

それにしても、生前の野村克也氏が述べた「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」の言葉が、今さらながらこころに沁み入る。 

笑顔で戦闘機を駆る女性パイロットに対して、竹槍で迎え撃つことなどできようはずもない。



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